十字架に祈りを チッチッチッチ…… 「遅い……」 は1人呟いた。 時刻はすでにもう1時を回っている。 ちなみに、夜中の1時だ。 普段は、なにがあろうと『9時』前に帰る夫、三井寿が帰ってこない。 飲みにいくにも絶対に連絡を入れるはずだ。 「遅い……」 テーブルに頬杖をついて、用意されている料理を見つめる。 作ったのは、8時前。 いつもの時刻に帰るなら、丁度良い時間だ。 一緒に食べようと思って、自分も食事を取っていない。 広い家に、灯りがついているのはリビングだけ。 いつもは元気なにも、夜中の1時に広い家で1人というのは、かなり辛かった。 ……幽霊の類は、大嫌いなのだ。 なまじ霊感がちょっと強いために、視えるものは視える。 先ほどから、理由のわからないガタッという音が続いているので、いいかげん泣きそうになっていた。 プルルルルル…… けたたましく鳴り響いた電話に、一瞬ビクッとするが、すぐに飛びつくようにして、は受話器を取った。 「もしもし!?」 「わ!?……もしもし?ちゃん?ビビらすなよ、もう」 は、その声に顔を赤らめた。 「あ、ごめん。リョータ。……どうしたの?こんな時間に」 いつもは何でもしゃべる宮城が珍しく口篭もった。 「?なに?」 「いや……三井サンいるかな、と思って」 は訝しげな顔をする。 「寿?まだ帰ってないけど……こんな時間に一体何?……今、リョータ、どこにいるの?」 「駅前」 駅から、の家まで、5分ほど。 その言葉を聞き流すほど、は強くなかった。 「リョータぁ……今から、来てくんない?……かなり、この時間に1人は怖いんだけど……音、するんだけど……」 「でも、三井サンに見つかったら何されるか……」 「帰ってこない寿が悪い!……ねぇ、お願い。来てぇ〜……怖いよぉ〜……もうすぐ、2時だし」 「……しょーがねぇなぁ……」 ぶつぶつといいながらも、宮城は来てくれるらしい。 きっかり5分後、チャイムが鳴った。 「……リョータ?」 相手はわかっているが、とりあえずドアチェーンをかけたままでドアを開く。 「おう。……大丈夫?」 へにゃっと表情がくずれた。 「怖かったよぅ〜……」 チェーンをはずして、涙目を宮城に向ける。 スーツ姿の宮城は、座り込んだに手を貸す。 「で?何があったの?」 「だって、もうさっきから、ガタッガタッてワケわかんない音はするしさ、丑三つ時だしさ、寿は帰ってこないしさ〜!!!」 「ったく……結婚しても、全然変わらねぇんだからな……ほら、立てよ」 「結婚しても、怖いものは怖いんです〜!」 宮城は、ぐいぐいとリビングに押しやるようにしてを歩かせる。 を座らせると、自らもイスに座る。 「……三井サン、まだ帰ってないの?」 「ん……あ、ご飯食べる?」 「もらう。……いや、さ。なんか帰りに三井サン見かけたからさ……」 その言葉に、の表情が変わる。 「どこで!?」 うっと、宮城は詰まる。 ずずいっとは近寄った。 「ど・こ・で!?」 「……ホテル街で……」 「はぁ!?」 「いや、そんなに怖い顔されても……」 「で?誰かと一緒だった?」 「……いや」 「ほ・ん・と・う・に?」 は、更に詰め寄る。 「……女の人と一緒でした……」 の目に涙がたまる。 「……信じらんない!……かよわい妻を残しといて、何やってんの!?」 「……かよわいかどうかは知らないけど……ちょっとおかしいよな」 「……こーなったら、浮気でもしてやろうかな……」 ぼそっとが呟いたのを、宮城が聞き逃すわけもなかった。 「オレとする?」 不敵な笑み。 「リョータ、何言って……ん!?」 濃厚なキス。