グリード・アイランドは現実世界。

つまり、リアルタイムに時間は過ぎていく。

だけど、時が止まったかのようなこの世界では。

日付感覚がなくなるのも、また確か。

そして、この世界にも。

クリスマス、ってものがあるのも、また確か。






「うわっ!ちょっ、待っ……わぁっ!?」

「ガァァァ!!」

「うわー!!!」

今私が対峙してるのは、片目が潰れた『独眼タイガー』。
ここら辺に現れる中でも、わりと強い部類に入るモンスター……らしい。ヒソカはサクッと倒しちゃったから、あまりそう思えないんだけど。

、落ち着いて◆『独眼タイガー』の弱点は?」

「えーっと……えーっと……目と見せかけて、尻尾!」

「うん、正解

尻尾を握られると、へなへなと力を失ってしまうらしい。……どこぞの有名戦闘マンガの主人公か!(思わずツッコミ)
そんなわけで、弱点はわかってるのだからなんのことはない、尻尾をぎゅっと握ってしまえばいいのだけど……。

「……って、背後に回れなきゃ意味ないじゃん!」

動きもそれなりに早い上に、体も大きい(象以上!)から背後に回るのに一苦労。
どーすんの!と思って、ヒソカをちらっと見るけど、いつもの笑みを浮かべたまま、我関せずの状態。

わかってるよ。

自分でどーにかしろってことでしょー!

グッ、と両足に力を込めて、飛び上がる。
そのまま、独眼タイガーの頭を蹴って、背中にしがみついた。

「ガァァアアァッ!」

振り落とそうと身をよじる独眼タイガーに、ちょっとカッコ悪いけど、しがみつきながら少しずつ尻尾に近づいて―――ぎゅっ、と尻尾を掴んだ。

「ガァッ!」

短い咆哮を上げてから、ボンッと音が鳴る。

「わぁっ」

カード化したモンスターは姿を消すので、独眼タイガーの上に乗っていた私は、必然的に地面にドサッと落ちた。
しこたま打ったお尻が痛い……。

「イタタタ……」

尾てい骨をさすりながら這って行って、独眼タイガーのカードを手に取る。
入手ランクはD。……これでD……(泣)

「んー……ギリギリ合格、ってトコかな背中に攻撃が届かない、て言うことに気付いたからね本当は、一気に尻尾付近まで行って欲しかったけど◆」

「……次回は、狙ってみます……」

グダッ、とそのまま倒れこむ。……ちなみに、今日はモンスター討伐日。この独眼タイガーで、すでに4体モンスターと戦ってきたんだから……ものすごーく、疲れている。
疲れきってものすごい表情だろう私の顔を、ヒソカが覗き込んできた。

「そろそろ、ご飯にしよーか

「うん……お腹減った…………ブック」

ボンッ、とバインダーを取り出して、まずは独眼タイガーをフリーポケットにしまう。
その後に、違うフリーポケットのページから、今日のご飯を―――あれ?

「…………ヒソカ、ご飯がない…………」

「………………そういえば、ずいぶん食料買いに行ってないねぇ◆」

そんなのんびりしてる場合じゃないですよ!
ご飯がないー!ちょっ……お腹空き度は半端ないんですけどー!?

「買いに行くしかないねハイ、立って立って◆」

ぐいっ、とヒソカに無理やり立たされ。
疲れた体でマサドラまで向かうことに。

「…………あぁぁ…………」

思わず嘆いてしまうのも、許していただきたい……!







、何食べたい?」

マサドラに着く直前、ヒソカがそんなことを聞いてきた。
疲れで一瞬聞き逃しそうだったけど、ハッと意識を取り戻して考える。
ここのところずっとお肉続きだった……よな。

「久しぶりにお魚食べたいなぁ。いっぱい買ってこうよー」

、意外と魚好きだよね◆ウン、じゃ、魚をメインに買っていこうか

「やたー!でも、こーゆーとき、食料がカードだと便利だよね〜。腐らないし、たくさん買ってもかさばらない!」

「そうだね◆水も大目に買っていこう、重くないし

なんて、非常に所帯染みた会話をしながら、マサドラのぽわぽわとしたアーチをくぐる。
しばらく歩いて目に入ってきたのは、マサドラの住人たちの、不思議な姿。

「………………え?」

赤と白の、元の世界では、有名なその格好。
ご丁寧に、ひげなんてつけてるおじいさんなんかもいる。

「…………えぇぇぇえぇっ!?」

いつの間にか、街中がクリスマス一色になってる―――!(絶叫)

?」

「ちょっ……ヒソカッ!なんなの、このサンタクロースの増殖率は!?っていうかエェェ!?なんでクリスマス……!?こっちにもクリスマスあるの!?」

「クリスマス?あるに決まってるじゃないか聖書だってあるし、ユダもいるんだからね◆」

!!!そういえば、クロロが『ユダ』発言もしてたっけ……って!

