能力開花
念を使い始めて1週間。
私は自分でも驚くほどのスピードで念を習得していった。
なんだろう…………ヒソカがお手本を見せてくれるからかな、まるでやったことがあるみたいにイメージがしやすくて、すぐに行うことが出来る。
もちろん、ヒソカに比べたら足元の皮にも及ばないけど、まぁ、一応基本の念は習得したつもりだ。
練を習得するのに手間取ったけれど、ヒソカが練を行うのを見て、タイミングを知り、なんとかオーラを増幅することができるようになった。1回タイミングを覚えてしまえば、すんなりと後は出来るようになった。練の応用、凝もオーラを目にためるイメージでなんとかクリアできたし。
私が練の訓練をしていたときだった。それを見ていたヒソカが、ついにグラスを持ってきたのだ。
「今日から、『発』を行おうァまずは、資質を知るところからだね◆……水見式を使おうかゥ」
グラスに水を次いで、葉っぱを一枚浮かべた。
私は、グラスに手を近づけ、練を行う。
水の量も増えず、葉っぱが動くこともない。
じゃ、変化系か?と思ったそのとき。
パンッ!
小さな音を立てて、グラスが壊れてしまった。
こぼれた水がテーブルを伝って、私の足に落ちる。
「…………これは珍しいァ特質系かゥ」
「…………特質、系?……って、なにができるか、まったく持って不思議な系統じゃん!」
「その分、レアなんだよ◆……能力に、なにか思い当たることはないかい?」
「なにかって言われても…………」
念能力なんて、使ったことがないからわかるわけがない。
そもそも、クロロとかネオンとか、どうやって自分の能力を発掘したんだろう?
「ん〜……自分の能力がわかるまでは、覚えやすい具現化系と、操作系をメインに訓練しようかゥ」
「ういっす。…………でも、実は結構疲れてるんだけど」
疲労感たっぷり、
ずぅっと練をしているのは疲れる。ヒソカみたいに化け物級のオーラを持ってるわけじゃないんだから。
「そうだなぁ……今日は大分力を使ったからね早めに終わりにしようか◆」
「やった〜!!」
私はその言葉と同時に、絶の状態にして、床にひっくり返った。
汗びしょびしょで気持ち悪いけれど、この分じゃ、しばらく立てないだろう。目を瞑って、絶のまま、疲労が回復するのを待つことにした。
「…………、このままだと絶対寝ちゃうから早くお風呂入りなよ?」
「ん〜…………」
「……また、返事だけしてァ連れてっちゃうよ?」
「連れてってくれるなら、本望です……」
ぐでん、と寝転がったまま答える。
だって、練を続けるのって、ずーっと全速力で走り続けてるようなものなのよ!?歩くのはおろか、立つのさえツライっつーの!
ふわ。
「………………あ?」
「お風呂に入らないで、後で大騒ぎするのは君だろう?」
………………
チョットマッテクダサーイ←片言
私、今、ヒソカさんに横抱き(通称お姫様抱っこ)にされてます?
………………………………………。
「うっぎゃ〜〜〜!!!」
「暴れると落ちるよ?」
「いや、それ以前になんで私、ヒソカに抱っこされてるの―――!!」
「だって、が動かないからァ」
確かに動かなかったけどさ!
いいの!?こんなサービスしてくれちゃって!!
