マチが去ったのを見届けると、まずヒソカは自分の中指についている指輪―――が彼に贈った指輪を抜き取った。 そのままの手に握らせる。 自己治癒力を高める指輪。これで少しは回復が早まるだろう。 サイドテーブルに置かれた薬を2錠取る。 それを、水と一緒にためらいなく口に含むと、苦しげに開けられているの唇に注いだ。 コクリ……と小さく喉を鳴らして嚥下する。 口の中に収まりきらずに、端を伝って流れた液体を拭ってやった。 バスルームへ行き洗面器に水を張ってテーブルの上に用意する。 タオルを水に浸して絞ると、額に浮き出ている汗を拭き取ってやり、さらにそのタオルを乗せる。 後は頻繁にタオルを替えるのを繰り返すことしかできることはない。 献身的なマジシャン
ツキン、と小さな痛みから始まった。 痛みを自覚すると、今度は脈と共に段々と大きくなる痛み。 「い……っ…………」 ったぁぁぁぁぁ!!! 言葉を発するのさえ痛くて、残りの言葉は心の中で叫んだ。 「大丈夫だから、、落ち着いて◆」 すぐそばでヒソカの言葉が聞こえる。 けど。 まともに聞けないくらい、痛いんだよ〜〜〜!(泣) 口に、なにかが流し込まれる。 無我夢中でそれを飲み込む。 「大丈夫だから、大丈夫…………ゥ」 ヒソカの声が優しく耳を刺激する。 痛みは激しく腹を刺激してるけどね! 痛みに耐えるように、私はシーツを握り締めた。 あぁ…………ぱったり意識を失えたらどんなに楽なんだろう…………。 でも、意識してそれができるはずもなく。 私は、ただただ歯を食いしばって痛みに耐えていた。 しばらくすると。 少しだけど、痛みが薄れていた。 「…………ヒソ……カ」 「ウン、大分落ち着いたようだねゥ」 ヒソカが私の額に浮き出た脂汗を拭き取ってくれた。 冷たいタオルが気持ちいい〜…………。 「薬が効いてるうちはいいけど、切れだしたらまた痛むと思うから◆」 「う…………あ、そうだ…………そろそろアスクレピオスの猶予期間も過ぎるころだし……」 「ダメだよァ」 「え?」 「今はまだ体力の消耗が激しいこんな状態で精神的にも疲労を伴う念能力使ったら、危険だ◆…………もうしばらく落ち着くまで、ガマンゥ」 「うぇぇぇ〜!?……は、早くこの痛みとおさらばしたいんですが…………」 「ガ・マ・ンゥ」 「………………ハイ」 返事をしてから、なにか体がスースーしてることに気づく。 ん……?…………いつも、体を覆ってるはずの、布の感触が…………。 布の、感触が…………(汗) 「$%*+☆!?」 「、動くと痛むよ?」 「い、痛む……のはヤだけど……それよりも!ヒ、ヒソカさん!…………わ、私の……お洋服は…………?」 「あぁ……血で汚れてたし、脱がせたよゥ」 ああぁぁぁあ!!!やっぱしぃぃぃぃぃ!!! ちら、とヒソカに視線を移し、おそるおそる聞いてみる。 「………………み、見た……?」 ヒソカはニッコリ笑って 「なにを?」 と聞き返してきた! …………完っ全に楽しんでる!からかってる! 「ヒ、ヒソカさん!」 「んー…………キレイだったよゥ」 ぎゃあぁぁぁぁぁあ〜〜〜!!! 穴があったら入りたい〜〜〜!!! くっそぉぉ〜!!こんな状況作ったあのオッサンたち、今度見かけたら…………え〜っと、ヒソカに言って叩きのめしてやるから!(他力本願) ……………でも、実は私がこうして恨みを募らせていたときには、正体不明の一団(女子供の姿あり)によってマフィアは壊滅に追い込まれてたって、後で人づてに聞いた。 正体不明の一団って…………何者??? 眠ることもできずに、ぼーっと過ごすこと半日。 その間、ヒソカはずっと側についててくれた。 痛み止めが効いているらしく、なにか衝撃を与えない限りは痛くない。 だから、早くアスクレピオスを呼び出したいんだけど…………ヒソカが言うには、明日まで念を使っちゃいけないんだそうだ。 