天空闘技場へ
2週間、同じ場所にとどまって訓練?を受けていた。
さすがに、最初の訓練の時には筋肉痛がひどかったけど、今は大分解消している。
段々と、蹴りのタイミングも覚えてきた。
ゆっくりだけど、ヒソカに組み手をしてもらえるようにもなった。
ヒソカはトランプを操りながら、片手一本で私相手をするけれど、私の疲労度はハンパではない。どこをどう打ってもガードされるし、よけられることも多いから。
ヒソカいわく、私には無駄な動きが多いんだそうだ。
そして、意外なことに、ヒソカは私に対して『攻撃』ということをしない。
ただ、少しでも甘いところがあると、トランプを突きつけて、
「ここのガードが甘いねちょっと腕の立つやつなら、鳩尾に一発で気絶しちゃうよ◆」
と注意する。それの、繰り返し。まともに打撃を食らったことは、ただの1度もない。
訓練というから、もっとバキーッ!とか、ドカーッ!とか覚悟してたんだけど。ヒソカだし。
「うん、今日のメニューはこれで終わり後は、体力づくりね今日は、また増やして各150回でいってみよっか」
「うぇ…………向こうの世界じゃ考えられない〜」
「はい、腕立て伏せ、いーち」
慌てて腕立て伏せの準備。
嬉しい誤算だったのは、腕立て腹筋背筋が、かなり出来ること。ちょっと訓練するだけで、むこうのアスリートレベルの筋トレが、私にはすんなり出来た。
もちろん、最初の50回はかなりきつかったけれど(その前に、蹴りとかやったからね)、5日も過ぎると、すぅっと楽になった。……それを見たヒソカがすぐに100回に増やさなければ、ね。
「……はい、ひゃくごじゅーうよくできました」
「…………(声にならない)」
「じゃ、水浴びしてくるよ」
「…………ね、ヒソカ。思っ、たんだけど……」
「?」
「…………今日って、何日?ヒソカ、私に付き合ってくれてるけど、いいの?9月1日に……ヨークシンでしょ?」
ヒソカは、ん〜と上を見て。
「大丈夫だと思うよ?ヨークシンまでは、1週間もあれば余裕でつくと思うし……今は、まだ8月の頭だから◆」
ってことは、本当に天空闘技場から出たとこだったんだ……。
あぁ、もうちょっと早く出会ってたら、ゴンやキルアにすぐ会えたのに!!
私は疲れも忘れて、起き上がって言った。
「ねぇねぇ、水浴び終わったら、ゴンとキルアとか、ハンター試験について、教えて!」
「……あぁ、そうか、君はなんでも知ってるんだったねでも、知ってるんだったらわざわざ聞かなくても平気だろう?」
「ちーがーうーのー!ヒソカがどー思ったとか、どんな行動してたとかが聞きたいの!マンガには、そんな5分刻みのことまで書いてないよ〜」
「はいはいじゃあ、水浴びが終わってからね◆」
そう言って、ヒソカは消えた。
う〜ん……いつ見ても、早い…………。
戻ってきたヒソカと入れ違いに私が水浴び。
いつもと同じように服を洗ってかえった。
ここ数日間、ヒソカの服を来ている。めちゃめちゃ腕まくりをして。なんでかっていうと、自分の着ていた服、唯一の元の世界とのつながりが破れるのはやっぱり嫌だったし。
2人して焚き火を前にヒソカが川で採ってきた魚を食べる。ここ最近の主食だ。
「……ふ〜ん……じゃ、最終試験のときは、最初、ずっと動かなかったんだ」
「うん、ケガもまだ完治してなかったしね」
「でも、あのときのヒソカの顔、怖かったよ……人相変わってたし。まったく……そんなんだから、ゴンにプレートとられるんだよ」
「…………なんか、不思議な感じだな見られてないのに、見られてたなんて◆」
「これだけは、唯一、ヒソカにも真似できない?」
「そうだねぇ……」
そう言って、手を口元に当てながらちょっと上を見上げる。
これ、ヒソカの癖みたいだ。
ぼーっとそれを見ていたら、無意識のうちにあくびが出た。
「そろそろ眠くなってきたんじゃないかい?」
「うん……ヒソカが体力づくりのメニュー増やすから……(怒)」
「じゃ、オヤスミ明日は…………」
ヒソカがなにかいったんだろうケド、あっという間に睡魔に取り込まれて、なにも聞こえなかった。
朝、目が覚めたら、そこにヒソカの姿が無かった。
いつもは、『オハヨウ』ってこちらが起き上がらなくても、声をかけてくるのに。
目だけを動かして、あたりを見回すと…………数日の間に荒れていた周辺が、きれいに片付いている。
…………………置いてかれた!?
