「これで蜘蛛は除念師を何が何でも見つけるだろうし……ボクたちはまた修行にでも戻ろうか

そんな他人任せなヒソカさんが大好きです。


繋がりゆく物語の狭間


スッキリサッパリした顔のヒソカさんは、本当に除念師探しを旅団メンバーに託してしまったらしい。もはやどの街に行く必要もないと言わんばかりに『再来[リターン]』を使って、アイアイへ戻り、近くの森に拠点を移した。

アイアイの近くはマサドラよりも若干強いモンスターが生息している。
地域で少しずつ生息するモンスターが違うみたいだ。
今まで出会ったモンスターはもちろん、新顔まで幅広く戦闘相手。倒せない相手は無理せず一度引くことも覚えた。逃げることも重要な戦闘技術。まさか敵に背中を見せるわけにはいかない。どの方向にどのタイミングでどうやって逃げ出すか、これが簡単そうで難しい。
2週間近く戦い漬けの日々を送っていたら、このあたりの大体のモンスターは把握できた。

「うわっ!?」

今戦っているのは、狼の大群。狼のくせに2本足で立つわ武器を使うわ、一筋縄じゃいかないモンスターだ。

容赦なく攻撃をしかけてきた群狼たちを、横っ跳びで避ける。ザザザッ、と砂ぼこりが舞った。
群狼は何度か出会ったこともあるけど、いずれも後少しのところで逃げられたり、ギリギリ追い払うことぐらいしか出来なかった。
でも今度こそは……!

凝を行いつつ、襲い掛かってくる群狼の攻撃をかわす。
大きいからか、攻撃も大ぶりなので軌道を読むのは容易かった。

1番後ろで指揮を取っているボスめがけて一直線に走る。

「………グアァアァァッ!」

引き裂こうとして振り下ろされた爪を避けて後ろに回り込む。

すぐさま全身をまとっていた念を両手に集中させ、硬の状態を作り出す。
地面を大きく蹴ってジャンプすると、ボスの脳天めがけて組んだ両の拳を振りおろした。

ガンッ!と硬い音がするけれど、硬のおかげで私の拳に痛みはない。
怯んだ隙に、今度は念を右足に集中させて蹴りをたたき込む。

そこでいったん下がって体勢と呼吸を整える。
攻撃を食らったボスは激昂して、配下の狼たちをけしかけてきた上に、自分も攻撃に加わってきた。
今までは一つのところに集中させていたオーラを全身にまとわせ、堅の状態を作り出す。

