壊れるほど愛しても




チュンチュン……

雀の声で目を覚ます。

「朝、かぁ……」

前髪をかきあげながら、は目をテーブルへと向けた。

そこには死んだように眠る幼なじみ―――否、『好きな人』がいた。

眠っているのは、通称『眠れる森の王子』こと流川楓。バスケットボール部のエースで、湘北高校女子生徒の憧れの的だ。

流川は、テスト前によくの家に来る。

赤点を取ると、部に差し支えがあるらしいので、こうしての家に来ては勉強をともにするのだ。もちろん、とて頭はいい方ではないが、いつも寝てばかりの流川よりは、デキる。

〜……起きてよぉ〜……学校、遅刻するよ〜?せっかく部活ないのに」

ゆさゆさゆさ……

「ぐ―――……」

〜……」

ゆさゆさゆさゆさ……ぴくっ。

(あ、起きた)

「何人たりとも、俺の眠りを妨げる奴は……」

「はいはい。はやく支度しなさい。ほら、ご飯作っといてあげるから」

流川は一人暮らしだ。の家は共働きで、両親とも海外へ飛び回っている。なので、家の中は二人っきり。料理なんて、まともにできない流川。必然的にが料理を作ることとなる。

「…………」

「ほら。早く〜!」

放っておいたら、立ったままでも眠りそうな流川を、はぐいぐいとリビングから追い出した。

パタン、とドアを閉めて、ちょっとブルーになる。



気づいてほしい。



でも、気づかないで。



あなたを好きな、このキモチ。



どうすれば、伝えられる?



どうしたら、困らせない?



……黙っているしかないの?



毎日の心の葛藤に、はまた同じ結論を出して溜め息をついた。







「……おかわり」

「食べ過ぎ。少しは遠慮しなさい」

「…………おかわり」

「〜〜〜!はいはい!」

大きい流川専用の茶碗に、これでもか、と山盛りにご飯をのせる。……もちろん、嫌がらせだ。

「……のせすぎ……」

「食べれるでしょ?楓くんなら」

「ム……」

一言唸ると、流川は茶碗のご飯と格闘し始めた。は、ごちそーさま、と形だけの挨拶をして、流しに自分の皿を持っていく。てきぱきと皿洗いをして、制服の上着を着ると、まだ格闘している流川に一言告げた。

〜?私行くからね。食べたら流しにおいといてよ?」

「待て。……俺も行く」

「へ?ご飯は?」

「もう食った」

まさか〜、と軽くいいながら、茶碗を覗き込んでみると、先ほどまでは、まだ山のようにあったご飯が、いつの間にかきれいさっぱり消えていた。

「………マジ?」

「俺に不可能はない」

「はいはい。……じゃ、流しにおいといて。……もち、自転車乗せてくれるよね?」

「……はぁ〜……」

「むっ!何よ、その溜め息!」

「イヤ……重いものが……」

「失礼だな!」

家を出て、鍵を閉める。流川の薄っぺらいかばんを抱えて、は自転車の後ろへとのった。

。ちゃんと、つかまってろよ」

「は〜い!」

だんだんとスピードが上がっていく。

冷たい風が頬をなでた。

なんだか、心も冷たいような気がした。





さん?」

は、校門で見知った声に振り向いた。

「あれ?桜木花道〜!早いじゃん!どーしたの」

の声に、桜木はポケットに両手を突っ込んで胸をそらした。

「わっはっは!天才ですから!……ところで、今日、ルカワの後ろに乗ってませんでした?」

「あ、乗ってたよ〜。あれ乗ると、早いし〜。見てたの?」

イヤ、と桜木にしては珍しく口篭もった。

「何?珍しいじゃん。桜木花道が」

「いや〜……とにかく、さん。今日は気をつけてくださいね!それじゃ!」

見つけた桜木軍団とともに去っていく桜木。は不思議に思いながらも、いつもと同じように学校へと入っていった。

「……おぉ」

ロッカーで下駄箱を開けると、そこからは大量の画鋲。びっくりして、その場に固まった。

「あれ?ちゃん?どうしたの?」

「わ、小暮さん。なんか、古典的嫌がらせが……あまりにも古過ぎて、固まってたんですよ」

バスケ部の元副キャプテン、小暮が覗き込んで顔をしかめた。

「あ、ほんとだ。……怪我はないの?」

「開けたら、ドバ―――って……一体、どうやって入れたんでしょうねぇ?」

「そこに注目がいく、ちゃんがすごいと思うよ……」

とりあえず、二人で画鋲を全て拾って、拾い終わった後、小暮は自分の教室へと戻った。は、上履き自体に問題はなかったので、ちゃんと上履きを履いて教室に行った。





それから四時間。授業中は問題もなく、ただ時間だけが過ぎていった。





そして、それは昼休みに起こった―――。



はお弁当を誘う友人をやんわりと断って、屋上へといった。

今日は、わいわい騒ぐ気がしなかった。

一人でもくもくと弁当を食べていると、突然背後に影を感じた。すばやくぱっと振り返る。背後でバケツを持った手がびくっと止まった。

さすがに水はかけられたくなかったので、はじっと相手から目をそらさずに、ゆっくりと立ちあがった。

「……誰?……の親衛隊じゃないでしょ、あなた」

「…………」

図星なのか、答えたくないのか。

その女生徒はうつむいた。

にはわかっていた。彼女が親衛隊ではないことを。

妙な話だが、流川と近くにいるに、嫌な視線を向けてくることもあったが、あの親衛隊はこんなにあくどい事はしなかった。もっと、正々堂々と、それこそ鼻先にびしっと指を突きつけてくるように、戦い(?)を臨んでいたのだ。

