今日のヒソカは、髪型だけじゃなく、服装まで一般人と同じ。
一目見ただけじゃ、別人だ。これじゃあ誰もあの『ヒソカ』だとは思わないだろう。
でも、たった1つ問題なのは。

………………メチャクチャカッコイイってことなのよ……。

空港のホテルを出てから、ヨークシンへ向かうまでの間、一体何人……ううん、何百人の女の子の痛々しい視線を受け取ったことか!!!
ほら、今こうしてる間にも、女の子が振り返った。
ヒソカに見惚れて―――隣でおまけのようにくっついている私を見て、あからさまに不快そうな表情をする。
………………あぁ、もう。なまじ人の気配なんてものがわかるようになってしまったもので、その凍てつくような視線もありありとわかってしまうのですよね…………はぁ、心に深い傷ができそう…………シクシク。

?」

「……ん?」

「どうかした?」

「…………んーん。別に」

こうやって会話すればするほど、周りの視線が痛い痛い。
人間不信になったら、どーしてくれよう…………。

ヒソカはセットしていないから、いつもとは違ってサラサラと風になびく髪(ちなみに私よりサラサラだ!!!)をかきあげて、不思議そうな顔をして、私の眉間に手を伸ばす。
突然指が近づいてきたものだから、ビックリして思わず目を閉じる。
ヒソカは長い指で、私の眉間の皮膚を伸ばした。

「シワ、寄ってるよ

「あ、それはどうも…………」

ザクザクザクザクッ!!!

「うっ………!」

あまりにも露骨な視線の攻撃に、思わずうめき声をもらす、私。
今の行動で、あらぬ嫉妬をまたもや買ってしまったらしい。

(なにいちゃついてんのよ!)

とかいう心の声が今にも聞こえてきそうだ。
いやっ!心じゃなくて、実際あの人たち言ってるって!絶対!

?……気分悪いんだったら、どこかで休む?」

「あ、やっ、そういうワケではないんだけども!…………あ、ねぇ、ヒソカ!え、えと……べ、別行動にする?ヒソカも私なんかとくっついてちゃ……」

「絶対イヤ

最後まで言わせてさえくれず、ヒソカは即効否定をする。
それでもなんとか、言葉を捜して宙をさまよう私の視線をしっかりと捉えて、わざわざ目線まで合わせてきて言い聞かせるようにゆっくり話す。

「ボクはと一緒にいたいんだ◆」

「で、でも…………」

周りの方が許してくれそうにないのでは……(汗)
このままだったら、お店が集中してるメインストリートまで行くのに、何度私は人間不信に陥るかわかりませんよ……!!

ヒソカは、ふぅ……と目を伏せてため息をついた。
そんな姿もカッコい……(違うだろ)

「……せっかく普通のデートを楽しもうと思ったから、今までなんにも反応しないで置いたけど…………これじゃ、台無しになるな……

ヒソカにしては珍しくボソボソと独り言を言う。
それすらも聞き逃しそうになるほど、私はヒソカの端整な顔を眺めていた。

「よし

ヒソカは満面の笑みで私を見る。
う……ッ……カッコよすぎるよ〜〜〜!!!

「…………少し、周りの人たちには黙っていてもらおうか

「へ?」

ブワッ!!!

一気にヒソカから殺気が発せられた!
それはホンの一瞬で収まったけれど……私を含め、周りで興味津津だった人々は、固まったまま動けない。

「……よしじゃ、、デートの続きをしようか◆」

いつもヒソカといるから、少しだけ私には殺気に対する抵抗力がついていたのだろうか。
ヒソカの言葉に我に返って、慌ててコクコク頷いた。




少し歩いて、おしゃれなブティックに足を踏み入れる。
おそらくこのお店は、俗に言う『セレブ』な方々が利用するだろう、っていう……まぁ、ぶっちゃけて言えば、高そうなお店だ。
そんなお店に、ヒソカは鼻歌さえ歌いそうな雰囲気で私の手を握って店に入る。

「いらっしゃいませ」

美人の店員さんが丁寧に頭を下げた。
一見すると不思議な組み合わせ(イケメン年齢不詳男+一般ピープル女)の私たちに、妙な目線を向けてくることもない。……素晴らしいプロ精神だ。

ヒソカは嬉しそうにその辺に置いてある服を手当たりしだい、私に合わせてくる。

「んー、この白も似合うけど……やっぱり黒も捨てがたい◆イヤイヤ、こっちの青も…………

着る本人より、ヒソカの方が熱心だ…………(汗)
ふと、ヒソカが手にした服の値札に目がいった。

『118000J』

………………………。

じゅういちまんはっせんジェニー!!!???