バッと起き上がって、キョロキョロとあたりを見回す。
ヒソカのあの緑の頭も見えなければ、干してあった服も見当たらない。
「ちょっ…………マジで……?」
ぐるぐると視界が回転する気がした。
そんな……ヒソカにこんなところで置いてかれたら……私、どうやって生きていくのよ。
このまま一生野宿生活をしろってか!?
「ちょっと〜……ヒソカ〜……どこいったのよ〜………」
「呼んだかい?」
「うわっ………」
ひょこっと現れたヒソカ。
あまりの唐突な登場に、私は後ろに飛びのいてしまった。
「オハヨウ」
「〜〜〜〜〜〜どこ行ってたのよ〜!置いてかれたと思ったじゃん!バカ〜!」
「その様子じゃ、やっぱり昨日言ったこと、聞こえてなかったみたいだね◆」
「あ〜……なんか、『明日は……』ってとこまでは聞こえてた」
「じゃ、もう1度言おうか今日は、ここを出発するよ」
「……………………は?」
出発?
…………また急な。
「どこに?」
「天空闘技場」
……………………。
「闘技場ぉぉぉ〜!?」
「うん◆……あ、これ今日の朝ごはん」
はい、とりんごを渡された。
反射的にありがと、と言って一口食べるけど、重大な事実を忘れたわけじゃない。
「ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと!何しに天空闘技場に行くの!?もう行ったんでしょ!?ゴンと戦ってきたんでしょ!?」
「うん……何しに行くかは今は秘密◆」
今は……ってことは、闘技場についたら教えてくれるってことだよね……。
……すっごい気になるけど、なんか怖い気もするから、黙っておこう。
でも。
これだけは言っておきたい。
「…………私、戦うなんてまだ無理だからね!」
「大丈夫戦いに行くわけじゃないから戦うとなると時間もかかるしねとりあえず、9月1日にはヨークシンにいなきゃいけないし◆」
それを聞いてちょっと安心。
…………でも、それだったらなにをしに行くんだろう?
「さて、早速行こうか荷物は持ったね?」
「荷物っていう荷物、私持ってないもん!準備OKだよ!」
「じゃ、行くよちゃんとついて来るんだよ◆」
「へ?」
ザッとヒソカが走り出した。
あっという間に背中が小さくなっていく。
って、移動ってそーいう移動の仕方なの!?
そんなことを考えているうちに、ヒソカの背中が米粒に。
慌てて私もダッシュする。周りの木々が流れるように姿を変えた。
ちょ、ちょっと待ってよ……。
これで、闘技場まで行くわけ!?明らかに目に見える距離じゃないんですけど!
今日は移動で訓練が無いと思ってたのに〜〜〜!
