涙が形成するモノ
「…………んっ……っだぁぁ……ッ……ダメだ……形成できない〜〜!!」
私は、汗びっしょりになりながら、情けなく倒れた。
夢で見た本を具現化するために、かれこれ1週間は同じようなことを繰り返している。
トランプを操っていたヒソカが、こちらを楽しそうに見た。……くそう、鬼畜め……。
「ん〜、やっぱり基礎的な念能力を高めないとダメみたいだね?」
「う〜〜〜…………頭の中にイメージはあるんだけどなぁ〜……」
「ま、焦らずにじっくり行くとしよう◆随分、長い間練を行ってたからね。少し休憩にしないか?」
「うん!」
私は、近くのテーブルについた。ヒソカが電話でルームサービスを頼んでいる。
「、スコーンとワッフル、どっちがいい?」
「ん〜……スコーン!!」
「了解ゥ」
ヒソカが電話を切って、私の向かい側に腰掛けた。
楽しそうに、私の顔を眺めてくる。
「……な、なに?」
「ん?教え子の著しい成長に嬉しさを感じてるだけさ」
「……あんま、成長した気がしないんですけど?」
「そうかな?随分、成長したと思うよ?……そうだ、、ゲームをしよう◆」
そう言って、ヒソカはトランプをシャッフルする。
「神経衰弱にしようか◆念能力使うのアリァ」
「はぁ?念能力……ってどうやって使うのさ」
「それはの応用力しだいゥ」
ジャンケンポン、とすれば、私がグー、ヒソカがパー。
ヒソカが無言で2枚捲る。これがあう確率なんて、ほぼないに等しい。当然のように、違うカードが出た。
「ハートのJとスペードの9◆ハイ、の番」
どこも念能力なんて使ってる気配はない。私は、普通に2枚捲った。スペードの3とダイヤの6だ。同じ数字も出てこない。
しばらくそう言った戦いが続いた。
一枚目に、前捲った数字が出てきたら、それを探して捲る。普通の神経衰弱だ。
「ヒソカ、これがどう成長に繋がってるの?」
「じゃ、そろそろやろっかゥ」
「え?」
「、気の済むまで残ったトランプを混ぜてよ」
「えぇぇぇ!?ヤダよ!そしたら、前に覚えたトランプがわかんなくなっちゃうじゃん!」
「それが狙いだよ◆……じゃ、ボクがやっちゃうよァ」
1度トランプを真ん中に集めてシャッフルした後、再度並べる。
あぁ〜、と私はため息をついた。
「…………うぅ〜……せっかく覚えたのがパア……」
「次はボクの番だよね」
ヒソカは捲った。カードはダイヤのJ。
先ほどまでなら、ハートのJがわかっていたのに。
「だから言ったのに……」
ヒソカはなんの迷いもなく1枚のカードを捲った。
ハートのJ。
「…………………え?」
「続けるよゥ」
再度捲る。またもヒソカはなんの迷いもなくカードを引き合わせた。
「う、嘘……なんで!?」
「さぁ、なんででしょう?ボクはマジシャンだからねゥ」
嘘だ。ヒソカはこんなところで、マジックの種を使うような人じゃない。
これは明らかに念能力を使ってるんだ。でも、普通の状態で見えない。
目に念のオーラを集める。
「……………!!!」
「気づいたみたいだね◆」
「カードに……オーラが……しかも、1つ1つ違う……!?」
「そう1〜Kの順に、段々とオーラの量を増やして、念をまとわせておいた◆これで、どのカードを選べばいいかわかるし、同じカードを間違えて引くこともないゥ」
「……………………なるほど……って、ズルいよ、それ!」
「最初に言っただろう?念能力を使ってもいいってゥ」
「あぅ……じゃ、今から私も使ってやる」
「じゃあ、本当はまだボクだけど、が捲っていいよァ」
「よ〜し……」
私は、よーく目を凝らして、ヒソカがまだオーラをつけていないカードを手に取った。
ダイヤの8。
そして、手を上に上げたときに、トランプ全体をヒソカのオーラより強く、自分のオーラで包むようにする。そして、一瞬にして消した。
周と絶の応用だ。
「へぇ……オーラをオーラで消すか」
そして、新たにダイヤの8に自分のオーラを付け直す。
もう1枚捲った。スペードの4。少し小さめのオーラをつけた。
う〜ん……でも、しっかりヒソカ見てるから、これがスペードの4だってわかっちゃうよな……まぁ、いいか。練習練習♪
「…………ボクの番か◆」
ヒソカはそう呟くと、こっちを向いてにこりと笑った。
う……この笑みは。
「まだまだ甘いよ、。ボクの能力を忘れたわけじゃないよね?」
ヒソカがおもむろに1枚引いた。
ハートのJ。さきほどダイヤのJを引いていたけれど―――オーラは、消したつもりだ。
だが、次の瞬間、カードが―――ダイヤのJがヒソカの手の中にあった。
「はい、これで1組ゥ」
次いでもう1枚。クローバーの6。次もいつの間にかヒソカの手の中に、ダイヤの6があった。
「…………ヒソカ、伸縮自在の愛、使ったでしょ」
「当たりゥもっとも、絶よりももっと見えない、『隠』を使ったけどね」
「…………全然見えなかったもん……」
「もう1度、凝を使ってみなよァ」
更に、目にオーラを集中させて、じぃっとヒソカの手元を見た。
細い細いオーラが、トランプ1枚1枚に繋がっている。しかも!!
