レイザーに狙われたゴンは『硬』を使ったけど、場外まで吹っ飛んで行った。

あまりのその威力にしばしの間呆然。

でも当の本人、ゴンは『今度は取る!』と向かっていく気満々、リベンジする気満々。
硬のおかげでケガは重くないみたいだけど……流血してるよ!(汗)

それをじっと見ていたヒソカがコソリと耳元で囁いた。

はあんな無茶しないでいいから◆」

……言われなくてもいたしません。



傍観者も危険なゲーム



ゴレイヌさんが念獣を操ってレイザーを当てたのはいいんだけど、その直後のパスで再起不能になってしまった。
……私の念能力で回復させることもできるんだけど、それは最後の手段だな。……ヒソカも怪我する予定だし……ごめん、ゴレイヌさん!

「さて…次は誰かな!?」

言いながら投げてきたボールはキルアに向かっていく。
あの剛速球はいくらなんでもキルアも取れない。キルアが右に避けた。

「!!!」

ボールが変化して、一直線に並んだ、ビスケ、私、ヒソカに向って飛んでくる。
私はある程度予測していたので、スッと後ろに向かって避ける。ビスケはジャンプして避けたみたいだ。
ヒソカも私と同じく後ろにうまく避けたみたいだけど……すぐ傍にいた5番がボールをとるや否や、ヒソカ目がけて投げた。



「!!!」「ヒソカ!!」



たぶん、ヒソカは避けようと思えば避けられたんだと思う。
だけど、さっきみたいに私とヒソカは一直線に並んでいた。
ヒソカが避けたら、まず間違いなく私は当たる。さっきのボールの軌道は読んでいたけれど、今度は対応しきれていなかった。
私が当たった後、運が悪ければそのリバウンドがヒソカに当たるかもしれない。

―――ヒソカは一瞬にしていろいろ考えたんだと思う。

結局選んだのは、

バチュッ!!!!…ギャギャギャギャギャッ……!

『伸縮自在の愛』で自分の手に張り付けたまま、捕球すること。
ヒソカがボールを受けたことで一瞬出来た時間の隙に、ヒソカの邪魔をしないように私は前方へ飛ぶように避けた。

飛んだついでに転んだ私は、間抜けにも顎をしこたま打ちつけた。それにも構わず、すぐに立ち上がって後方を見た。

「ヒソカッ!?」

ズズズッ、とオーラを出したヒソカの右手にはボールがしっかりとくっついている。
でも。

ボールを受け止めた時に顔にも触れていたのだろう。
ところどころ出血しているのと……もっと酷いのは指。

、怪我はない?」

それなのに、開口一番がこのセリフ。
私のことを心配してる場合じゃないよ!!

「……っ、そんなことよりヒソカの方が……ッ」

、怪我は??」

再度ヒソカが聞いてくる。グッ、と私は一瞬詰まって、

「……だいじょぶ、ヒソカがかばってくれたから。……ありがと」

ニコ、と笑ったヒソカが頭を撫でてくる。
その指はやっぱり2本不自然な方向に曲がっていて、ものすごく痛そうだった。
これはパナケイアじゃ間に合わないな……アスクレピオスでないと、完治は難しいかも。
そう考えながら、右手にオーラを集中させようとしたら。
スッ、と右手にヒソカの左手がかぶさる。

「そんなに心配いらないよ◆……今、キミの能力を使ったら、キミは疲労で動けなくなって危険だ良くも悪くも、このゲームが終わるまでは君の能力使うの禁止

「うっ……」

「わかったね?」

「…………………はい」

ヨシとヒソカが笑う。

その間にビスケが外野へ移動していた。
ビスケの可愛い服の一部が、レイザーのボールのおかげで破けていたためだ。衣服も体の一部とみなされる……ってことは、掠ることすら許されないってことか……。
でもそれと同時に、ゴンがバックを宣言して内野に戻ってきた。

しばしの作戦会議。
ゴンがだいぶ頭に血が上ってるらしく、キルアと衝突もしていたけれど。

2人がボールを持ってセンターサークル付近に行ったところを見ると、どうやら作戦は決定したらしい。
それを見届けながら、私はヒソカに近づく。

「ヒソカ」

「ん?」

自分の洋服を破って、ヒソカの顔に当てる。
止まってはいるけど、いたるところに血の跡が残っていたのでそれを拭いた。

「ありがと

ヒソカはニッコリ笑うと手を取ってキスなんてのをやってのけた。
この場面でそんなことをして……!イヤ、こんな場面じゃなくても照れるんだけども……!
あぁぁぁ、みんなの視線がイ タ イ !

「あのっ、ど、どーぞ先をつづけて、ください……っ!」

んーともう1度キスしようとするヒソカをべりっとはがした。

ハッと我に返ったキルアが両手でボールを支える。
そこにゴンが硬で念を溜めた右手でパンチを叩き込んだ。

ギュンッ!!!

