動き出す蜘蛛



、今日でちょうど1ヶ月だね

ヒソカの言葉に、お魚さんをほおばっていた私は、指を折って数えて、ウン、と頷いた。
確かに、今日でヒソカとこの山に来て1ヶ月。
思えば、長いこと野宿をしていたんだなぁ……最近は慣れてきたから全然苦にならなくなったけど、最初のころは体が痛くて仕方がなかった。

1ヶ月前―――ヒソカに連れてこられた山で、私とヒソカは暮していました。
まぁ、生活自体は、1番最初に天空闘技場の近くの山で送っていたものと、そう変わらなかったけれど。

………………とにかく訓練が半端なかった………………(泣)。

毎日、基礎修行(パンチ、前蹴り、回し蹴り、膝蹴、全て×500)と、筋トレ(腕立て、腹筋、背筋、スクワット×300)、それにゆっくりとした組み手を繰り返していた。
1日の大半を、普通の武道の練習に当てて、念の修行、と言えば毎日、練を連続してやることのみ。
武道の方はまだ、少しは成果が見られるようになった……と思うけど(あんまり自信はない)、念についてはどうしようもない。練を維持し続ける時間っていうのは、そう簡単に伸びるものではなくて。本当に、毎日の筋トレのように、少しずつしか成果が現れない。
まぁ、最初は5分だったのが、1ヶ月経った今では、15分に伸びたんだけど。それでもまだ実戦レベルにはほど遠い。

ヒソカいわく

「まぁ、そう簡単に練というものは伸びるものじゃないからねこれからも毎日頑張ろう

ということだそうだ。

まぁ、念の修行法での近道はないらしいから、地道に行くしかないか。

それで、修行を始めてからちょうど1ヶ月の今日。
ヒソカが話を切り出した。

「クロロから、連絡があった

なんとはなしに言うものだから、思わず、うん、と聞き流してしまいそうだったけど。
発言の重大さに気づいて、魚を食べる手を止めた。

「………………いつ?」

「昨日…………除念師を見つけたらしい◆詳しくは、直接会って聞きたいんだけど…………、今日ココを発てるかい?」

「うん、私は大丈夫。…………そっか、除念師見つけたかぁ…………じゃぁ、ここからが大変だね?」

「まぁね…………じゃあ、この辺を片づけして、クロロがいる街まで急いで行こう

返事をしながら、私はやっとやってきたチャンスに胸をワクワクさせていた。
なんてったって。

これから始まるのは。

グリードアイランド!!!

あの、マンガだからこそのゲーム!!!

私はずっとこれを楽しみにしてきたんだ。
この辺の話、大好きだしvv
ヒソカはゲームを楽しむつもりはないらしいけど……私は絶対遊んでやる!
ワクワクしながら、私は身の回りの荷物を片付けた。




山を下りて(もちろん訓練と称したマラソン)、近くの街まで行って、ヒソカの私用船に乗った。
クロロがいる街というのは、それほど遠い場所でもなかったらしく―――夕方には私たちはクロロがいるという街についていた。

「案外、近いところにいたんだね」

「念が使えない今、それほど遠くへいくのも得策じゃない、と考えたんだろう◆…………さて、と……今夜の宿を探そうか

「え?すぐクロロに会わないの?」

「こんな夜中に行ったら危ないじゃないか

「………………は?なにが?」

「………………(まぁ、今の状態じゃありえないとは思うけど、がクロロに襲われたりするかもしれないじゃないか)」

な、なんだか無言の圧力を受けた気がするけど……(ドキドキ)
深く突っ込むのも怖くなったので、さらりとスルーしておいた。





翌日。
久しぶりのベッドで快適な生活を楽しんだ後、私たちはクロロがいる、というあるホテルへ行った。
コンコン、とノックをすれば、あの、懐かしい声。
ドアを開けて中へ入ると、待っていたのはオールバックに髪形を整えた、『蜘蛛の団長』だった。

「久しぶりだな、、ヒソカ」

「クロロも元気そうで」

こっちへおいで、とクロロが手招きをする。
私たちは、ホテルの備え付けの椅子に腰掛けた。

「まぁ、体調面だけで言えば、元気だな。…………は、少し成長したようだな」

「ボクが鍛えたからね◆1ヶ月ず〜っとと一緒にいたから

「ほぅ、『ずっと』か」

「ウン、『ずっと』

うっ……なんか、無駄なことで火花が飛び散ってる気が……(汗)
なんなの、この居づらい状況は!2人とも違う世界に行っちゃったよ!!!!

