訓練が終わって、私たちは一息ついていた。
たくさん買い込んであった食糧に手をつけつつ、フランクリン、ボノレノフとトランプ(ババ抜き)をする。
ヒソカも誘ったんだけど、さっきから上のほうで携帯をいじくっていた。
プルルルル…………。
携帯電話の電子音が、薄暗い部屋の中に響き渡る。
誰の携帯だろう?
私はバイブ設定にしてあるから、私のじゃない。ボノレノフを見たら、包帯だらけの顔を横に振った。
じゃあ、フランクリンだ。
ゴソゴソとフランクリンが大きな手で小さな物体を取り出した。
…………小さな物体だと思ってたら、携帯だ!あの小さなものは携帯だ!
ど、どうやってボタン押すんだろう……(ドキドキ)
驚きながら、私はフランクリンの札を1枚引く。
「聞いてくれ。シャルからのメールなんだが…………団長が誘拐されたらしい。7人とも戻るそうだ」
「10人そろってねーと団長が死ぬ……か。人質を連絡係に使うとはな」
「頭のいいヤロウだ」
「手強いな」
ボノレノフが言ったとき、私は自分のトランプをその場に出した。
残る手札は1枚。ちなみに次は、ボノレノフが私の手札を引く番。
包帯でろくに顔も見えないけど、『マズイ』って言う感じがわかる。
私はニ〜ッコリ笑って言った。
「ハイ、あがり♪」
偽者、人形、大脱走!
ザアァァァァァ…………
雨の音が激しくなった気がする。
雷もさっきからずっと鳴り響いてる。
カタン、と小さな音が聞こえた。
雷や雨の音の中で、聞こえるか聞こえないか程度の小さな音。
「誰かいるな。……調べるぞ。はここにいろ。もしもなにかあったら、大声を出せ」
ヒソカが1つ頷いて私の脇を通っていく。そのときにそっと耳打ちをした。
『、後でメールを見てゥ』
顔を上げてヒソカを見ようとしたけど、すでにヒソカは物音が聞こえた方へ歩いている。
しばらく、静寂が続く。
ぼーっと待ちながら、携帯を手に取る。けど、なんにも反応はない。
…………なんだろ?
不思議に思ってると、3人はさっさと戻ってきた。
「ガキが1人いただけだった。、こっちに変わりはないか?」
「うん。なんにもなかったよ」
「それはよかったァ」
そう言って笑ったヒソカの顔に、なにか違和感を感じる。
「……………………?」
「どうかしたのかい?」
はっ、と気づいて私は慌てて頭を振った。
「ううん!なんでもない!……じゃ、とりあえずみんな帰ってくるの待つんだ?」
「そうだな。なんにせよ、全員が揃ってからの方がいい。も、疲れてたら少し休んでてもいいぞ」
「……そう?じゃ、ちょっとだけ休んでこようかな。ね、ヒソカ、部屋ドコだっけ?」
「あぁ、ついておいで◆」
「ヒソカ、部屋に送ったら、さっさと戻って来いよ」
「ハイハイ」
私はヒソカの手を握って、廊下に出た。
部屋の場所は覚えてる。てくてく歩いて、この間の部屋に入った。
ベッドに腰掛けて、ニコッと笑った。
「初めまして。って言います」
ヒソカは―――ううん、イルミはふぅ、と息を吐き出した。
ヒソカの顔だけど……全然違う表情。
人形みたいな―――ビー玉によく似た瞳。
「やっぱり、君はだませなかったか」
「……なんとなく、会ったときに違和感が、ね。…………イルミ=ゾルディックさん?」
「イルミでいいよ。オレもって呼ぶし」
「ん。ヒソカに頼まれたんでしょ?クロロと闘いたいからって」
「うん。でも有料。…………後、キミを無事に届ける任務もあるから、料金は少し上乗せ」
「……はい、ご迷惑おかけします。1人じゃ抜け出せないです、絶対に」
「旅団関係は、オレも100%の保障はできないけどね。…………じゃ、オレはそろそろあっちに戻るね」
「あ、うん」
「は疲れてるみたいだし、少し寝てなよ。じゃ、また」
「うん、ありがとうね」
ヒラヒラと手を振って、イルミはすぐにヒソカの仮面を被って、部屋を出て行く。
私は、少し落ち着くために、息を吐いた。
ふと、携帯に手をやる。
カブトムシの羽を伸ばして、画面を開くと、メールが届いていた。
送信者はヒソカ。
私は、ボタンを操作して、メールを読んだ(ここ数日で大分ハンター語に慣れた)
『クロロと闘うためにアジトを離れるけど、ボクの知り合い置いていくから、彼の指示に従ってァいざとなったら、遠慮なく能力発動してね◆』
遠慮なく…………ん〜……他に眠らせられるのとか、いたかな……?