「……最悪。トランプの1枚1枚に、数字まで書いてある……二個も念を描いておくなんて卑怯だ……」
これじゃあ、どこになにがあるかわかるわけだ……。
「そこまで見えれば、凝は完璧ゥ……ただの神経衰弱でも、いろいろとわかるでしょ?」
「うん……」
「じゃ、ボクの隠が見破れるほど、成長したってこともわかった?」
コクリ、と頷く。
いつの間にか、思っていた以上に私の実力は上がっていたらしい。
ヒソカがにっこりと笑った。
「うん、自分の力を自覚して、それを高めていけば、もっともっと上達するからねゥ」
「よろしくご指導ご鞭撻のほどお願いします、師匠!」
「うん、じゃ、おやつでも食べようか◆」
スコーンに生クリームをたっぷりつけて食べた後、私はまた手に集中を高める。
先ほどの集中力が、未だに続いているのだろうか。ズズッと大きな念が手に集中した。
「……くっ…………」
かなりの疲労感をともなっているけれど、ここで負けるわけにはいかない。
目を閉じ、瞼の裏で本を形成する。
表紙、ページ、背表紙…………。
イメージを、念に。
あたかも、今その本を手にしているかのように。
「おゥ」
ヒソカが小さく言ったのが、遠くの方で聞こえた。
ズズズ……と念が手のひらに移動していくのがわかった。
それと同時に、足の力が抜けそうになる。
最後の力を、すべて手に集中させて。
「………はっ………」
ボッと本が、出現した。
「……っはぁ……はぁっ……はぁ……ッ」
「よくできましたゥ……これが、の能力か◆後でじっくりと眺めることにしようァ1度引き出したからには、もう出し入れ自由だろうからね」
「うん…………」
「ちょうどいい頃だし、明日にはここを発とうか◆」
「う……ん……」
ぐにゃぁぁ〜と、視界がかすみ、暗転する。
意識が、完全にブラックアウトした。
「………おっとゥ」
倒れこんだを、ヒソカは軽く受け止める。
意識を失い、ぐったりとしている。当然だろう、このところずっと念を使い、今、その最大の力を発揮したのだから。
「………………本気で、ヤバイな◆」
(ボクの期待に、寸分の狂いもなくついて来てくれるゥ)
ゾクゾクとヒソカの背中を快感が駆け巡った。
わずか1ヶ月ほどで念を使い、操るようになった。おそらく、戦闘に使う、などという邪な考えが薄いからであろう。驚異的なスピードだ。
まだまだ体術はついていってないが、それでも面白いように吸収していっている。
特質系の能力も、面白い。
なにより。
この娘の成長を期待し、見守ろうとしている自分に興味がある。
『殺す』という概念は、まったくない。
ただ、この娘を傍においておきたい。離したくない。
初めて持った、1人の人間に対する固執。それは、クロロや、ゴンに持つ感情とは明らかに違った。
「くすくすくす…………この、ボクがねぇ……ゥ」
戦闘以外で、初めて『楽しい』と思える時間が作れた。
この娘が見せる表情、仕草に、とても興味をそそられる。
「明日からは、また、辛くなるからね……◆」
―――だから、今はゆっくりオヤスミゥ―――
そう耳元で囁かれたの表情は。
やり遂げた充実感で―――笑顔だった。