「ちょ……そ、そうだ!クロロ、除念師見つかったんだって!?」

強引な話転換。
それでも、2人はなんとかこちらの世界に戻ってきてくれた……一安心。

「あぁ…………はオレが今、念を使えないのは知ってるな?」

「うん。ヒソカからも聞いたし…………詳しくも、知ってる」

マンガで、読んだから。
私が言おうとしたことを理解したのだろう。クロロはゆっくり頷いた。

「それを解くための除念師が…………この中にいることがわかった」

クロロが指差した先には…………ジョイステーション。

「………………グリード、アイランド……だね?」

私の言葉に、クロロは頷いた後ヒソカを見据えた。

「取引をしよう」

クロロが持ちかけた言葉に、ヒソカはトランプを操っていた手を止める。

「…………報酬は、除念後のタイマンどうだい?」

「いいだろう。…………グリードアイランド自体は、すでに手に入れてある。後はメモリーカードだが…………はどうする?」

「へ?」

話が振られるとは思ってなかったので、思わず聞き返してしまった。
…………どうするって、行く気マンマンだけど…………。

「グリードアイランドは聞く限りじゃ、かなりの使い手でも殺られるそうだ。…………高確率で死が付きまとう」

………………そうだった………………。
ゴンやキルアでさえ、ツェズゲラさんに足止めくらったんだった…………。
正直…………キルアはもちろん、ゴンにも私は足元にも及ばない。
今の時点で、いくらゴンたちより練が長く維持できるからといって……彼らと私では、念の絶対量が違う。
基本的に強化系が苦手な私にとって、私の修行した念の量と彼らが元々持っている念の量が同等ぐらいだ。いや、それ以下かもしれない。
少しずつ精度は増してきてるけど…………武術の方も、まだ一般人に毛が生えた程度なのを、念でごまかしてるし。
こんな状態でグリードアイランドなんて行ったら…………それこそ、プチッて殺されちゃう。中には、爆弾魔もいるし…………。

「不安だったら、オレとここで待っていてもいいが?」

「いや、はボクが一緒に連れて行く

さくっ、と言い切ったヒソカを、弾かれたように私は見上げた。

「いいの?」

「もちろん◆それとも、一緒に行くのはイヤかい?」

「そ、そんなことないけど!…………ただ、私が行っても……すぐに殺されちゃうかな、と……相当の使い手だけが集まってる世界だし」

「大丈夫、キミはボクが守るから…………いいよね、クロロ?」

ヒソカの言葉に、クロロは降参といった風に両手を挙げた。

「……マルチタップは用意してある。準備が整い次第、行ってくれ」

マルチタップは用意……ってことは、最初から私が行くことを想定してたんじゃん!

「準備……、大丈夫だよね?」

「うん。どうせ向こうじゃほとんど何も使えないと思うし」

「そうだね…………それじゃあ、ボクらは行くけど……何か最後に言うことは?」

まるで、クロロがまだ隠し事をしていることを見越しているようだ。
……いや、事実見越していったのだろうけど。

「グリードアイランドは、現実の世界だ。…………オレはヨークシンから東に行って、グリードアイランドに辿り着いた。…………もっとも、辿り着いただけで、強制退去をさせられたがな」

「つまり、それが意味するところは…………」

「現実の世界である限り、あちらにあるものはすべて現存する―――まぁ、念で作られるものもあるが―――よく、考えて行動しろ、ということだ」

「了解…………じゃあ、ボクが最初に行くからね◆」

「あ、うん。じゃ、また後で」

バイバイ、と手を振って、ヒソカはジョイステーションに手をかざした。
パッとヒソカの姿が消えてなくなる。

、ずいぶん修行したみたいだな」

クロロの言葉に、んー、と私は上を見上げた。

「まぁ、修行はしたんだけどね。実戦でどうなるか…………クロロは?」

「念が使えんからな、毎日体の鍛錬ばかりだ」

確かに、前見たときよりも少しマッチョになってる気がする。

「あんまりやりすぎると、マッチョになるからね。ウボォーさんみたいになったらヤダからね」

「…………自重する。…………気をつけろよ、この中には色々なヤツがいる」

「うん。……大分すばやさは身に付いたつもりなんだけど……まだまだ強化系はダメだからさ」

「戦闘面でもそうだが…………こういったゲームの中での女性の比率は少ない。そっちにも十分気をつけるんだな」

「?うん…………?」

「(……わかってないな、これは)……まぁ、とにかく気をつけろ、ということだ」

「わかった。…………あ、もう大丈夫みたいだ。……じゃ、行ってきます」

「あぁ、くれぐれも気をつけて」

片手を上げるクロロに、笑いかけると、さっと手をジョイステーションにかざして、練をした。