来訪の理由
ヒソカに闘技場内のレストランに連れてってもらって、久しぶりに温かいまともな食事を取った。
「あっ、これおいし〜!すっごいおいしーね♪」
テーブルいっぱいにズラリと並べられたお皿。
メニューがハンター語で読めなかったので、ヒソカに頼んだら、なんだかいっぱい来てしまった。
次々と出てくるコース料理。
「ん〜vvこっちもおいし〜!」
バクバクとものすごい勢いで私が食べていると、ヒソカがくすくすと笑い出した。
……この笑いは、人をバカにした笑いだ……。
「は本当になんでもおいしそうに食べるねぇ〜」
「…………おいしいんだもん……」
次に出された料理も、これまたおいしくって、しかめつらになった私の顔も思わず緩む。
そして最後の一品。デザートは、イチゴのムースだった。滑らかな口当たりが、ほどよく胃を整える。
「おいしvv」
「はい」
「ん?」
「これ、にあげるよ」
差し出された、イチゴのムース。
断ろうかと思ったが、現在口の中にあるムースのおいしさの誘惑に、あっさりと白旗をあげた。
「…………ありがと」
こうして、天空闘技場初めての夜は、更けていった。
朝になった。
ヒソカは奥のベッド、私はソファベッドに寝ていたので、本当に久しぶりの快適な寝心地!
だから……ついつい、寝過ごしてしまったのは許して欲しいんだよね。
「おはよ〜……」
「おはよう……くす、すごい寝癖」
わたわたと髪の毛を整えて、すでにバッチリとセットされているヒソカの髪の毛を見る。
「…………ヒソカはバッチリだね」
「もちろん朝食、とっておいたから、早く食べるんだよ◆」
は〜い、と返事をして、手早く食事を取る。
ヒソカはもう食べ終わったのか、楽しそうにトランプタワーを作っては壊し、作っては壊しを繰り返していた。
「ヒソカ〜、食べ終わったよ〜。………………そろそろ、さ。教えてくれてもいいんじゃない?」
「なにを?」
しらばっくれてる。
まったくもぅ…………。
「ここに来た、り・ゆ・う!!」
ヒソカは、にぃ〜〜〜っと笑って。
「ヒ・ミ・ツ……行ってからのお楽しみだよ◆」
そう言って、トランプをパッと消して、立ち上がった。
私は、食器を重ねてテーブルに置く。
「さ、行こうか」
もはや、文句を言う気力もなくなり、私はヒソカに無言でついていった。
ヒソカは、なんの迷いもなくすたすたと歩いていく。
どこに行きたいのかは、もう決定済みみたいだ。
エレベーターに乗って、どこに行くかと思いきや、さっさと闘技場を出て、一軒の宿に着いた。
「…………こんなところに、なんの……」
ヒソカは私の声をまったく無視して、つかつかと宿に入り、ある部屋の前で止まった。
「うん、ここだ」
ヒソカが、ノックしようと(意外だ)手を扉に近づけたとき―――。
ガチャ、と扉が開けられた。
面食らったようにヒソカの動きが止まる。
そして、私は現れた人物を見て、動きを止めた。
「………………私に、なにか御用ですか?ヒソカさん」
そこに現れたのは、ゴンとキルア、そしてズシの師匠、ウイングさんだった。
警戒しているのか、ヒソカの後ろにいる私のほうまで、イヤな感じがした。
「くす……そんなに警戒しなくても、なにもしないよなにかする気だったら、オーラを消すなりなんなり、してる◆」
「それなら……」
「今日は、頼みがあってきたんだ……」
「え?」
ヒソカがぐいっと私の手をひっぱった。
ウイングさんの前に立たされる。
「…………あなたは……」
「は、はじめまして!」
…………って、その前に!
ガッとヒソカを見上げて。
「な、なんなの!?一体!」
「この子に、念を教えてあげてほしい」
…………………は?
ウイングさんと私は、同じ声、同じ表情をした。
「ゴンたちにやった方法で、念を開発してやってくれ◆」
「ダメです。一般人にそんなことはできません。…………第一、無理です。彼らは元から素質があったので、あのような方法で目覚めさせました。なにも知らない彼女に、同じことをしたら……確かに念は目覚めるでしょうが、その制御方法が……1歩間違えば、確実に死に至ります」
「彼女なら、問題ない君の言う『一般人』ともレベルが違う◆念に関する基本知識は心得ているし」
「ですが、私にそれを行う気はまったくありません。わざわざ危険を冒すより、ゆっくりと目覚めさせればいいだけの話ですから」
私は2人の間でハラハラしながら、事態を見守る。会話に加わりたくても、いいしれないオーラ(きっと念だ)に圧迫されて、思うように声が出せない。
な、なんなの、一体!?ヒソカは私に念能力を開発させたいわけ!?
「すぐに、必要なんだ」
「……しかし…………」
「1日」
ヒソカが唐突に言った。
「1日で、彼女はボクの念を感じ取った……十分、素質はあると思うけど?」
長い長い沈黙の後、先に口を開いたのはウイングさんだった。
「…………………………………わかりました。やってみましょう。中へ」
ヒソカは、にこ、と笑って私の背中を押した。
ちょ、ちょちょちょ、ちょっと待ちなよ!私、ヒソカからなんにも聞いてないんですけど!?
