ホテルに着いた。広い部屋にベッドが2つのツインルーム。洗面所、浴室は別室。
ヒソカが、思いっきり高級そうなホテルに入ろうとしたので、私は慌てて止めて周辺の、リーズナブルな宿(そいでも、私にしちゃけっこうな金額)にした。
ハンターライセンスを使えば、ホテルではタダで泊まれるってのに、なぜかヒソカはあんまりそれをしない。なのに、ほんっと、お金を際限なく使おうとするんだから。
荷物をドサッと置いて、私は早速キルアとゴンにメールを送ることにした。
ヒソカが洗面台に立った隙に、通話口に向けて、早口で言う。
…………あのねー、すごい恥ずかしいのよ、音声入力って。まるまる内容を聞かれるわけだし。やっぱり、文字がわかんないって不便。基礎運動能力がUPするっていう、特別なオプションくれるよりも、文字が読めるとか、そーいう日常に関するオプションが欲しかった……。
『早速、メール送ってみました!番号ありがとねゥ私の番号、わかったかな?』
もらった紙の通り、番号を入力して、送信。
同じのを3個、送ってみた。
すぐに、ブブブブブ、とカブトムシの目が光る。
ピュイン、と羽が開いて、画面が現れた。
ズラーッとハンター語。
思わず、数歩後ずさりをしてから、恐る恐る手にとって、音声モード。
『おー!ところで、今日、空いてる?暇だったら、一緒に昼飯でも食わない?』
この口調はキルアだな……。
でも、この子たちと一緒にご飯なんて、面白そうじゃん!根掘り葉掘り、いろんなこと聞きたいし♪……うん、まだ9月1日。昼間だったら、なんにもないと思うんだよね。オークションも、確か夜からだったし。
「?なにか言った?」
「あ、ううん!…………あのさー、ヒソカ」
許可を得るために、にこにこと笑顔になってみる。
「……なんだい?」
……ものすごい疑いの目を向けなくてもいいじゃないかぁ。
「…………ゴンたちがね、一緒に昼ごはんでも食べないかって」
もう、出かける準備をしていたヒソカは、少し眉をひそめた。
ヨークシンは治安が良いとはいえない。それは、来る途中の飛行船の中で、みっちり教え込まれた。だから、1人で出歩くなとも言われた。
「お願い!!お願い〜〜!!ヒソカがこれから出かけるのも知ってるし、なんのために出かけるのかも知ってる!!しばらく帰ってこないんでしょ!?今から1人っきりなんてさみしすぎる〜〜〜!!ヒソカが帰ってくるまで、ここに1人でいろって言うの!?」
ヒソカはしばらく黙り込む。
「………………夕方までには帰って来ることァ」
渋々口を開いたヒソカの言葉に、私は笑顔になって頷いた。
「うん!」
「それから、ゴンたちと別れたら、すぐに帰ってくること
危ないことがあったらとにかく逃げることァなにか感じたらすぐに凝を使うこと◆それに、帰ってきたらボクにメールすることゥ寝るまでは、1時間おきでもいいからボクにメールすること◆メールの最後には必ずハートを入れることゥなにかあったら、すぐに連絡すること
」
「え?え?え?ちょ、ちょっと待って……」
「これを守れるなら、行っていいよ
」
なんだか、言ってる意味が良くわかんないのも、2つ3つ含まれてるけど、そんなもの、ゴンたちに再会できるなら、OKOK!