「ってことは、待って……今日は……」

指を折って、日にちを数える。
アントキバの月例大会に出たのが……1、2……10日前。

そっから換算すると。

「今日、クリスマスじゃん……!」

重大事実発覚。

「うん、そうだね

そんなアッサリ!

「だって、所詮他人の誕生日だろう?ボクには関係ないね

「………………あー……」

そうだ、ヒソカはこういう人だった……。
ヒソカに、クリスマスのロマンを求めた私が愚かだった……いいよいいよ、今日は1人で心の中で『クリスマス・イブ』でも歌おう……ヒッソリ、心の中でクリスマスお祝いしよう……。

「…………◆」

「……うん?」

呼びかけられ、ヒソカの方を向けば、すぐ側にヒソカのドアップが!
わぁぁ、し、心臓に悪い……!

バックンバックン鼓動を打つ心臓付近に手を当てながら、1歩身を引く。

は、クリスマスお祝いしたい?」

「……え、いや、まぁ……それは……」

「なんで?」

「…………えーっと……特別な日、だし……?ヒソカと一緒にお祝いしたかったなー、って……」

クリスマスは恋人と過ごす―――とか甘い夢を見ちゃったりしたことは、ちょっと置いといて。

特別な日を共有したかった。
……だって、付き合って何ヶ月記念vvとかは絶対ないし、ヒソカの誕生日もまだまだ先だし……第一、イベントは多いに越した事ない。

すると、ニーッ、と何か楽しそうな笑みを浮かべるヒソカ。

「ヒ、ヒソカ……?」

「ウン考えてみれば、他人の誕生日は関係ないけど、と一緒に過ごせる特別な日ってことなら、ボクにもクリスマスは大いに関係あるよね

「……へ?」

ヒソカの手が私の手に触れる。
大きな手が、すっぽりと私の手を握り締めた。

「クリスマス、盛大にお祝いしようか◆」

つないだ手を上に挙げて。

ヒソカが、ちゅ、と私の手にキスをした。

…………怒涛の展開に、私は思わず口をぱかーっ、と大きく開け、その後、顔の熱さを実感した。






「ハイ、乾杯

「か、乾杯……」

そして気がついたら、私はヒソカと2人で、いかにも高級そうなレストランでディナーを取ってました。

ヒソカの行動は早い。
宿屋を取るとすぐに、服屋さんへ連れてかれて、ちょっといい感じのおしゃれ着なんかを買ってくれた。……一体、いつの間にそんなお金を溜め込んでたんだか……!

「……おいしい?これ、ガルガイダーのソテーだって

「うん、おいしい……けど、ヒソカ!」

「ハイ、こっちはスノーフィッシュの蒸し焼き◆」

「あ、ありがと……って、ヒソカってばー!」

「ん?なんだい?」

ニッコリ笑顔にヒソカはカッコい……じゃなくて!

「こんな高そうなお店で……」

「気にしない気にしない

「でも……ッ!」



………………ダメだ、こりゃ。
この状態のヒソカには、何を言ってもスルーされる。

仕方ない……これはもう、思いっきり楽しむしかない。

ぱく、と一口ガルガイダーのソテーを食べる。

ヒソカが、楽しそうにこちらを見た。
……その顔を見ていたら、段々と私まで楽しくなってきた。不思議だ。

「……ありがと、ヒソカ」

楽しげだった顔が、不思議そうなものに変わる。
しっかりとヒソカの目を見て、私は精一杯の思いを告げた。

「素敵なクリスマスプレゼントだよ」

クリスマスに、好きな人と、こんな素敵な夕食をとれた。
それだけで、最高のクリスマスプレゼントだ。

「…………ありがとう」

ヒソカの、ワインを飲む手が止まる。

「……

「ん?」

「…………クリスマスから年明けまで、マサドラに滞在しようか◆」

「へ?……なんで?」

「ボクへのクリスマスプレゼントってことで……ダメ?」

「???まぁ、いいけど……?」

「ウンじゃ、早く食べて、宿屋に戻ろうか◆」

「…………うん……?」

―――この後、どうしてレストランでもっとよく聞いておかなかったのかと、後悔することになる。

クリスマスから年明けまで、約1週間。

私は、宿から外に出ることが、出来なかったのですから。

…………なんでかって?

……………………そりゃ、色々と、大人の事情で、ね…………!(泣)



年明けになって、私が寝ている間に外に出たヒソカが嬉しそうにゴンを見かけた、と戻ってきて、ようやく宿から出られたのでした。

……とんでもない年明けになったものです。