「ヒ、ヒソッ、ヒソカ!!!け、桁!桁が違う!およそ2つほど桁が……ッ!」

ボソボソと店員さんに聞こえないように(小市民)ヒソカに耳打ちする。
ヒソカはニッコリ笑って、

「大丈夫指輪のお礼に、ボクが全部払ってあげるから◆」

「いや、それでも……!!」

「あ、このブラウスいいね………うん、これに決めた

さっさとそれを持って、会計に向かうヒソカ。

「ちょ、ちょー!?」

あまりの展開(&値段)に思考がついていかなくて、意味不明な叫び声だけが口から出る。
だって、だって!

118000ジェニーだよ!?

私が買った指輪2個買ってさらにおつりが来るっての!!!

「ヒソカ〜〜〜!!!」

「ありがとうございました」

チンッ。

軽やかなレジの音に、私はガックリと肩を落とした。

「さっ、次はドコに行く?違うお店も見てみようか

とかいって、また高級店に連れて行かれちゃこっちの心臓が持たない!

「ク、クレープなんて食べ歩きながら、街を歩きたいなー、なんて!」

苦し紛れに出てきた、このなんだか中学生みたいな提案に、ヒソカは嬉しそうに何度も頷いた。




露店でクレープを買って(当然のようにヒソカが奢ってくれた)、私とヒソカはクレープを食べながら、ブラブラと歩みを進める。
ちょこっと目の端に映った店をひやかしながら(服を買ってくれそうになったヒソカを、食べ物持ってるから、という理由で何度も止めた)、それはそれは中学生のようなデートを楽しんだ。

私はすっかり上機嫌になって、ヒソカの隣を悠々と歩いていた。
もはや、凍てつくような視線にも慣れた(キッパリ)
クレープと同じく、ヒソカに買ってもらったアイスを食べながら、角を曲がったとき。
ヒソカがポソリ、と呟いた。

「………………つけられてるな

「え?」

思わず後ろを振り返りそうになったけど、あまりにも不自然だからすんでのところでやめた。
つけられてる……って。
…………まーた、ヒソカ絡みか。
ヒソカの性格上、まぁ敵を作ることも少なくないわけで、何度も襲撃されたりはしてる。
でも、敵さんもよくわかったなぁ……ヒソカ、いつもと全く違う格好してるのに。

「…………、そのまま何事もなかったかのように歩いて…………次の角で一旦別れようはそのまままっすぐ行ってまっすぐ行けば、噴水のある公園に出ると思うから、そこでちょっと待っててくれるかい?」

「うん、わかった。まっすぐね?」

「あぁボクも片付き次第、すぐに行くから◆」

はーい、と返事をして、私はアイスクリームをなめながらまっすぐ歩く。
別れたヒソカに手を振りながら、私は歩いていった。




(…………せっかくと楽しいひとときを過ごしていたっていうのに……

人ごみに消えていったを見送って、心の中で悪態をつく。
至福の時間を妨げたこの落とし前、どうつけてくれようか。
ありとあらゆる構想がヒソカの頭を支配する。

(ククク…………少しは手ごたえのあるヤツだといいんだけど

ゆっくりと、あくまで普通を装いながら、とは違う方向へ行く。
つけてくるだろう人物を人気のない方へ誘導するために、わざと細い道へ入った。

しばらく歩いたところで、ふと気づく。

(…………気配が、別れた?)

しかも、明らかに自分について来ている方が、人数が少ない。
すばやく、念の高等技である円を使った。
頭の中にものすごい勢いで入ってくる、さまざまな情報。
『絶』を意識的に使っている人間は、周囲に2人。
おかしい、さっきつけられてる気配を悟ったときは、もっと大人数だった。
自分の円の範囲内に、もう絶の使い手はいない。
大人数の気配を最後に悟ったのは―――と別れる寸前。


これらの情報が示していることは、ただ1つ。


狙われてるのは、自分じゃない。







だ。