「…………いつの間に……」
私はガックリうなだれた。
ここは、空をぷかぷか飛んでいる飛行船の中。
確か、私は昨日闘技場内の部屋に居たと思うのですが……?
「オハヨウゥ」
「ヒソカ……これは、一体なにが起こったの……?私、飛行船の中で寝てた?」
「起こしたんだけど、起きなかったんだよ◆だから、ボクが抱えて飛行船に乗り込んだハンター証見せたら、すぐに入れてくれたからねゥ」
「妙なところでライセンス有効利用するんじゃなぁぁい!!……もう…………で?これはどこに向かってるの?」
「ヨークシンのある、リンゴーン空港ゥ」
……………………な ん で す と ?
「……ヨークシン?」
「そうゥもう、8月も下旬だし、そろそろ行かないとマズイからね◆」
ぎゃー!!!旅団ヨークシン襲撃!?ちょっと待って、まだ団長たちと会う、心の準備が出来てません!会ったとたんに殺られるなんてこと……有り得るんですから!!
「やー!!まだ殺られたくありません―――!!!」
「大丈夫ゥは旅団には会わせない◆」
「………………は?」
「旅団とは関わらないに越したことはないからねァ」
「ヒソカ、旅団のホントのメンバーじゃないしねー」
ピク、とヒソカの動きが止まる。
「……時々、不意打ちで君はとんでもないことを言うんだからゥ」
「あ、ゴメン!気に障った?」
「イヤ、別に◆ボクの能力を細かく知ってるのは君だけだよ、おそらくゥ」
「そーだねー。そーいう意味じゃ、私、すごい切り札かもvv」
ヒソカは何も言わずに、ただ私の頭を撫でる。髪の毛がくしゃくしゃになった。
そして、ニッコリ邪悪な笑顔で笑って。
「飛行船の中だからって、訓練に容赦はしないよ?」
…………………鬼ぃ!
恨みがましい私の目線をさらりと無視して、ヒソカは言う。
「じゃ、本を具現化してみてァ昨日、が倒れた後、自動的に本も消えちゃったんだ」
私はしぶしぶ言われたとおり、手のひらに意識を集中させた。
昨日はこのオーラの移り変わりがとても遅かったけれど、今日は意外なほど早い。
数秒でボッと音を立てて、本が出現した。
「…………おぉ〜……」
思わず、自分で感嘆の声を上げる。
1ページ目を開いてみた。
「どうだい?」
「…………ヒソカ、大変だ!」
「?」
「…………ハンター語だよ!私、読めない!!」
ヒソカの手からカードが零れ落ちた。
「…………ボクが読んであげるからァ」
ちょいちょい、とヒソカがカードで手招きする(カードだから、カード招き?)
飛行船内の窓枠に腰掛けていたので、その隣にちょこんと腰掛けた。
本を手渡す。
どうやら、私が触れていなくても、本が消えることはないようだ。
1ページ目。
ズラーッとハンター語が並んでいる。
不可解な記号を見ているようで、目の前がチカチカしてきた。
「『呼び声に答える神話』その名の通り、呼びかけに答える神話。呼び出したい生物のページを開き、手を当て、名前を呼ぶと、この世界に呼び出すことができる。生物に応じた効果があり、その種類はさまざま。呼び出すもののレベルに応じて、体力の消費量が異なり、効果も大きいものになる。ただし、1度に呼べるのは1体のみ。違うものを呼び出したいときは、いったん呼び出したものを返す必要がある。返すには、呼び出した生物のページを開いて、『返れ[』と言う必要がある。本が消えると、同じく呼び出したものも消える」
……お?おぉぉ?
「いったん呼び出したものは、返さない限り、この世界にとどまり続けるが、常に念能力者の体力は消耗する。また、能力者が死んだ場合は、強制的に本の中へ戻り、本は消滅する。
ここで1番注意しなければいけないのは、1度呼び出したモノのことである。1度呼び出したものをもう1度呼び出すためには、レベルに応じた猶予期間が必要となる。よって、連日呼び出すことは不可能。呼び出しが出来ないものに関しては、本の中のイラストが暗く曇る」
「ちょっと待って……整理するから」
簡単に言えば、本の中の生物を呼び出せるのよね。
呼び出す方法は、ページを開いて手を当て、名前を呼ぶだけ。呼び出すもののレベルに応じて、体力の消費量は異なる。
呼び出した生物の効果は色々ある。
でも、1度に呼び出せるのは1体だけで、元に戻すには『返れ[』と言うか、本を消さなければならない。それを行ってからでないと、新たなものは呼び出せない、と……。
呼び出したものは、返さない限りとどまりつづけるが、その場合は常に体力を消耗している、と。
そして、呼び出したものは、間を空けないと再度呼び出せない。呼び出せないものは、イラストが暗く曇る……。
うん、なんとか納得。
…………にしても、ややこしすぎるよ!誰だこんな能力考えたの!(スミマセン)
「名前、能力等は、イラストの下に明記。そちらを参照すること。なお、この本自体は、持ち主が意識を失った場合、消えてしまう。もちろん、自分の意志で消すことも可能。…………どう?わかった?」
「うん!……じゃ、早速1枚目めくってみよう」
パラリと捲ると、そこには見慣れた姿。
翼の生えた馬の姿だ。
「『天馬[』翼の生えた馬で、空を飛ぶことが出来る。速度は普通の馬並み。レベル1……だってゥ」
ペガサス……ペガサス、ね……。
うん、言ってみよう。
「…………えっと、ペガサス!」
手のひらが熱くなり、ボッと音を立てて、ペガサスが現れた。白い体が光り輝いている。
「…………う、わぁ……ど、どどど、どうしよう、ヒソカ!本当に出てきちゃったよ!」
「それがの能力なんだろう?……ほら、返す方法は?」
「え、えと……このページを開いたまま……『返れ[』!」
シュウゥ……と消えるように、ペガサスの姿が消えていった。
本を見ると、ペガサスのイラストに黒い霞がかかったようだった。
「へぇ〜〜〜……なんとなくわかった、使い方が〜〜!!」
「面白い能力だ◆使い方によっては、便利だなァ」
「えっと、ペガサスの次のページは…………って、読めないよ……ヒソカ、これ読んでくれる?私、自分にわかる文字で書き足していくから」
私は、ヒソカが言うのにしたがって、ページに書き込みをしていく。
「……ん、パナケイア……癒し、健康の女神で、病気、身体的損傷を瞬く間に治す。1度につき1回のみ。レベル3……おぉ。使えそうだね」
「…………さて、今日はこのくらいにしておいて、訓練を始めようかゥ」
「……あーい……」
「そうそう、◆」
「ん?」
着替えのため、お風呂場に訓練用の服を持って行こうとしていた私は、ヒソカの声に足を止める。
「リンゴーン空港につくのは、予定では9月1日の早朝なんだ…………昼にはボクは旅団と合流しなければならないァ……それまで、ヨークシンを歩いてみようか?」
…………それって。
お遊び期間をくださるということ?
「…………行く!行く行く!絶対行く!」
「そーいうと思ってたよ◆じゃ、その分訓練に勤しんでくれよ?」
「は〜い!!!」