傍にあるぬくもり


あっさり眠りについたわりには、何度も目が覚めた。
その度に、隣にヒソカがいることを確かめる。
そこにいることに安心しては眠りにつき、また目を覚ましては確認する。
もう何回目だろう。
目が覚めた私は、サイドテーブルに置かれた時計に目をやった。
5:34。
寝たのが2:30ごろだったから……3時間くらい寝たのか。
でも、なんだかもう目が冴えてきちゃって寝れなさそうだなぁ……寝なきゃいけないのはわかってるんだけどさ。
もぞもぞ動きながらヒソカの顔が見えるように、少し下がった。

…………こんなに目が覚める原因、わかってないわけがない。

ここ数日間、ヒソカと会う回数が極端に少なかった。
…………なんだか、変な話だけど、小さいころに『お泊り』とか行くと親に会いたくて会いたくて仕方がなかった―――そんな気持ちにちょっと似てる。
ヒソカに会いたくて会いたくて仕方がなかった。
仕事で、旅団で、どうしてもやらなきゃいけないことがあって、会えないのはちゃんとわかってた。
そして、『原作』どおりにコトを進ませるのだったら、私がそれを妨害してはいけないことも理解していた。
でも、会いたくて仕方がなかったんだ。
ううん―――会えないのが不安だったんだ。

…………一応原作では、ヒソカは、マチのことが好き(なハズ)
旅団と行動を共にしている間に、やっぱりマチがいるから旅団に残る―――とか万が一あったらどうしよう、とか。
クロロと闘ってそのままどこか行ってしまったらどうしよう、とか。
…………私のことなんて忘れて置いて行ったらどうしよう、とか。

ベッドに1人でいると考えるのはそういうネガティブなことばかり。

もっといっぱい話したい。
手を伸ばせば触れられる距離にいつもいたい。
ヒソカ、って呼んだらすぐ返事してくれるぐらい、近くにいて欲しい。

無意識に手を伸ばした。

気配に敏感なヒソカだ。
起こさないように、そぉっと触れた。
―――いや、触れようと、した。

動いていた手はヒソカに掴まれ、あっという間にすっぽりと包まれる。

「……どうかしたのかい?」

ちょっと眠そうなヒソカの目。
私は、慌てて起こしてしまったことを謝った。

「別にいいよ◆……それより、も何度も目を覚ましてるだろ?…………もうちょっと、眠りなよ……

私の顔の上に、ヒソカの髪の毛がかかる。
柔らかい髪の毛が、頬を掠めてくすぐったい。
規則的な寝息が額にかかる。
そのリズムにつられて、私もすぅ、と眠りの世界に誘われた。



抱え込まれて少しだけ緊張したの体から、ゆっくりと力が抜けていったのを確認して、ヒソカは目を開けた。
そっと顔を盗み見ると、くぅくぅと可愛い寝息を漏らしながら眠りについている。

彼女が何を心配しているのか、何を思っているのか、大体は見当がつく。
夜中に、何度も目を覚まして、存在を確認するように顔を覗き込んできたことも、全部知ってる。
もちろん、いちいち教える気はないけれど。

すがりつくように、服を掴む手。
彼女にはなにも武器をもたせたことはない。
柔らかい手は、そこらにいる少女となんら変わりはない。
―――けれど、確実に普通とは違う生活を送っている彼女。
肉体的にも、精神的にもキツくないわけがない。
それでも、自分を慕いついてくる少女。

(…………離すわけがないのに◆)

いつか自分が離れていくと思って疑わない少女。
だから、いつもギリギリのところでヒソカを頼ろうとはしない。
いつだって、たった一言『助けて』とさえ言ってくれれば、どこにいようと、どんなときであろうと、助けに行くのに。
彼女は、それをしない。
いつだって自分でなんとかしようとあがいている。

(…………そんな強いところに、惹かれた……ってのもあるけどね

明け方になって、少し寒くなったからだろうか。
心持ち体を丸くしたを、両の腕で抱きしめる。
ふわり、と緩んだ表情。
きっと彼女が起きていたなら、少し照れながらもやはりこう言うのだろう。

『ありがとう』

こんな自分に向かって、笑顔でお礼を言う少女を。
手放せるわけがないじゃないか。




ぱちっ、と目が覚めた。
目覚めるべくして目覚めたんだ。体の疲れもスッキリ解消!

「オハヨウ

当然のように言ってくるのは、目の前の人物。

「……おはよ、ヒソカ」

まだ髪もセットしていないヒソカは、にっこりと笑ってくれる。
はぁ…………至近距離での美形の笑顔はどこに目をやったらいいのかわからないよ……。

「今、何時?」

「もうすぐ11時

「……え。そんなに寝てたのかぁ……」

「疲れてたんだよ…………さて、どうしますか、お嬢さん

「どうする……って?」

「ずいぶん旅団がらみで大変な目に遭わせたからね今日1日は、の言うこと、なんでも聞いてあげるよ◆」

「…………………………ホント!?」

ホントホント、とヒソカが頷く。

「じゃあ、もっかいヨークシン歩きたい!今度はじっくり見て回るの!」

「…………そんなことでいいのかい?」

驚いているヒソカの顔。
そんなこと……って、私にとっては結構なことなんだけど。

「だって、この間も結局ケータイ買いに行って終わったし。ヒソカと2人でもう1回見て回りたい!」

「……うん、わかったじゃ、少し早めのお昼食べて、街に行こうか◆」

そう言って、ヒソカはサイドテーブルの電話を手に取り、ルームサービスを頼む。
すぐにやってきたそれを、2人で食べる。
あぁ……おいしい……まともな食事って、素敵…………vv


食べ終わってすぐに、私たちは出かける準備をした。
すでにもう着替えは済ませていたのだけど、荷物を整理したり、まぁ色々することがあったのだ。
でも、中々ヒソカは髪型をセットしようとしない。
いつも、朝1番にセットするのに珍しいので、聞いてみた。

「ヒソカ、今日は髪セットしないの?」

「あぁ、今日はこのままで行こうと思ってね◆(その方が周りに男が食いつかないし)」

「ふぅん……(でもそうすると、ヒソカの周りに女の人がいっぱい群がるんだろうなぁ)」

じぃっとヒソカの端整な顔を見る。
……あ、目が合った。
なんとなく、逸らしがたいので、にへらと笑って目をそむけた。

はぁ…………きっと、このまま外に出たら、完璧『兄』と『妹』設定になるんだろうなぁ。
…………まぁ、それも悪くはないけれど。

「さ、行こうか◆」

「おっけー!」

「まずはドコ行く?」

「…………えぇっとねぇ……服!服みたい!」

「了解