「うん!!!守る!」
「よしゥ……じゃ、ボクはそろそろ出かけるからね◆ここを出るときは、フロントに鍵預けていくんだよ?」
「は〜い!!ありがと、ヒソカ!なんかお土産買ってくる!」
「うんァボクもなにかいいものがあったら持って帰って来るよ◆……あ、そうそうゥ」
ヒソカはポンッと紙のようなものを、いつものように奇術で出した。
「ハイ、これあげる◆」
「なにこれ」
「ハンター語、わからないままだと困るだろ?五十音順に並べてみたんだけど……◆」
「…………!!ありがと〜〜vv」
「どーいたしまして
じゃ、行ってきますゥ」
「行ってらっしゃい!気をつけてね!ま、ヒソカはそんな危険な目には遭わないと思うけど。…………ウボォーギンさんに会っときたかったなぁ」
「…………それは、がもうウボォーギンに会えないと知ってるから、言ってることかい?」
…………ヤバ…………。
ポロリ、と言ってしまった。あの言葉じゃ、ウボォーギンが死ぬって思われても仕方がない。
「ま、いいやゥボクにはあんまり関係ないだろうし◆じゃ、行ってくるね
」
「あ……う、うん。いってらっしゃい」
ヒソカが手を振りながら、扉を閉めた。
うわー……ヒソカがあんな性格でよかったぁ。
さて、と。
ケータイとヒソカが持たせてくれたお金の入った袋、それに身の回りの品を少し、買ってもらったリュックに入れて、私は部屋を出た。
うふふふふ。ゴンたちといっぱいお話して、質問攻めにしよーっとvv
「…………なのに、なんで私がこんな質問攻めにされてるの!?」
「ねーねー、とヒソカってどこで会ったの?」
「私がゴンたちのことを聞く予定だったのに―――!!」
「なに悶えてんだよ。……で?いつからヒソカの教え子なんだよ」
「っていうかさ、アイツの内面知ってて一緒にいるの?」
「わ―――!!いっぺんに質問されても―――!!」
ゴン、キルア、レオリオの質問攻めに、軽くパニックを起こしかけ、私は叫んだ。
「じゃ、俺からね!……とヒソカって、いつ、どこで会ったの?」
「えーっと……1ヶ月ちょっと前……天空闘技場のすぐ近くの山道で会ったの」
キルアとゴンが、俺たちが闘技場出てすぐだ、と頷きあった。
「でも、なんで山道?っていうか、、どこから来たの?」
「……(ヤバイ、墓穴?)…………えーっと……話せば長くなるんで……驚くだろうし」
「大丈夫、長くなっても。俺たち、滅多なことじゃ驚かないよ。……あ、お姉さん。クリームソーダとポテトフライ追加で」
…………聞く気マンマンだよ、この子。
気がつけば、レオリオとゴンもそれぞれ追加注文をしてる。みんな、好奇心旺盛なお年頃なのね……。
ポリポリ、と頬を掻いてから、私もから揚げを追加注文するのを忘れない。
「あー……私、実はですねー……この世界の人間じゃないのですよ」
その言葉を聞いて、キルアがクリームソーダを噴出し、ゴンは目をぱちくりさせてポテトを床にこぼす。レオリオはというと……椅子から落ちて姿が見えなくなってた。
「異世界の住人!?」
「わー!声がでかいっつーの!!……いやー、すいません。そーそー。そこのダンジョンが難しくてねー」
私がいかにもゲーム的な内容の話をすると、周りの客は『なんだ、ゲームの話か』と私たちから注意をそらした。
「いや、別に隠す理由も何もないんだけどさ(私がこの先の未来を知ってるかどうかは別として)。ただ、やっぱり気持ち悪いかなー……と。……大丈夫?気持ち悪くならない?」
「すごい!すごいねー!!!へぇ〜…………ね、の世界ってどんな感じなの!?」
「また、この天然好奇心旺盛のガキが」
キルアがぽかっとゴンの頭を殴る。
レオリオが椅子に座りなおして、ゴンの質問をさえぎる。
「そのこと、ヒソカのヤロウは知ってんのか?」
「うん、ばっちり知ってる」
レオリオはそーか、と言うと、それきり何も質問してこなかった。
「で?がこの世界に来てはじめてあったのが、ヒソカだったって言うことか?」
「うん。それで、この世界のこととか、体術とか教えてもらいながら、一緒にくっついて旅してるってわけ」
「へぇ〜……ヒソカも、いいトコあるじゃん」
「ゴン、おまえなー……あいつのどこを見てそー言えるんだよ」
「だって、見てたらそう思わない?ヒソカ、すっごいのこと大事にしてると思うんだけど」
ちょっとゴン!あんた、恥ずかしくなるようなこと、サラサラ言わないでよ!!
「あー、まぁな。……で、。オマエ、体術習ってるとか言ってたけど……念も使えるよな?」
「うん。ゴンたちと同じようにウイングさんに開発してもらった」
「…………なんで、俺たちがウイングの野郎に開発されたって知ってるんだ?」
「…………えと、ヒソカに聞いたの」
ヤバイ、ヤバイ。
私はうっかり言葉を滑らす口に、気をつけた。
「は何系?……ちなみに、俺は強化系なんだけど」
「ゴン!……だからいいものの、他のヤツにペラペラ自分の能力バラすなよ?」
私だから……って、どういうことかしら(怒)
まぁ、戦闘能力限りなく低いのは認めるけどさ!