浴室のドアを開けて、ふわりと私は地面に降り立った。
「お風呂の中で寝ないようにねゥ」
「…………………うん」
今ので、バッチリ目が覚めてしまいましたよ。
その夜、変な夢を見た。
久しぶりに見る、夢。
今までは訓練のせいで、深く眠っていたので夢を見ることもなかった。
夢の中で、私はたった1人、暗闇に立っていた。
寂しくって、がむしゃらに走った。
すると、目の前にお母さんが出てきた。
「お母…………ッ」
ふっ、と幻のように透けて、消えた。
続いて現れた、お父さん。
「お父さん……?」
それも、すぐに消える。
断続的に現れては消える、かつての世界の知り合いを私は呆然と見ていた。
今まで生きてきた十数年―――たったそれだけの間に、こんなにも、私は人と出会っていたのか。
でも―――きっと、もう、会うことはできない。
それは、確信にも似た予感。
悲しくて、寂しくて。
孤独が私を覆いつくす。
涙がとめどなく溢れてきた。
頬から滑り落ちた涙が、暗闇の中でただ1つの光となる。
段々とその光が集まって――――――。
本を、形作った。
だけど、その本に触るのが怖かった。
本を手にしたら―――もう、本当に、二度と誰にも会えない気がしたから。
それを認めるのが嫌だった。
ただ、怖さだけが、全身を覆っていた。
「………………?」
はっ…………と目が覚めた。
私の顔を覗き込んでるヒソカが見える。わざわざ、ベッドから抜け出して、ここまで来てくれたのだろうか。
部屋の中はまだ、真っ暗。夜中みたいだ。
「なにかあった?」
「…………怖い、夢を見た…………」
そして、きっと、夢という言葉でくくれない、現実。
全身、汗びっしょりだ。今も、額の上に水滴がある。
なんだか、体が自分のものじゃないみたいで、思い通りに動かない。額の汗をぬぐおうとしたが、腕は少ししか動かなかった。
「…………ずいぶん、うなされてたね」
ヒソカの手が、私の額の髪をわけ、汗を拭い取る。
「…………みんなが、いないんだ。お母さんも、お父さんも、友達も消えてっちゃった……私は、失くしたんだ。真っ暗で、1人ぼっちで、誰もいなくって、寂しくって、怖くって…………」
「ボクは?」
「え?」
「その、消えていった中に、ボクはいた?」
「……………………いなかった」
「だろ?ボクはまだ君の傍にいる◆違うかい?」
「………………ヒソカが、いる」
「そうゥ」
ヒソカのおかげで、大分落ち着くことが出来た。
さっきまであった、恐怖とか寂寥感とか、すべて飛んでいってしまった。
「…………ねぇ、ヒソカ」
「ん?」
「………………やっぱいいや……」
「なんだい?」
「………………………………………………一緒に寝てい?」
私の小さな呟きを、この静かな部屋の中で彼が聞き漏らすはずもなく。
ヒソカはただ笑って、手を引いてくれた。寝ていたベッドを出て、2人して、ヒソカのベッドにもぐりこんだ。
まだぬくもりが残っていた。
「………………子供でゴメン」
「いいよ◆」
「私ね、ヒソカってもっと残酷で非道で極悪人なんだと思ってた」
「……………」
「でも、少なくとも私には優しいし、いい人だし。本当はね、正直、すぐに殺されると思ってた」
「……ボクは、興味がないものを壊すのにためらいは感じないけど、興味のあるものはじっくりと見守るタチなんだァは、ボクにとって十分価値があるからね◆」
「……ありがと。喜んでいいのかわかんないけど、ちょっと元気でたよ」
「明日は、発の修行するからね…………オヤスミゥ」
「……オヤスミ」
―――暗くて深い闇の中。
私は1人泣いていた。
頬から滑り落ちた涙が光を作り、本を形成する。
やっぱり、怖い。
本に触れられずに躊躇っていると、隣にヒソカがいた。
覚悟を決めて、私は本を手に取り、1ページ開いてみた。
ズラーッと並んだハンター文字。
読めずに困惑していると、ヒソカがまるで大丈夫とでもいうように頷く。声は、聞こえない。
私は、ページを捲っていった。
キレイな絵が描かれていた。そして、その下に説明らしきハンター文字。
見慣れた姿の『生き物』を見て、私はその名を呼ぼうとした。
そのとき、目が覚めた。
「オハヨウゥ」
珍しく、ヒソカはベッドに入ったまま挨拶をした。
いつもは、すでに起き上がって支度をしているのだが。
なんでこんなにヒソカが近くにいるのだろう……とぼんやりと思ったが、すぐに夜中のことを思い出す。
「…………あ!?ゴメン!私が邪魔で起きられなかった!?」
「ん〜ん◆ボクが起きようとしなかっただけ気持ちよさそうにが眠ってたからねァ」
「起こしてくれればいいのに…………あ、そうだ!」
私は、ガバリと起き上がった。
その衝撃で布団が落ちそうになる。
「ヒソカ!私、自分の能力わかったかも!」
「へぇ?」
「夢に、本が出てきたんだ。その本が、なにか、絶対関係ある!」
ベッドから這い出て、早速練によって、本を形作ろうと試みる。
しかし、それをヒソカにとめられた。
「朝ごはん食べてからにしない?」
「………………そーだね」
私のおなかが、情けなく鳴った。