また会う日まで





走るイルミの後を必死で追いかけて、大通りに出た。
雨が降っていて、深夜なのに、ものすごい人通り。…………ううん、深夜だからこその、人通り、かな?
とにかくその人ごみをくぐりぬけて、2人でタクシーに乗り込む。

「リンゴーン空港まで」

イルミがなんの疲れも感じさせない声で運転手さんに行き先を告げる。
ちなみに、私はもうヘロヘロ。
息も絶え絶えに、後部座席でぐったりしてます。

「…………思ったよりやるじゃないか」

「へ?」

「いざとなったら、オレが担いででも抜け出さなきゃいけないかな、とは思ってたんだ。けど、ちゃんとオレの足にもついてきてるし」

「…………その点は、最初のころにみっちりヒソカさんに仕込まれたので。でも、イルミだいぶ手加減して走ってたでしょ?」

「まぁね。…………君の能力も面白いし。ヒソカが夢中になる気持ちがよくわかるよ」

「そんな、滅相もない(汗)」

夢中って、そんな……(滝汗)
私は慌てて話題を探した。
でも、イルミと共通の話題なんて……キルアのことくらいしかない。

「キルアも、ヨークシンにいるんだよね」

「キルアに会ったの?」

「うん。ゴンと一緒にいたよ」

「そう」

…………あら?あんまり興味なさそうね。
途切れた会話。
新たな話題を探していると、今度はイルミの方から聞いてきた。

「ヒソカの弟子なんだって?」

「……弟子って言っても、ホント、まだまだひよっこの分際ですが」

「あのヒソカが弟子なんていうから、どんな人間かと思ったら、君みたいな女の子だとはね。初めて見たときはビックリしたよ」

「私もヒソカが一緒に連れて行ってくれる、って言ってくれたときはビックリしたよ。…………リンゴーン空港までどれくらい?」

「まぁ、1時間もあれば着くと思うけど。…………ヒソカの弟子になったのはいつ?」

「えーっとね……7月の下旬かな?今が9月4日だから……1ヶ月半くらい前」

「…………1ヶ月半?…………その前になにか修行とかしてたの?」

私はブンブンと首を振った。
元の世界じゃ一般ピープルだった私は、そんな大層なコトなどしていませんよ。

「そのワリに、足とか速いよね」

「…………えーっと、生まれつき?かな?あははははは」

不自然な私の笑いに、イルミは不思議そうに首をちょっとかしげたけど、うまくスルーしてくれたみたいだ。

「念能力もヒソカから?」

「うん。みっちり教えてくれるからね、なんとか能力発動できるくらいまでにはなった」

リンゴーン空港は、もうすぐそこ。
せめて着く前に、もう少しだけイルミと話をしておきたいのよ!
私は、原作ファンとしてここは譲れない!と意気込んでしゃべりまくった。




リンゴーン空港には、人がまばらにしかいなかった。
ただでさえ少ない人間の中で、ひときわ目立つ容姿を持った人―――ヒソカを探し出すのは簡単だった。
の〜んびりソファに座って、携帯をいじくっている。

「…………ヒソカッ」

私は思わず人目もはばからずに声を発して、ヒソカへ駆け寄った。
ソファに座っていたヒソカも、立ち上がって迎えてくれる。



「はぁ……やっと会えた……なんだか、すっごい疲れた気がするよ……。ホント、ヒソカがいなくなってイルミに変わってたときは驚いた」

「事情を説明する暇がなくてね◆でも、上手く抜け出してくれてよかった…………助かったよ

最後の言葉は、イルミに向けられたもの。

「まぁ、仕事だしね。…………約束の口座に入金よろしく」

「ハイハイ

「あぁ、そうそう。の逃走料金はサービスしておいてあげるよ」

「え?あ、ありがとう。イルミ、またどっかで会えたらいいね」

私の言葉に、ヒソカはくすっと笑いを漏らし、イルミは反応に困ったのか身動きをしない。
………………なにか、変なこと言った?私。

「…………あのね、。オレとまたどこかであったら、オレは仕事―――殺し屋の仕事中かもしれないんだよ?」

「え。…………それは困るから、今度会うときはぜひとも仕事中じゃないオフの時にね」

「………………君、オレと会うと危険とかそういう考えはないの?」

「だって、ヒソカと一緒にいるから。もう慣れたよ」

まぁ、慣れたって言っても、夜中、寝てるときに襲撃されたりするのはすごいイヤだけどさ。
大抵は私が起きるまもなくヒソカがやっつけちゃうみたいだし。
危険でも何でも、私はハンターキャラ(しかも人気の高いイルミ)に会えることを選ぶわ!!!