「ガァッ!」

伸びてきた狼の足を左手でガード。……うん、衝撃はあるけど、堅の状態ならキッチリガードできる。
パンッ!とその足を払いのけ、再度の跳躍。

堅から硬へ。右手に念を集中。

「……えいっ!!!」

そのままボスの顔面に拳をたたき込むと、今度こそボスは音を立ててカードに変わった。
後は配下の狼をちゃちゃっと片づけて、すべてのカードをバインダーに入れて終了。

パチパチパチ、と後ろで見ていたヒソカが拍手をしていた。

「うん、いいねオーラの移動もスムーズだったし、CクラスはOK、そろそろBクラスのモンスターにも挑戦してみようか◆」

「うぇぇぇえ……」

「肉弾戦に強くないと、の能力はうまく使いこなせないからねそれに、能力を使いこなすためには、もっと念の絶対量を増やさないと◆」

「……課題はたくさんですね……」

「もっと強くなれるってことだよ

「うぅ……頑張ります……」

「うんじゃ、意気込みも新たに、練の持続、行ってみようか

サラッ、ときついことを言ってくれるヒソカ。
一瞬その言葉の意味が理解できなくて、ポカンとしてしまい―――理解した後は、その言葉のきつさにポカン。

「……鬼ぃぃいいい!!」

「ハイ、ヨーイ、スタート◆」

ヒソカのニッコリ笑顔に逆らえるはずもなく、私は疲労回復のために絶状態だったのを解除、一気に念を増幅させた。






「ハイ、今日はここまで

ヒソカの声を聞いて、全身汗でビショビショの私は倒れこんだ。

「……ぜー……ぜー……(声にならない)」

「ハイ、水

差し出された水筒を受け取って、ゴクゴクと喉を鳴らして水を飲む。
あぁ……体に水分が沁み渡っていく……。

、ご飯何にする?」

「ん〜……サッパリ系がいい……昨日はお肉だったし」

「じゃ、今日は魚にしよう◆」

「はーい」

バインダーを出してカード化を解除しているヒソカを見て、何か手伝おうと身を起こす。
右手を支えに立ち上がろうとしたら、ズキン、と痛む手首。

「あれ?」

「あぁ……、手首痛めただろ……ゲイン

私の様子に気づいたヒソカは、ご飯の準備をしながらこちらを見ずに言う。
自分自身ですら気づいていなかったケガ。

「今はそれくらいだろうけど、体が冷えてきたら痛むと思うよ途中、ジャンプから着地して一瞬念が解けた瞬間に捻ったんだね◆」

「…………気付かなかった」

「戦ってる最中はアドレナリンが出てるからね……一応、能力使って治すことをオススメするよ◆」

「あんま軽くないってことかぁ……おっけ」

ある程度の傷なら放っておくけど、ヒソカがこういうのだから、あまり軽い傷ではないのだろう。こういうのは私自身の感覚よりもヒソカの言うことを聞いた方が絶対いいということは今までの経験から。
……体は疲れているけど仕方ない。
私はボンっと今度は自分の本を取り出した。

パラパラッ、と捲ってパナケイアを呼び出す。

「ケガの治療、お願い」

ニコリ、と笑ったパナケイアは青い光を発して私の全身を包む。
手首のケガはもちろんだけど、そのおかげで小さな傷もスゥッと消えるようになくなった。

再度パナケイアは笑うとすぐに姿を消す。

ケガは治ったけれど、ズシリと重みを増した体。
軽い脱水症状になっているのか、食欲はないに等しい。

「ハイ、残しちゃダメだよ

私の思考を読んだのか。
私が何か言うより先に、ヒソカがお母さんみたいなことを言いながらご飯を渡してきた。





なんとかご飯を飲み下して、少し体力を回復させて近くの泉で水浴び。
フラフラと戻ってきた私は、すでに水浴びを済ませてメイクを取ったヒソカの隣に腰をおろした。寒くなってきたので毛布を出すことを忘れないで。
膝にかけた毛布を手で弄びつつ、トランプを操っているヒソカの肩にポテ、と頭を預ける。
私の行動にヒソカは何も言わず、そのままトランプでタワーを作り始めた。

もう1月も下旬。
薄れ行く原作知識を引っ張りだすと……そろそろ、ゴンやキルアが接触を図ってくるはず。

ってことは、そのままヒソカはソウフラビへ行くことになるはず。
そしてドッジボール大会……ヒソカ1番の見せ場だ。
最後のあれはカッコよかったもんなぁ〜…………。

くすくす思い出し笑いをすると、今まで何も言わなかったヒソカが今度は顔を向けてきた。

「なんだい?」

「ううん、思い出し笑い」

そう言って、ここでは『未来に起こること』だから、思い出すってのもなんか変だな、と思って再度笑いがこみあげてくる。
ヒソカは不思議そうにしながらも、同じように笑みを浮かべ、またトランプへと意識を移す。
ぼんやりと作り上げられていくトランプタワーを見ながら、この先起こることを思った。

カッコいいけど、ヒソカの両手、悲惨なことになるんだよな〜……。

チラ、とトランプを操る指を見つめる。素顔はすごいさわやかイケメンで線が細い感じさえするのに、指は骨っぽいゴツゴツした男の人らしい指。
…………すぐ治療できるように、能力使うの、しばらく我慢しよう。