「上着を脱いで、私に背中を向けてください」
ウイングさんにそういわれ、私は思わずヒソカを見る。ヒソカが笑いながら頷いたので、覚悟を決めて、上着を脱ぎ、背中を向けた。
背中に、ぶよぶよとしたものがまとわりついているような感じがする。少し、気持ち悪い。じわじわと熱くなってきた。
「………………ハッ……」
短い息の後に、ドンッと私の中に、力強いエネルギーが流れ込んできた。
目を開けば、私の周りを取り囲むオーラ。蒸気のようにほとばしっている。
「わ、わ、わぁぁ!?」
「落ち着いて!オーラを体にとどめようと念じてください!」
オーラを、体に…………って、えぇえぇぇ!?
泣きそうになりながら、ヒソカを見る。
ヒソカは、立ってこちらを見ていた。
纏を、行って。
まるで、見本だというように。
私は、ヒソカのように体の力を抜いて、自分の周りにオーラが揺らいでいるイメージを思い浮かべた。
オーラが、その場に、とどまる。
ヒソカが、にや、と笑った。
「……よくできましたどうだい?ボクの教え子は◆」
「………………正直、信じられません…………まさか、こんな…………」
あっけにとられたウイングさんの顔。
私は、とりあえずペコリと頭を下げた。
「あの……ありがとうございました。なんだか、よくわかんないんですけど。…………ヒソカ、もしかしてこれのために天空闘技場に来たの?」
「うんこれからは、念がないとちょっとキツイからね」
幻影旅団か……う〜〜〜……会いたいけど、それ以上に怖いよ!確かに、念がなかったら、すぐにぷちって殺されちゃうだろうし。
「……しかし、ヒソカさんに教え子がいるとは、驚きました」
「って言うんだ面白いだろう?」
「面白いってねぇ……(怒)」
「…………確かに、面白い子ですね。…………何者なんです?あなたは」
「へ!?な、何者って…………」
答えあぐねていると、ヒソカは私の首に腕を絡みつかせながら、
「ボクの教え子」
ウイングさんは、メガネを直しながら、ふぅ、と息を吐いた。
私のほうを見て、にこりと笑う。
「…………ヒソカさん、少し変わられましたね。あなたのせいですか?」
「え?や、そんなことはないと思いますけど!?ねぇ?」
「…………ボクに振られても、答えようがないんだけど?」
「う……でも、いいんですか?私なんかに念を教えちゃって。悪用するとは考えないんですか?」
「自分からそう言う人は、実際には悪用しませんよ。……それに、開発しない、といえば、彼が私のことを殺す気でしたからね」
「……………………ヒソカ?」
「」
ごまかしちゃってさ、もう……。
再度、ペコリと頭を下げる。
「すみません、不本意なことをさせてしまって……」
「もう、済んでしまったことですから。…………ヒソカさん、これでよろしいですか?」
「あぁ助かったよ◆後はボクが教えるから大丈夫じゃ、、行こうか」
「え、あ、ちょっと……」
「邪魔したね」
「あの!ありがとうございました、ウイングさん!」
去り際に私は大声で叫んだ。
その後に、ウイングさんが1人で不思議がるとも思わずに。
「…………私、名前言いましたっけ」
部屋に戻ってきた私に、さっそくヒソカが訓練を言いつけた。
「まずは、絶からね」
ふっとヒソカが自分のオーラを消した。存在そのものが薄くなった気がする。
言われたとおりに、私はやろうとした……けど、そんなのはじめから上手く出来るわけない。
しばらくやって、極度の疲労が訪れたころに、ヒソカは私に向かっていった。
「う〜ん……なかなか上手くいかないみたいだねじゃ、こうしようが1番怖いと思っている人が、向こうに見える◆出来る限り近づきたくもないし、見られたくもないそのとき、どんな感じ?」
どんな感じって…………。
私は、向こうの世界にいる1番苦手な先生を思い浮かべた。
よく怒られていたので、学校内で見かけたときは、極力見つからないように気配を殺して…………。
気配を殺して?
そのイメージを、そのまま念に使ってみる。
「………………そう◆いい感じだ」
体にエネルギーが戻ってくる感じがする。疲労感が少しずつ薄れてきた。
「…………うん、今日はこれくらいにしよう◆これから、ギリギリまでここに滞在して、君の念を磨くからね訓練に念のメニューも加えるから◆」
「…………ねぇ、なんで念が必要なの?」
「ヨークシンに行くからさあそこでは、少なからず戦闘があるだろうボクと離れることだってあるかもしれないそのときに、少しでも君が楽になるようにね◆」
「…………死なないように、せいぜい頑張るね」
「うん君はまだまだ青いんだ◆ここで失うには惜しすぎる」
「…………嬉しいんだか嬉しくないんだかよくわかんないよ……」
「明日は練を行うからね今日は早めに寝ること◆」
「………………は〜い」