「………………ある意味、スゴイ大物かもね、このコ」

「だろ?だから面白いんだよ…………さ、、これからはまた2人旅に戻るからね◆」

「うん。…………イルミ、ありがとね」

「あぁ。もしなにかあったらまた連絡してくれ。料金はサービスしとくよ」

有料だけどね、と言い残して、イルミは去っていった。
2人きりになった私とヒソカ。

「…………とりあえず、夜も遅いし空港のホテルに止まってから、ドコ行くか決めようか

ヒソカの言葉に私が反対するわけもなく。
空港隣接のホテルに私たちを足を向けたのだった。




ホテルにチェックインして部屋に着いたときには、もう2時を回っていた。
私は持っていた荷物を椅子の上に投げ出すと、たまらずにベッドに飛び込む。

、お風呂先に入ってきなよ◆」

「んー……じゃあ、行ってこようかな……」

着替えは……バスローブでいいや。バスルームに置いてあるだろうし。
手ぶらで入って、あつ〜いシャワーを浴びた。
はぁ……やっぱり、シャワーはあったかいのがいいね……(ホロリ)
じっくりシャワーを堪能した後、備え付けのバスタオルで体を拭いて、置いてあったバスローブに手を通す。

「…………お先出ました〜……」

「じゃ、ボクも

ヒソカも手ぶらでシャワーを浴びに入る。
私はベッドに飛び込んで、ゴソゴソと布団の中へ入り込んだ。
ベッドカバーを外すのも面倒くさい。いいや、そのまま掛け布団にしてしまえ。
その体勢だと眠くなるのが当たり前というもので。
ヒソカが出てくるまで起きてよう、と思ったのにトロトロと睡魔が襲ってきた。

「……?……寝ちゃった?」

ヒソカの声に、はっと目が覚めた。

「お、起きてる!」

言いながら私が身を起こすより早く、ヒソカがベッドの中に滑り込んできた。

「!?ヒ、ヒソカ!?」

「なんにもしないよ◆まだ、ね……

まだって、ナンデスカ―――!!!(大絶叫)
心の中では大絶叫だけど、口はぱくぱくと金魚のように開閉を繰り返すだけで、声が出てこないッ!あんまり驚きすぎると、人間声も出なくなるのね!!!(突っ込むトコ違)

ヒソカはなんにもしない、って言ったワリには、ぎゅ〜ってしてくる。
…………別に、イヤじゃないんだけどさ……照れるんだよね(汗)

「抜け出してくるときに、能力使ったの?」

「うん。えっとね、『ウラノス』使った。すごいんだよ!私、空飛んだんだ!」

人類の夢、空を飛ぶってことを、私はやっちゃったんだよね、そういえば!

「へぇ……でもそうすると、数日間は使えないモノが増えたね◆」

確かに。
一昨日から毎日なにかしら発動してる。
治療系の能力は見たところもうないし、移動系もないかな……。
やたら残ってるのは、具現化して戦闘させる、っていうタイプだけど…………今の私の念能力じゃ、具現化してもせいぜい2、3分が限界だろう。私も闘うんだったらもっと消耗するから、もっともっと短時間しか具現化できない。…………ようは疲れ損するだけだから、これはまだ発動しない方が無難ってコトだよね。

「んー………とりあえず、しばらくケガしないようにしようね」

「大丈夫はボクが守ってあげるから

「そ、それはどうもありがとう……」

は、恥ずかし―――!!!恥ずかしすぎるよ、ヒソカ―――!!!
でも、こーゆー恥ずかしいセリフをさらっと言えちゃうところが、ヒソカのヒソカたる所以なんだろーなぁ……。
ヒソカは、満足そうに私を抱きしめる。
なんか、段々こーゆースキンシップに慣れてきた…………習慣って恐ろしい。

「もう、寝ようか◆」

体が近づいた分、ヒソカの吐息が耳に当たってくすぐったい。
私は少し身をよじったけど、ヒソカの手はそれさえ許してくれなかった。

「ね、寝るって、このままで?」

「そう

当たり前のように言うから、二の句が継げなかった。
もやもや考えている間に、ヒソカはサイドテーブルのナイトランプを消してしまう。

「ヒ、ヒソカ!ベッドは2つあるんだし、有効に使…………」

「あぁ……今度からはダブルベッドのところにしようか

ひえぇぇぇぇ(汗)

「ヒソ、ヒソカさん!」

「ま、じっくり待つさ◆おいしく実るのをね…………まぁ、もっともそれまでボクの理性がもってればの話だけど

もたせてください!ぜひとも!!!!!
っていうか、私たちソーユー関係になっちゃったの?ねえ、なっちゃったの!?
でも聞きだせずに、なんとも言えない表情をしていると。
………………この人は人の心が読めるのだろうか。

「ボクは君が好きだよ

甘い甘いセリフを吐いてくれちゃうのだ。
…………くそう、こうなったら言わないわけにいかなくなるじゃないか。

「…………私も、ヒソカが好き、だよ?」

小さい小さい声。
だけど、こんな距離でしかも静かな部屋の中でヒソカが聞き逃すわけもない。
笑って、軽いキスをしてくる。
もはや、抵抗する気はなかった。

唇を重ね合わせるだけのキスをした後。
ぎゅうっとヒソカは私を抱きしめて。

「オヤスミ

と呟いた。
私はさっきより心持ち大きい声で、言った。

「おやすみ」

それは、真夜中の出来事。
明日からはまた、2人きりの旅が始まる。