「あ、答えたくなかったらいいんだけど」
「別に隠したところで、なんにもないし。私はね、特質系なんだ」
「特質!?…………また、それはレアな能力だな……」
「なんだ、その特質ってのは」
「………………レオリオの馬鹿は無視していいぜ」
「おい、こらキルア!テメェ、もうちっと年上の人間をだなぁ……」
「どんな能力なの?」
どんな能力といわれても……一言で言い表しにくいんですが。
「んーっとねぇ……手っ取り早く言えば、本の中のものを呼び出すことできる能力、かな。その呼び出すものを使って、戦闘……するのかな。まだしたことないからよくわかんないけど」
ハハハ、と笑ってジュースを一口飲むと、3人が3人とも、へぇ〜と同じ言葉を口にした。
「……特質系って、やっぱ、変わってるんだねぇ……念の修行は、やっぱりヒソカから?」
「うん。ヒソカがお手本見せてくれるから、覚えも早かったし。…………でも、すっごい厳しいんだよ。笑って、厳しいメニュー言いつけるんだから。『じゃあ、次は練を2分間〜ゥ』とか言って!……終わったとたん、崩れるように倒れこんだよ、私」
「…………練を2分間維持できるってところが、まずすげぇよ……まだ念を覚えてそんなたってねぇだろ?筋力も……見たところ、そーあるわけでもないだろうし」
キルアが化け物を見るみたいに、私を見る。
まぁ、確かにこんな短期間での成長は、珍しいのかもしれない。けど、やっぱり、それは私の変な経歴(というか知識?)のためだと思う。特別なオプションもあるし。
「んー……なんかね、こっちの世界に来たときに、私特別なオプションもらったみたいでね……ヒソカいわく、アマチュアハンターと同じくらいの運動能力持ってるんだって」
「だって……って、他人事のように言うなよ!!」
「だって、本当に、そんな気が全然しないからさ。確かに、体は軽いし、運動能力もUPしてるけど……ヒソカとかそーいうもはや人間離れしたレベル見てるから、あんま、自分がすごいとか思わないし。それよか、君たちのほうがすごいと思うよ、私は」
「えへへ、ありがとー。ねぇねぇ、普段のヒソカってどんな感じなの?」
こうして、私たちは、しばらく和気あいあいと話したのだった。
「……おっと、もうこんな時間だぁ。……ごめんね〜、私、ヒソカから夕方までにはホテルに戻るように言われてるんだ」
「……また、過保護なことだな」
「しかもねー、帰ったらメールしろって言うんだよ?しかも、寝るまで1時間おきに!も〜……ヒソカだってそんな暇じゃないだろうに……」
「って、本当にヒソカに大事にされてるね」
「ゴン、もう恥ずかしくなるから、やめて〜〜〜」
「ハハハ。顔真っ赤だぜ?……ホテルまで送ってくか?」
「まだ、明るいし平気だよ。ありがと。…………あ、そうそう。私からの助言なんだけどね」
「ん?グリードアイランドのことか?」
そう、話の中で、ゴンたちにグリードアイランドのことについて聞き出していたのだ。
お金がなくて困っていることなどね。
だから、堂々と助言をすることが出来る。
「……まずは、電脳ページをめくってみなよ。競売について詳しくなると、案外早くお金が稼げると思うよ♪」
「あぁ、そうだな。……なぁ、メールするから、また近くに会おうぜ?」
「うん、いいよ!」
「オマエの色んな話、聞き足りねぇしな。まぁ、ヒソカのコトは抜きにしても、色々面白そうな話知ってそうだし。念能力ってのも見てみてぇしな」
「うん。私もゴンたちの話、また聞きたいな!……じゃー、今日はこの辺で。バーイバーイ」
私は、ルンルン気分で、カフェを後にした。
「…………ねぇ、キルア。なんで『近くに』なんて具体的なことに言ったの?キルアにしては珍しいよね」
「オマエのことだから、なんか気になることがあったんだろ?」
「…………あぁ……なんか、違和感……がな。……気づいてたか?アイツ、俺たちが話してない内容のことを、当然のように、1、2個話したぜ?あまりにも自然だったから、思わず聞き流しそうだったが。…………異世界から1ヶ月くらい前に来たってワリには、この世界のことに詳しすぎる」
「でも、あの子、悪い子には見えねぇぜ?」
レオリオの言葉に、隣でゴンが、激しく何度も頷く。
キルアがはーっと息を吐いた。
「そーなんだよ……だから、俺も混乱してる。ヒソカの野郎が、アイツを真綿でくるむように大事にしてるのも気になるしな」
「………………それが、悪い方向に進まなきゃいいんだがな」
レオリオの声が風に消された。