いつもの慣れ親しんだ唇の感触とは違う。はうめき声を漏らした。 「リョータ!?何すんの!?」 「浮気、するんだろ?オレと、しよ」 スーツの上着を脱ぎながら、宮城はを床に押し倒す。 「リョータ!悪ふざけは、いい加減に……」 「悪ふざけじゃないよ。……高校からずっとだ」 「へっ!?」 「ちゃんも無用心だぜ?真夜中に男1人家に上げてさ」 宮城は、ひょいっとを持ち上げて、ソファへと運ぶ。口をふさいだまま、部屋の電気を消した。 白いハイネックのセーターの上から胸をまさぐる。 「リョータ!」 抵抗は、意味がない。 何が起こってるのだろう。理解の範疇を超えている。 確かに無用心すぎた。いくら怖かったとはいえ、夫ではない男を、誰もいない真夜中の家に上げたのだから 嗚咽をあげ始めた頃、部屋の電気がパチッとつけられた。 セーターの下のブラウスをかき集め、涙のたまった瞳で見れば、顔面蒼白の三井の姿があった。 「……オイ、宮城……お前、なにやってんだ……」 ふい、と顔をそらす宮城。 つかつかと歩み寄って、ぐいっと胸ぐらを掴みあげた。 「何やってんだ、って聞いてんだ!」 「三井サンが悪いんスよ……が、怖がりなの知ってるくせに、こんな時間まで、なにやってたんですか!?……大方、どこぞの女とホテルでよろしくやってたんだろうですけどね!」 「ホテル?……なに言ってんだよ、宮城」 「知らない、じゃ済まされませんよ。……俺、見たんですよ。ホテル街で女といるところ」 「ホテル街……あぁ、そうか。お前、あそこの場面を見たのか。ふーん……で、あんな行動に出たと……宮城、後で事情は説明すっから、今はとにかく帰れ」 三井は、なにもかも理解した、と言う感じで、いつものにやっという笑みを浮かべた。 「んな……なに言ってるんですか!事情も聞かずに、帰れるわけないじゃないですか!」 「とにかく帰れ。今すぐだ」 「ちょっ……寿!」 「はいいから」 「な!」 宮城は、三井のその瞳に蹴落とされると、しぶしぶ上着を持った。 「……絶対、後で説明してくださいよ」 「あぁ」 パタン、とドアを閉めて宮城は外に出る。 それを見送った後、三井はくるりと振り返った。 「……?」 ボトボトとは涙を落としていた。色々起こりすぎて、聞きすぎて、涙腺が壊れたみたいに涙が流れて行く。 「そーか、そんなに怖かったか。……悪かった」 涙をふこうとする三井の手を、ばっとは振り払う。 「幽霊も怖かったけど……寿が帰ってこないんだもん!……しかも、女の人とホテルにいるって言うし……もう、一体なんなの!?」 は、うつむいてガタガタと体を震わせた。 三井は、近寄って、一際小さく見える妻を抱きしめた。 「悪い……あの、な……その……これ、買ってたんだ……そこ、宮城に見られたらしくて……あ、会社の女の子に教えてもらったんだけど……」 そう言って、ポケットから小さな包みを出す。 開ければ、十字架のネックレス。中央には誕生石のが埋め込まれていた。 「……なんで……?」 「いや、クリスマスも試合で一緒にいられなかったしな……プレゼントも結局うやむやになっちまったし……かといって、高いもんも買えないし……コソコソ金貯めてたら、こんなにのびちまって……悪かったよ」 「……あり……がとう……」 三井は、珍しく素直な妻に、からかいの言葉を浴びせようと、うつむいている顔を盗み見る。 そして、絶句した。 そこには、自分がたった今あげたばかりのネックレスを愛しそうに抱きしめて、目から嬉し涙を流す妻の姿。 先ほどまで悲しげに揺れていた目が、綺麗な透明度に包まれていた。 その姿に、三井が理性を止められるはずがなかった。 