私は、ヒソカの『服、着せてあげようか?』発言を即行で却下し、結局ハダカのまま布団の中にいる。 はぁ…………早く『自分で』(←ここポイント)服着たいよぉ〜…………(泣) ヒソカはどこから手に入れたのか…………分厚い本をパラパラと捲っている。 「ヒソカ、その本何?」 「オークションのカタログゥ、何か欲しいものある?」 カタログ……って! それだけでも高いやつじゃないっけ!? 「や、別に欲しいものなんてないよ!…………ヒソカは何かあるの?」 「んー、別に」 ないんなら、高いお金払ってカタログ買わないでよ!もったいない!!! そう、もったいないといえば! 「ヒソカ…………この無駄に広い部屋はなんとかならないのですかね……?」 明らかに私たちが今まで泊まっていた部屋とは、広さ、質ともに違う。 私が今寝てるベッド…………これだけで小さな部屋が埋まりますよ(汗) 「まぁたまにはいいんじゃない?…………でも、ボクとしても小さい部屋の方がが近くにいるから好きなんだけどゥ」 …………………この人は……………………。 「あれ?、顔赤いよ?」 ニヤニヤしてるのがもろばれだっつの!! あぁ、もう枕かなんかを投げつけてやりたいけど…………!動かない体が憎いぃぃぃぃぃ!!! 「…………そうだ、ゥ」 「ん?」 「傷が治ったら、またちょっとした山にこもるからねゥ」 「………………………………………………………は?」 たっぷり5秒はかけてから、私はやっと言葉を発した。 …………………えーっと…………山、こもる………………? 「えぇぇぇぇ!?山ご……あいたたたたっ」 あまりにもビックリして動いてしまったものだから、ズキィィィン!と強烈な痛みが……痛た……涙目になっちゃったよ……。 「無茶しないァ」 「無茶させるような言葉を発しないでください……って、山ごもり!?ホントにあの、山ごもり!?」 「ウンゥ基礎体力強化と……体術をキチンと覚えなきゃねゥ今回は、相手が銃を使ってこなかったから楽だったけど、これから先、銃なんてザラにある◆元々身体能力は高いんだから、もっとそれに磨きをかけて……さらに、念で身体能力高める訓練もしなきゃねァ」 「……………………ようは、弱点克服、どんと来い強化系……ってわけですね?」 「そ◆…………まぁ、目的は他にもあるんだけど」 含んだような笑い。 ………………そんなことをわざわざ言うってことは、聞いて欲しい、ってことだよね? 「他の目的って?」 待ってました、と言わんばかりに輝く瞳。 やっぱり聞かなきゃよかった、とちょっと後悔。 「、クロロが念をかけられたのは知ってるかい?」 「うん。クラピカの『 「そうゥ…………じゃ、念を外すことが出来る能力者がいるのも、知ってるかい?」 私はヒソカのその言葉で、ピン、と来た。 「……………………除念?」 ヒソカがニッコリ笑って満足げに頷く。 「クロロは団員との接触を禁じられてるからね◆世界に5人といない優秀な除念師を探せるくらいの人間は、ボクしかいないゥ」 ものすごい自信だけど……ヒソカはそれを本当にするだけの力を持っている。 んー…………そうだったね。クロロは確かに、ヒソカに除念師探しを依頼してるんだ。 「………………報酬は、クロロとのタイマン?」 「その通りゥ…………まぁ、除念師を探すにはきっとそれ相応の能力がいると思う◆だから、に及ぶ危険を少しでも少なくするために、訓練するからねゥ」 うぅ…………ニコヤカに言ってるけど、この訓練、絶対キツイって…………。 ちら、と目だけでヒソカを見ると、ニィッコリ笑って反応を待ってる。 ………………こんな状況での選択肢は1つしかないじゃないか。 「………………どんとこい、山ごもり」 ヒソカはますます笑みを深くした。 嬉しそうに、 「じゃ、まずはゆっくり寝て、傷を治そうねゥ」 ぽんぽん、と肩を叩くのだった。 |