信じられないほどの速さでボールはレイザーめがけて一直線。
レイザーのボールの威力に完璧に対抗している球。

普通なら絶対取れない。

…………でもレイザーは、しっかり腰を落としてバレーのレシーブの態勢に入った。

このドッジボールで使っているのはバレーボール。ボールはレイザーの柔らかなレシーブによって、綺麗に真上へ上がった。天井にすら届かないほど、威力を殺されて。

「くっ……」

キルアが小さく舌打ちをした。
私はそれを聞いてヒソカに向きなおる。ヒソカはもう準備していたのだろう。私と視線を合わせるとまたいつもの笑顔を浮かべた。
凝をすればかすかに見える。ヒソカの念はボールについたままだ。
この状況を予測したわけではないだろうけど、いろんな想定をして、しっかり念をボールにつけておいている。

パシッと軽い音がして、ヒソカの左手にボールはおさまっていた。

「ん―――ダメダメボールはしっかりつかまなきゃね?」

そして微かに口の端をあげて笑った。


…………カッコよすぎでしょ、ヒソカさん………………。






すぐさまバックを宣言したレイザー。これで内野は4vs2。
でもヒソカの指はどんどん膨れて行っているからもうヒソカは投げられない。ゴンは疲労が半端じゃないし……隠しているけど、キルアの両手はヒソカよりももっと酷いことになっているはず。
無事なのは私だけなんだけど、私じゃゴンやキルアの代わりには到底ならない。

せめて、ヒソカかキルアの怪我を治せれば……と思ってヒソカをちらり、と見たけど、ヒソカはそんな私の胸の内を知ってか、しっかりと目線を合わせて、

、ダーメ

と言ってきた。
……約束を破ったらどうなるかわかったもんじゃないので、何も出来ない。
完全にただの役立たず。
そんな状況が、とてももどかしかった。

もどかしくて自分にイライラしているうちに、ビスケが残りの悪魔を倒して、とうとう敵の内野はレイザー1人に。

そこでツェズゲラさんがキルアの手の事を指摘した。
私が持つこと、ビスケが持つこと、ツェズゲラさんが持つこと、色んな提案があったけど、最終的にはゴンがそれを拒否して、結局はキルアがボールを持つことになった。

でも、まずはボールを手に入れることが大事。

、ヒソカ、ちょっと……」

とゴンが声をかけてきた。
ぼそぼそ、と小さな声で作戦が告げられる。

「ヒソカが一番後ろ、キルアが真ん中、俺が前。……俺はボールを止めることだけに集中。ヒソカは『伸縮自在の愛』で万が一にでもボールを取りこぼすことないように念で覆ってほしい。そしてキルアが真ん中で支えになって。俺が硬で支えられなかった分、キルアが代わりに支えてくれればいいと思うんだ」

「…………ったく、オメーは時々すげーこと考えるよな」

はもしもの時のために待機してて。最悪、3人が吹っ飛んでもボールだけは取れるように」

「…………OK」

ゴンの覚悟がこちらに伝わってきた。
私は自分に出来ることは今はないのだ、と言い聞かせて納得する。

でも、きっと良くも悪くもこれが最後のチャンス。
これでボールが取れるか取れないかでゲームの勝敗は決まるだろう。

だから。

ボッ。

私は、自分の能力を発動した。

「…………

「きっとこれで最後だから。何が起こっても対応できるように、出しときたいんだ。……ダメ、かな?」

私の言葉に、ヒソカは小さく息をついて―――否定しなかった。

「?、それ……」

「バインダー……じゃねぇな」

私の能力を始めてみるゴンたちは目を丸くして本を見ている。
こんな時にでも好奇心旺盛なこの子たちに思わず笑ってしまった。

「……後で詳しく説明するから。……大丈夫、何か起こったら出来る限りの事、するから。任せて」

うん、と安心したようにゴンとキルアが頷く。
私たちの作戦会議が終わったのを見て、レイザーがボールを高く宙へ投げあげた。

やっぱり、彼は最後、バレーのスパイクで勝負に出てきた。
3人一直線に並んだ、ゴンめがけて超剛速球が放たれる。

一瞬の出来事だった。

ゴンがボールを止め、ヒソカが覆い、キルアが間で支える。

―――気がついた時には、ゴンの中にはしっかりとボールがあった。

3人とも、ゲホッと咳きこんでいるが、大きなけがはないらしい。
私はほっと胸をなでおろした。

後は。

ゴンの、パンチの勝負。

どんどんどんどんゴンのオーラが強くなっていく。
レイザーに感じたのとは違う、ゾワゾワとした感覚。

「最初はグー!!!」

一気に膨れ上がった念に、思わず、一歩後退した。