息1つ乱していないヒソカに追いついて、闘技場らしきものについたときには、もうすでに太陽が下降ぎみになってきたころだった。
「はー……はー……も、もぅダメ……」
「よく頑張りましたじゃ、今日はこれからこの闘技場の中で買い物をしよう◆生活用品、いるだろう?」
「…………………お世話になります」
息を、なるべく整えて返事をした。
自動ドアを通過して中に入ったらすごい熱気。
明らかにカタギじゃない人がそこかしこに見える。
だが、そー言う人が、こちらをみてギョッと身をすくめた。
『おい……ヒソカだ……』
『あの200階クラスの闘士のか!?』
ざわめきが波紋となって、フロア全体を包む。
その中を、悠々と歩いて店に向かうヒソカ。まるで声を気にしていない。
でも、思わず私は気後れして、遅れてしまった。
「んー……やっぱり、上のフロアの方がいいものが手に入るんだよね〜……、上の階に行こうか」
その声に。
フロアにいるすべての人の視線が、私に集まった気がする。
…………ぎえぇぇぇぇぇ(汗)
『おい、ヒソカがあんな子供連れてるのか!?』
子供じゃないんですけど!と怒鳴りたくなるのを我慢した。
ざわざわと私の周りに絡みつくような視線。
その中には、興味以外のもの―――敵意をこめられた視線もあって。
その強さに、立ち尽くして、動けなくなってしまった。
「………………?」
ヒソカの声に、返答しなきゃ、と。
声帯を必死に動かす。
「う、うん!行く!」
震える足に叱咤しながら、ヒソカに近づいた。
すべての視線を振り切るように、ヒソカの傍に行く。
「あ、ボク1回登録消しちゃったからなぁ……上に上がるには戦闘しなきゃいけないんだよねうん、1試合だけ戦ってこよう◆」
私をズルズルと引きずって、受付を済ます。
闘技場に降りていって、戦闘の観戦をする。ヒソカは楽しそうに見ていた。
……プロレスの域を超えてて、流血もたくさん。誰かが殴られるたびに、自分が殴られてるみたいに感じる。
『1877番、Bのリングへどうぞ』
「あ、ボクだじゃ、行ってくるね◆」
「うん。……一応言っとくね、気をつけて。あ!あと、やりすぎちゃだめだよ?1階なんだし」
「くすくす…………はーい」
さっさとリングの方へ降りていく。
内心は、「こんなところに1人置いて行かないでくれ!」って感じだったけど、戦闘中は仕方が無い。私は、Bリングの傍の人のいない椅子に座った。
ヒソカがリングにあがると、ざわめきがいっそう大きくなった。
相手は、恐怖のあまりかガタガタと震えてるのがここからでもわかる。
「お願いだから殺さないでよ〜?まだ、私にはキツイ光景だわ……」
いずれ、慣れなければならないのだろうけど。
ざわざわざわ。
ん?
なんか、やけに私の周りが騒がしい……。
って!
「な、なんで私の周りにこんな人が!?」
周りで取り巻いていた一人が、恐る恐る、といった風に、私に話しかけてきた。
「おい、アンタ」
「わ、私?」
「あぁ、そうだ。…………アンタ、一体ヒソカとどーいう関係だ?あのヤロウが、誰か他ヤツと一緒にいるなんて、見たこと無かったぜ」
「え。どーいう関係と言われても…………」
関係。
言葉で言うなら、『保護者』っていう枠が1番ピッタリ来るんだけど……。それも、なんか違うかな?『師匠』?う〜ん…………。
迷っているうちに、段々と人の輪が大きくなってきてしまった。
ちょ、ちょっと待ちなよ!
みんな、戦闘みなよ!?