今日パナケイアを使ってしまったから、後1週間くらいはアスクレピオスしか使えない。
……なるべく怪我はしないようにしよっと。それに、アスクレピオス使うなら、相当の集中力を使うから、出来るだけ体調は万全にしておかなければ。

着実に進むシナリオ。
今まで、私という要素が紛れ込んだことで加わる変化は微々たるものだった。
今回もそうなるとは思っているけれど、万が一のことがあるかもしれない。

それに、もっと気にしなくちゃいけないのは、『その後』
ドッジボールが終わった後、旅団メンバーが除念師を見つけるはず。
そうなった後、ヒソカがどう動くのか……これは、今の私では全く想像できないことだ。
だって、私はそこから先を『知らない』から。

おそらくヒソカは除念師をクロロのところに連れていくだろう。そこまでは原作で想像がつく。
でも連れて行った後の行動、そして『決闘』の結果なんて知らない。

…………クロロが相当の使い手だってことは、修行してみてなおさら痛感した。
同じ『本』の使い手だということで、参考にしている部分も多い。
参考にしようとすればするほど、クロロの凄さを実感していく。
たとえば、何においても本を手放さないように体勢を保つバランス力、加えて、瞬時に適した能力を引き出す戦闘考察力。この2つは抜きんでている。さらに、自分が本を使う間合いをとるための体術。見習うべきところはたくさんあった。

だからこそ。

だからこそ、相当の使い手のクロロ相手に、ヒソカがどうなるか、はかり知ることが出来なかった。
ヒソカが無茶苦茶強いのは知ってる。今まで、ヒソカが苦戦らしい苦戦を強いられたことをこの目で見たことはない。
いつも、ヒソカの実力は相手を圧倒していて……それは人に限らず、モンスターにも同じで、私が何10分もかけて倒すモンスターを、ヒソカは拳1つで倒したことさえある。

でも、クロロが相手だったら?

…………もしかして、もしかするかもしれない。

考えたくはないけれど、最悪の事態だってあり得る。
ヒソカを失ったら、きっと私はここで生きていけない。
いや、実力的には生きていけるようなスキルは身につけた。

でも、ヒソカがいない世界で生き続ける意味なんてない気がした。

この世界に飛んできたとき、1番最初に出会った相手がヒソカで。
ヒソカに1からこの世界のことを教えてもらって。
ヒソカに1から戦闘技術をたたきこまれて。
ヒソカを1番愛することになった。

もしヒソカがいなくなったら、私はこの世界にいなくていい。
それ以前に。
もしヒソカが私に興味をなくしたのなら。
いっそ殺されてもいい。

―――自分で自分の考えに恐怖を抱き、ゾクリと背筋が泡立つ。

それは狂気にも似た感情。
自分自身の闇に恐れを抱いた。

ぎゅ、と隣にいるヒソカに抱きついた。

?」

突然の行動に、トランプタワーを崩したヒソカはこちらを向く。
自分の中に生まれた闇、狂気。
得体のしれない恐怖に、打ちのめされそうになった。

「どうしたんだい?」

顔を覗きこんでくるヒソカに軽く首を振る。
言えはしない。言ったところでどうなることでもない上に……おそらく、ヒソカはこの『狂気』を理解することはないだろう。
だから、誤魔化す。

「つかれた……かな……眠い……」

嘘つきの名人、ヒソカを騙すことなんて私ごときが出来るわけがない。
でも、ヒソカはそんな嘘にさえ『騙されてくれる』。

トランプを操っていた手を肩に伸ばしてくる。

「今日は甘えたさんだね

ん?と笑いながらヒソカが顔を近づけ、軽いキス。
包まれるように抱きこまれ、そのままゆっくり倒される。
引き締まった腕がしっかりとまくらに。
いつの間にか体には毛布がかかって、その上からヒソカの腕が絡んでいた。

間近に感じるヒソカの体温。
擦り寄ると、力を少し入れて抱き返してくれる。

「……ゆっくりオヤスミ

コクリ、と頷いて私は眠りに落ちた。