くしゅっ……。 腕の中にいる人間が小さくしたくしゃみで目が覚めた。 夜明けの寒さに身を縮こまらせて、微かに震えた体。 軽く抱きしめると、ふわん、と緩むの顔を見て。 ……自分の意思とは別に、笑うこともできるのだと、知った朝。 重なり始める時計
「じゃ、今日は念を的確な量だけ集中させるトレーニングを中心にやろうか◆もちろん実戦形式でねゥ」 「的確な、量?」 朝、目覚めたらじぃっと私の顔を眺めているヒソカにビックリして飛び起きた。 イヤァァァア、目やにとかついたままな顔をじっと眺められてたなんて……! でもそんなことはおかまいなしに、ヒソカはいつものようにニッコリ笑って「オハヨウゥ」とキスをしてきたもんだから、何も言うことが出来なかった。 そして今、朝ごはんを食べ終わった後の今日のトレーニング内容説明。 「、『堅』や『硬』はだいぶマスターしたね?」 コクン、と頷く。 「オーラの移動もスムーズになって……体全体を少量のオーラで覆いながら、他の部分にオーラを集中させて攻撃することもできるようになったゥ」 「うん……一応、それで今までモンスターと戦ってたけど……」 「でも、オーラを相手のオーラ量に合わせる、っていう点に関してはまだ甘いァ」 「相手のオーラ量に、合わせる……?」 「例えばェ」 ヒソカがボッと右手にオーラを集中させる。……とは言っても、大分手加減してくれてるから、そう多いオーラ量ではない。 何をやろうとしているかわからないけれど、私も一応堅を発動させる。 右手がスーっと近づいてきたので、私は堅のまま左手でガードを行う。 ズシリ、と重みがきたけれど特に痛みはなかった。 「うんェ」 ふっ、とヒソカがオーラを消したのを見て、私もオーラを消す。 でも言われたことはまったくわからなかった。 「え?」 「は今、全身『堅』の状態でボクの攻撃をガードしたね?」 「うん」 「もちろん、相手がどこに打ってくるかわからない実戦においては、それが通常……だけどァ」 ボッ、とまたヒソカがオーラを右手に集中させる。……今度は、私の『堅』じゃ防げないほどの量で。 「この量だとはどこかにオーラを集中させないと、ボクの攻撃を受けきることは出来ない◆」 ヒソカの言わんとしていることを理解して、今度は左手のオーラ量を増やした。 ゆっくり放たれた拳は、増やしたオーラで防ぐことができる。 「ここで、だ◆」 ズシリ、と左手に衝撃を残した瞬間に、ヒソカは言葉を発した。 「今、は左手のオーラを増やして攻撃を防いだ……だけど、よく見てごらんェ」 言われて、私は今接触している部分をよく見る。 若干……私のオーラ量の方が、大きい……? 「私のオーラの方が大きい?」 「そうゥ今度はの左手のオーラの方が強い◆今日は、これを的確な量に近づける訓練をしようゥ」 つまり、ヒソカの攻撃するオーラ量に対して、自分のオーラ量を出来る限り正確に近づけるってことね。 「オーラの量を正確に操れることによって、オーラの無駄遣いを減らすことも出来るし、実戦でも思い通りの『流』を行うことが出来るェ今までは感覚的に、『右手にオーラを集中』だったと思うけど、今日は頭で『右手に70、体全体は30』って考えながらやってごらんゥ防御するときは、相手のオーラ量に正確に合わせる感覚でゥ」 ゴンやキルアもやっていた特訓、だ。 うん、と1つ頷いて。 私は今日の対戦相手を探しに出かけることにした。 昼ご飯までに結構な数のモンスター相手にオーラの正確な量での戦闘を試みた。 こうして実際にやってみると、今まで自分がいかにオーラの量に対して鈍感だったのかよくわかる。 相手のオーラ量を読むことは正確に相手の動きを読むことにつながるし、なにより、次の行動に対してもっとスムーズなオーラの移動を可能にする。動きの1つ1つが洗練されていく感じだ。 でも。 「うあぁぁ……ナニコレ、超疲れる……」 汗やほこりで汚くなった私は、もういまさら汚れるのも厭わず、地面に倒れ込んだ。 そんな私を見てヒソカはパタパタと風を送り込んでくる。 