目が、さぁ、答えは!?と訴えかけてる。
い、いや……。そんな目で見られても(汗)
「……人の関係を聞くってのは、野暮ってものじゃないかい?」
よく通る声に、人並みが、ざっと左右に分かれた。
「ヒソカ!」
「まったく……ちょっと目を離したらこれださ、、行こうか◆」
人を掻き分けて私を連れてエレベーターに向かう。
やっぱり周りの人は、私たちをじっと見たまま動かなかった。
「ずいぶん早かったね」
「が囲まれてるのが見えたからねゴンがやってたみたいにさっさと押し出して勝ってきた◆だから、これで190階まで行ける」
「うっひぇ〜…………すごいね〜……1回勝っただけで190階……」
「個室ももらえたからね久しぶりにベッドの上で寝れるよ……あ、でも1部屋しかないんだけど、いいかい?」
「ぜ、全然かまわないです!部屋の片隅にでも置いていただければ!」
本当は、一応男と女なのだからマズイのだろうけど……野宿の時といい、生活はほぼ共にしてきたから、今更どーということは無い。
「じゃ、部屋に行く前に買い物して行こうか」
190階でエレベーターを降りると、あまりにもきらびやかなその風景に、目を思い切り見開いてしまった。部屋に荷物を置いた後、ヒソカに導かれるままに、ショッピングセンターへ行く。
「どんな服がいい?」
「安いのならなんでも!」
「……………………気にしなくていいのにそうだなぁ……これとこれと……」
そう言って、ヒソカはその辺にあった服を次から次へと取っていく。
「ちょ、ひ、ヒソカ!?」
「ん〜……一応、動きやすいのを探してみたんだけど◆」
もう、買う気マンマンのヒソカに私は蹴落とされて。
「………………その緑のシャツと黒のズボンがいいな……」
「うん、わかったじゃ、着替え用に青いシャツも買っておこうね」
「え、ちょっと!そんな、悪いよ!」
「気にしない気にしない…………あ、それに靴も新しいの買っておこう?あっちの赤のスニーカー、可愛くないかい?」
「あ、ホントだ。かわいい!……って、いいの!?」
「うんお金ならいっぱいあるし◆」
あー……闘技場でいっぱい稼いでたヤツか。
私は、ヒソカの好意?に甘えることにした。
「…………ありがとーございます!」
「素直でいいね後、必要なものは……ま、ボクがいちゃ買えないものもあるだろうから、これ、お金」
お札を何枚かくれる。
…………日本のお札、まんまなんですけど(笑)
「じゃ、ボクはこっちの会計をしてくるから先に部屋に戻ってるよ◆」
「うん!ありがと!」
ヒソカが会計に消えるのを待ってから。
私は思わず噴出してしまった。
だって。
ヒソカが買い物してるんだよ!?お金払ってるんだよ!?←当たり前。
面白すぎて笑えてきちゃう。
190階ともなると、さすがに1階よりも人が少なく、ショッピングセンターにはまばらにしか人がいない。
その中でもひときわ人が少ない場所……女性物の下着のコーナーに言って、自分にあった下着を何枚か購入。ついでに、あの用品も買っておいた。そろそろ時期的にヤバイし。
会計を済ませて、部屋に戻るったら、ヒソカはすでにシャワーを浴び終わっていた。下ろした前髪が水気を含んでいる。ドアを開けると、見ていた雑誌から顔を上げて迎えてくれた。
「おかえりご飯、食べに出る?」
「うん!その前にシャワー浴びてくる。……あ、これ、お釣り」
ポケットから小銭とお札を出して、ヒソカに手渡す。
でも、ヒソカは小銭を何枚か取っただけで、残りのお金を小さな袋に入れてくれた。
「これくらいは持っておいたほうがいいよ」
「でも……」
「いいからいいから◆」
「…………なにからなにまで、ごめんね?」
「ん〜?いいんだよ、ボクが勝手にしてることなんだから」
ありがたくポケットに入れて、私はシャワー室へ向かった。ヒソカはまた、雑誌を読み始めている。
私は、かねてからの疑問を思い切って聞いてみた。
「ねぇ、ヒソカ」
「ん?」
「どーして、ここまでしてくれるの?たった2週間前に会った、見知らぬ他人に」
ヒソカはちょっと驚いたように目を開いた。
う〜ん、と唸ってから、こちらを見る。
見ていた雑誌をバサリと閉じた。
「なんだろう、最初は異世界人に対する、興味……だったんだけど、なんだかもうよくわからなくなってきちゃった今は、がいることが当たり前になっちゃったし◆人になにかを教えたのも初めてだし、こんなに他人と一緒にいたなんてことも初めてだそれが面白いからね」
「…………そっか!ありがと!じゃ、シャワー浴びてくるね!」
ヒソカの初めての教え子。
ヒソカと初めてこんなに行動を共にした。
なんだか誇らしくってくすぐったくって。
久しぶりの温かいシャワーの素晴らしささえ、忘れていた。