[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
兄妹物語3 …………ツライ…………。 自分の息が、かなり熱いことにはもう気がついている。 背筋がゾクゾクするからには、結構な熱なのだろう。 加えて、人の多い電車内。 なんとか1つの空いた席に座ったはいいけれど、空気の悪さも手伝って、気分は悪くなる一方だ。 もう、前を見ているのも億劫になっていた。 「…………真奈美、大丈夫か」 「…………ん」 答えるものの、大丈夫じゃないことは、バレバレだろう。 ちょうどその時、私の隣の席が空いた。 紳一が座る。 それと同時くらいに、私は目を瞑った。 「もうすぐ着くから」 「うん…………」 首をマトモに立ててるのもツラくて。 コトン。 私は、紳一の肩に頭を預けた。 少し薄目を開けて、紳一を見ると、驚いたみたいだった。 …………いつも、あまり紳一に触れようとしないから。 「ごめ…………」 「気にするな」 頭を起こそうとしたら、すぐにそう返事が返ってきたので、甘えて、そのままの体制でいることにした。 たくましい肩が、なんだかやたらと恥ずかしかった。 ガチャガチャ……ッ 「ただいま……おい、大丈夫か?」 「ん…………」 「まいったな……今日、親父、出張で、お袋も遅いのか……とりあえず、寝てろ。なにか食い物持ってくるから」 「んー…………」 トントン、と階段を上る。 ……が、二段目でバランスを崩して、後ろにひっくり返りそうになる。 あっ、と思ったときにはもう遅くって。 片足は宙に浮いていた。 「…………俺がついていったほうが良さそうだな」 紳一が抱きとめてくれた。 かなり恥ずかしかったけれど、抵抗する力はなくて、そのままズルズルと部屋まで運ばれた。 その後すぐに紳一は下へ降りて行ったので、私はベッドに横になる。 しばらくしてから、制服だったことに気付き、パジャマを取りに、もそもそと移動を始めた。 コンコン。 「真奈美。開けるぞ」 「あ…………」 体に似つかないお盆を持って、紳一が入ってきて、タンスに向かっている私と目が合う。 「…………何やってるんだ」 「パジャマ、探してたんだけど……あぁ、そういえば、お母さんが洗ってたかも……」 まだ、洗濯物は取り込んでいないはずだ。 ベランダに向かおうとするが、でっかい手でそれは阻まれる。 「……いいから、寝てろ。俺が取ってくる。……りんご、剥いといたから」 そう言って、お盆をサイドテーブルにおいて、去っていく。 お盆の上のりんご。 ウサギ型でもなんでもない、ただ剥かれたりんご。 …………それでも、食べやすいように、小さく切り分けてある。 ショリ、と一口サイズのりんごを口に運んだ。 水分が、熱くなった体に浸透していく。 「真奈美、これ」 今度はノックもなしに入ってくる。 パジャマを私に渡す。 りんごをゆっくりと食べている私を見て、額に手を伸ばした。 スポーツウォッチがぶつかる。 「…………やっぱり、結構高いな……体温計どこにあった?」 「ん~…………わかんない……」 「…………とりあえず、寝てろ」 「うん……着替える……紳一も着替えたら?」 のそのそと動いて、パジャマを引き寄せる。 紳一も、腕時計をはずしながら、部屋の外へ出た。 (いつごろから、意識しだしたんだっけ…………) ぼんやりと、虚空を見つめたままそんなことを思う。 小さいころからブラコンだった。 でも、いつごろから『男』として見始めた? (あぁ、そうだ……紳一が中学卒業したときだ……) 寒い日で。 在校生として送る側だった私。 たまたま、第二ボタンをもらった女生徒を見てしまったんだ。 それが、紳一で。 渡すところを見て、なんだかすごく苦しい気分になったのを覚えてる。 そのときは、まだ恋とは思わなくて。 …………思いたくなくて。 何度も心の中で否定したんだ。 だから、そのときはまだ『お兄ちゃん』って呼んでいた気がする。 そうして、学校が離れて、少ししたときに気づいたんだっけ。 あぁ、好きなんだって。 「…………やめよう、こんなこと考えるの」 滅多に出さない、高熱に浮かされているから、こんなこと考えるんだ。 そうだ、そう思うことにしよう……。 すっ、と睡魔が襲ってくるのを感じた。 目が覚めて、時計を見たら、もう10時を過ぎていた。 パジャマは汗に濡れていて、ベトベトしたし、なによりのどが渇いていた。 起き上がろうとすると、額から濡れたタオルが落ちた。 いつも紳一が使っているタオル…………。 消した覚えのない電気が消えてることにも気づいた。 「……相変わらず、甘いんだからなぁ……」 ちょっとだけ笑って、タオルを手に、台所へ向かう。 リビングに、紳一がいた。 でも背を向けていて、気づく気配はない。 (電話中か……) 足音を忍ばせながら(起きていると知ったら、きっと怒られる)私は台所へ向かう。 「…………悪いな、日曜日は、部活なんだ。……祝日は、練習試合が入ってるんだよ」 紳一の声が聞こえる。 …………きっと、女の人から誘いを受けているのだろう。 申し訳なさそうな声で、話す。 「あぁ…………すまない。それじゃ」 受話器を置いて、ふーっと息をつく。 私の存在には気づかないみたいで。 なんだか、無性に寂しくなった。 ふ、と息を吐くと、ゆっくり音を立てないように、2階へあがる。 でも、気づかれて。 「真奈美?……起きたらダメだろ」 「ん、のどが、渇いちゃって…………」 「そうか、水、置いておくの忘れてたな……」 「タオル、ありがと。大分楽になった。…………明日、外出れるかも」 「バカ言うな、こんな赤い顔して。…………ほら、さっさと寝てろ」 「ん………でも、私、明日のオフ、泉と映画に行く気だったんだよね……」 「そんなの、俺が今度の祝日にでも連れてってやるから」 …………あれ? さっき、祝日は練習試合だって。 怪訝そうな顔をした私を見て、具合が悪いと思ったのか、紳一はリビングの電気を消した。 「もう寝ろ」 そういえば、練習試合の日程を、マネージャーである私が知らないはずがない。 …………もしかして、嘘ついた?あの電話の人に。 口元に笑みが浮かぶ。 紳一が見ていないのが、救いだ。 「高木には、メールでも打っておけよ?」 「…………うん」 私は、頷いた。 紳一にとって、私は『特別』 『血』という最大にして、最悪なつながりを持った人。 ……この世でたった1人の、血を分けた兄妹。 ―――私の、想い人。 熱に、浮かされているからだろうか。 なんだか、考えること、行動すること、すべてが変で。 自分が何を行おうとしているのか、わかったけど。 止めることが出来なくなって。 「紳一…………」 「なんだ?」 「…………これから言うこと……熱に浮かされてるんだと思ってくれてもいいから」 言葉を区切った。 熱い、息を吐く。 紳一がこちらを振り向いた。 「…………好きなんだ」 「…………は?」 「好きなんだ、紳一が。……わかる?この意味」 目を見開いて私を凝視する紳一。 ヤバイ。 「忘れて、いいから……オヤスミ」 それだけ口にすると、私は部屋へ入ってドアを急いで閉めた。 そして、その場にズルズルとへたり込む。 ヤバイ。 言ってしまった。 あの顔。 絶対、変に思われている。 言わなきゃよかった。 言わなければ、良かった。 知らずに涙がこぼれてきた。 ベッドにもぐりこんで、風邪による寒気と、してしまったことの後悔から。 私は震えた。 明日、目が覚めたとき、すべてなかったことになったらいいのに。 |