「細かく正確にオーラ量を測ろうとする、っていうのが精神的に疲れるんだろうねァでも、いずれ反射で出来るようになるから◆それまで修行ゥ」 戦闘に関して、ヒソカの言うことはかなり的確で無駄がない。 だから、これを続ける意味は大きいのだろう。 「ハイ、師匠……」 力なく頷いた私を見て、ヒソカはクククッと笑った。 「ウーン……そろそろお昼だし……いったん休憩しようか◆」 「ぜひそうさせていただきたく……ついでに、着替えもさせていただきたく思いますで候……」 「OKゥじゃ、ご飯食べる前に、水浴びだゥ」 そう言うや否や、ひょいっとヒソカは私を抱えあげた。 「ぎゃあ!ヒソカさん!私歩けます!!!」 「ダーメゥ離さないよゥ」 あぁぁぁぁぁ、この状態のヒソカに逆らうなんて無理だぁぁぁぁぁ……。 諦めて抱っこのままで近くの泉へ。 恥ずかしいことをサラっと言ったりサラっとやったりしてくれるんだけど、いつまでも慣れない。 「ありがと……」 泉の淵におろしてくれたので、そのまま靴を脱いで足をつける。 「、1人で脱げる?脱がしてあげようか?」 ニィ〜っと笑いながら、服に手をかけてくるヒソカの手。 わたたたた、とその手を避けた。 「大丈夫、1人でおっけー任せておいて!(汗)」 「ェ」 ちょっと残念そうにヒソカは下がった。 私は泉の中を歩いて、ヒソカの死角になるところまで移動する。 服を脱いだら、汗を吸ってすごいことになってた。 重みを増した服もついでに洗ってしまおうと、泉の中に引き込む。 手早く体を洗って、バインダーから新しい服を出す。 服を着替えてサッパリした体でヒソカの元へ。 「おかえりゥ」 迎えてくれたヒソカに、濡れたままの髪を拭かれる。 「ちゃんと乾かしておきなよ◆……ボクも水浴びしてくるからァ」 「うん」 「あ、それともボクともう1回水浴びする?」 「ギャ―――!何言っちゃってんの!」 クスクスと笑う声が聞こえる。 「……ご飯用意しとくね」 「ヨロシクゥ」 ヒソカが泉に向かうのを見て、私は生活用品が置いてあるところへと戻る。 バインダーを取り出して、火や水を出してちゃっちゃと用意。 次いで食料品を取り出そうとする。メインディッシュは魚だな〜、と思ったところで、はた、と気づく。 「…………あー、もうヒソカのバインダーにしかないんだ……」 私のバインダーの中には、米と果物しか入っていなかった。 しょうがない……。 私は重い腰をあげ、泉へと再び歩き出した。 の姿が木々の間に消えていくのを見届けてから、水浴びの準備に入る。 (…………昨夜は、珍しいものを見たな◆) 水を全身に浴びながら、ふと思い起こす。 昨夜、何かに怯えるように身を強張らせ、縋るように抱きついてきた。 (ボクを怖がらないくせに、『ボクに関すること』は怖がるみたいだからね……ァ) パシャリ、と水が跳ねる。 自分がこんなに他人のことを気にするとは思っていなかった。 彼女の体を手に入れても、 もっともっと彼女がほしくなる。 (危うく、昼間から修行どころじゃないコトしそうになるところだったァ今日は午後からが面白いのに、危ない危ないェ) 別に、彼女を守ることくらい、容易かった。 その気になれば、戦闘なんてさせずに守ることだって出来る。 (でもそれじゃ面白くない……ゥ) 強くなろうと、自分の要求に答えようと。 必死にもがいている彼女の姿を見ることに、喜びを覚えていた。 そして、この『他人に執着している自分』に対する気持ちにも、未だ興味はつきない。 育てる喜びさえ、覚えている。 (あの子は、まだまだ強くなる……ゥ) クスクス、と笑って、ヒソカは再度頭から水を浴びた。 水を跳ね飛ばすように頭を振って空を見上げると。 空を駆ける、光。 ザシュッ、と音を立てて何かが現れた。 「おやおや……◆これは予期せぬお客さんだゥ」 「!?その声……ヒソカ!?」 「久しぶりゥ」 もしかしたらこれで午後の予定は狂うかもしれない。 楽しい訓練の時間が台無しだ。 だが。 これはこれで面白い。 |