「んっ……ふ……」 強引にその唇を奪うと、ソファに押し倒す。 ネクタイを緩めながら気づいた。 首筋に数個の紅い跡。……先ほど、宮城がつけたものだ。 それに、ふつふつと怒りの感情が湧く。 「……許せん……」 「へ?……んんっ!」 三井の指が、の口内を侵す。かき回すと、ちろちろとあたるの舌がかわいらしくて、更に宮城への怒りの感情が増大する。 印のついたところに、唇を当て、強く吸う。唇を放せば、更に濃く真紅の所有の印がついた。 「んんっ……んっ」 口を開けなくて苦しそうな喘ぎ声が聞こえる。 全ての印を自分の所有印にすると、ようやく口内から指を抜く。 「……はぁっ……ひ、さし……苦し……あっ!?」 三井は、不意にの秘所を舌でつついた。 は、その耐えられない快感に泉から愛液を溢れ出した。 「あぁん!やぁっ……やめ……」 「やめていいのか?」 舌を、幾度となく出し入れする。柔らかいものが与えるその刺激に、は次第に恍惚とした表情になってきた。 「や、やめちゃ……ダメ……あぁっ!」 「今日は、ヤケに素直だな……ほら、もうこんなに濡れてる」 「や、言わない、でぇ……!ぁん……ひぁっ……!」 指を、1本、2本。1本増やすごとに、の嬌声と淫らな水音はその大きさを増す。 三井は、すでに硬くなった自分自身をそこにあてがった。 「……挿れるぞ……」 の足を、ぐっと開かせて体を入れ込む。何度となく受け入れたモノとはいえ、その大きさに、はたまらず三井に爪をたてた。 「ひさ、し……!体、壊れ、そう……!」 「壊しゃしねぇ……絶対に……」 少しでもたくさんの部分が触れ合うように。 最奥まで突いて、引き抜いて、突いて。 「はぁっ……も、だめ……イク……」 「あぁ……、愛してる……」 は三井に深く爪をたて、三井は、それに続いて想いの杖をの中に放った。 「ね、そういえば、なんでホテル街なんかに『宝石店』があるの?……そんで、なんで夜中なの?」 まだ火照りの残る体で、は隣で腕枕をしている三井に話し掛けた。 「ん?……実は、その宝石店、会社の同僚がやってんだよ。……会社が終わった後だから、開店も夜中で……安くて品質もいいから、知ってるやつは知ってるんだけどな」 「ふぅん……大変だね、昼間も夜中も」 「馬鹿だな。1人でやってるんじゃないから、夜中だってやつは寝てるときもあるさ」 「あ、そうか。……で、なんでホテル街に?」 「土地が安いんだとさ」 「へぇ……なんか、作られたような話」 ぽかっと、軽く三井は妻を殴った。 「馬鹿やろう。俺がお前に嘘つくか」 その言葉に、はにっこりと笑って答えた。 「そりゃ、そーだね」 十字架は救いの象徴。 神に見守られて、人は生きる。 人に越えられない試練を神は与えない。 だけど、越えるのが困難だったら。 十字架に祈ろう。 神に祈ろう。 きっと神は、助言をくださる…… 翌朝――― 「……三井サン……昨夜の事、説明してもらいましょうか」 「おう、宮城……昨夜の件、何があったか話してもらおうか」 二人の間に火花が散った。 おそらく今夜、は十字架に祈るだろう。 愛しい夫と、大切な友人のことを…… あとがきもどきのキャラ対談 三井「……なんか、宮城がでばってるような……」 銀月「いーじゃん。あんた、いいとこ総取りなんだから」 三井「それはそうだが……相変わらず、エロいな」 銀月「この頃、裏書くのが楽しくて、仕方がないのよ!ほっといて!」 三井「……エロ……」 銀月「うるさーい!……さん。ここまで読んでくださってありがとうございます。感想くださると、銀月は泣いて嬉しがります」 |