「……アナタナンカ嫌イ……」

「……なんで?とは聞かないよ。が好きなんでしょ?……私が嫌い?……そう思ってくれるほど、と私は良い関係じゃないよ?……頑張ってみれば?」

ぴくっと女生徒の体が反応する。ぱっとうつむいていた顔が上げられた。瞬間、その顔が恐怖に染まる。

不思議に思って、考えてみると、ふと自分に影がかかっているのに気づいた。

ゆっくりと振り返ってみれば、乱れたシャツに、大きいズボンのポケットに両手を突っ込んだ、普段と変わらない流川がいた。……しかし、その顔は、いつにも増して不機嫌そうで……見れば、顔だけとはいわず、全身から不機嫌なオーラを出していた。

(しまった……!)

ばっとうつむく。

考えておくべきだった。

屋上が流川の寝場所である事を。

当然、ここでの会話を全て聞かれていることも考慮するべきだった。

そろっと、流川を盗み見る。その状態の流川を『まだ』何度か見たことのあるは、逃げ出さずにすんだが、さすがに、女生徒はきつかったのか、恐怖の叫びをあげて目にもとまらぬスピードで駆け出していってしまった。

二人きりにされたは、いつもよりも数倍長い沈黙に、だらだらと冷や汗が出てくるのを感じていた。

「……おい……」

「……はい……」

「どーゆーことだ」

「……何が?」

びりびりと空気が振動する。

突如、ぐいっと顎が引き上げられた。

「目、あわせろ」

漆黒の瞳が、深くの瞳を捕らえた。

その瞳が怖くて、目をふいっと横にやると、今度は、至近距離で目と目を合わせる。

「……どーゆーことだ」

吐息が、顔にかかった。

再度の問いにも、は口をつぐんだ。

「――――!」

その唇に重ねるようにして、被さった流川の唇。

動こうにも、肩をぐっと掴まれているので動けない。

「――――やめて!」

どんっと突き飛ばして、はぁはぁと荒い息をした。溢れそうになる涙を抑えるのに必死で、流川の表情なんて見れなかった。

「……壊れるほど」

普段はあまり喋らない流川が喋っている、ということで、は涙のことも忘れて、流川を見た。

流川は、振り向いた顔から目を離さずに喋りつづける。

「壊れるほど、愛しても、伝わらない。……俺は、どれだけ愛したら、お前に伝わる」

途切れ途切れに語るその言葉に。

自分を見つめるその瞳に。

……温かく包む、その腕に。

涙が溢れ出した。

「……俺だって、人間だ。嫉妬だって、する」

「…………」

「……好きでもない奴の家なんかに、いかない」

「…………」

「……愛してなかったら、自転車なんかに乗せない」

「……も、わかった……から」

は、さすがに恥ずかしくなって、ぎゅ、とシャツを引っ張った。

口下手な流川らしく、ストレートに想いを告げてくる。

……じっと瞳が聞いてくる。

『お前は』と。

涙が溢れる瞳を細めては笑った。

「……あなたに会えた事……幸せの後先」

声高らかに歌う。

「あなたに会えた事、信じ合えてるもの。そのひとつひとつに心震えて。

さえぎるもののないあなたへ続く道の上で 今 愛を束ねて届けたいと願う」

流川は、いつものあの表情に戻っていた。

不機嫌オーラが見事に消え去っている。

「……この曲のタイトル、知ってる?」

涙を拭いながら、は言った。コクン、と流川が頷く。

「……BE WITH YOU……」

二人の言葉がきれいにそろう。

「あなたと一緒に」

「…………」

「『』と一緒に、私は生きていきたいです」

無言で、流川はを抱きしめた。



その日から、は、『幼なじみ』から『恋人』へと変わった。





あとがきもどきのキャラ対談



流川「……こんなのは俺じゃねぇ」

銀月「わかってます。……あんたはこんなに喋りません」

流川「……俺じゃねぇ……」

銀月「原曲はGLAYの『BE WITH YOU』となぜかSIAM SHADEの『1/3の純情な感情』です」

流川「……無視しやがったな」

銀月「ヒューヒュヒュー♪(口笛)」

流川「……行くぞ、

銀月「あ。……感想くださると泣いて喜びます」