後で探しておこう。行動不能にするヤツ。
ぽちぽちと下のほうへカーソルを持っていくと、まだ続きがあった。
『必ず迎えに行くから、心配しないでゥ』
最後の一文を見て、ほーっと安心して息を吐いた。
…………こんなところに置いてけぼりにされちゃ、困るからね。
『わかった。イルミとはもう話したから大丈夫だよ。待ってるからね』
音声入力は出来ないので(声響くし、みんなありえない聴覚してるし)ポチポチ時間をかけながら入力した。
送信ボタンを押して、送信完了の画面を見る。
ふぅ、と息を吐いてから携帯を枕元においやって、眠りについた。
ガンッ、と何かが蹴っ飛ばされる音で目が覚めた。
ちょっとだけと思ってたんだけど……だいぶ、深く寝ちゃったみたいだ。
枕元に置いてあった携帯で時間を確認する。11:20……完璧に寝すぎだ。
身をおこして、寝癖を整えて、急いで扉を開ける。
廊下に出るとすぐ、フィンクスと会った。
フィンクスの周りのモノは彼に蹴られたらしく……なんだか、とてもかわいそうなことになっている。
「フィ、フィンクス……?」
「……おぅ、か。…………わりぃな、起こしたか」
「イヤ、それは全然構わないんだけどさ。どーしたの、当り散らしちゃって」
フィンクスがちっ、と舌打ちをして、団長がさらわれたのを助けに、パクノダが人質2人を連れて出て行ったことを教えてくれた。
クラピカの計画はちゃくちゃくと進んでいるらしい。
ってことは、もうすぐヒソカが団長と闘いになるんじゃないのかな。
いつでも抜け出せるように、イルミの側にいなきゃ。
「…………大広間にいなくていいの?」
「……いなきゃいけねーんだが、どーにもムカついてよ。…………お前、もう大丈夫なのか?フランクリンのヤロウが言うには、そーとー疲れてたみてーだけど」
「あぁ……もう、日課ですから…………大丈夫。……じゃ、大広間行こ?」
フィンクスを促しながら、大広間へ入る。
私は上のほうでトランプをいじくっているヒソカの近くへ行った。
ヒソカに扮したイルミは、ヒソカとほとんど変わらない動作で私を隣に座らせる。
でも、やっぱりどこか違うのでなんか……とてもキモチワルイ。
イルミはイルミでまた普通に会ってみたいなぁ。
黒いサラサラの髪の毛も見てみたいしvv
そんなことを考えながら、私は本を具現化する。
万が一上手く抜け出せなかったときの脱出方法を考えておかなきゃ。
パラパラとページを捲って、ウラノスを発見する。
ウラノス 天空の神 空を飛ぶことが出来るようになる レベル5
レベル5か……大分体力消費するけど、いざとなったらこれで空に逃げようっと。
後は、アポロン…………太陽のような光で相手の目をくらます 自分も巻き込まれないように注意 レベル3
うん、これで不意打ちして……さっさと『返れ』って言ってウラノス呼び出そう。
でも、こう考えると、猶予期間って面倒だなぁ……ペガサスだったら1ページ目だから、ページ捲る時間ロスしないですむのに、猶予期間だから、いちいちなにを呼び出すか考えなくちゃいけないし。あんまり無駄に呼び出しても後で呼び出せなくて困る、ってことがあっちゃまずいからなぁ。
「…………、携帯鳴ってるよァ」
私はイルミの声を聞いて、本を消して、慌てて携帯を取り出した。
『リンゴーン空港で会おうゥ』
ヒソカからの短いメール。
私はイルミを見上げた。イルミはヒソカの顔で頷く。
「…………、やっぱり疲れてるんじゃない?もう1度寝てきたら?」
「そ、かな?」
「、あたしたちに気使わなくていいから、寝てきな。ヒソカのヤツがキツイ訓練させたみたいだし」
はは……私にとってキツくても、あなたがたにとってはウォームアップにもならない程度でしょうけどね…………。
マチの言葉に、私は頷いた。
「……じゃ、寝てくるね。おやすみ」
「あぁ、オヤスミ」
「、部屋まで送っていくよァ」
イルミが私と一緒に瓦礫の山から下りる。
「…………まったく、ヒソカもには過保護だね」
「ははは…………」
私の喉からは乾いた笑いが出るのみ。だって、過保護って言うのは否定できないから…………これが本当のヒソカでも、きっと私を部屋に送っていく、って平気で言ったと思うし。
私はイルミと一緒に大広間を出た。
…………よし、これで抜け出す準備は出来た。
さっきの部屋まで行って、荷物を持って廊下の一番奥まで行った。
ごくごく小さな声でイルミが言う。
「階段は音が響くから、窓から出よう。……っても、まあまあ高さあるけど……大丈夫?」
「…………えーっと…………ちょっと待っててください」
本を具現化して、先ほど覚えたページ、ウラノスのページを開く。
右手を当てて、小さな声で『ウラノス』と呟いた。
ぼうっと宙におじいさんが現れて、私に向かって杖を一振り。
柔らかい風が包み込んで、私の体は少し宙に浮いた。
おじいさんが満足そうに笑って、消える。
私は本を抱えたまま、もうちょっと浮かぶのかな、とか考えた。
すると、意識に反応したように体が上昇する。
イルミも私が浮いていることに気づいたらしい。
「…………面白い能力だね」
「本持ってなきゃいけないのがイタイけどね。体力消費も激しいし。今この時点でもかなり疲れる。…………さ、これで、飛び降りるのは大丈夫。イルミは?」
「オレはこのままで平気。…………じゃ、オレから行くから」
イルミはなにげなく窓枠に足をかけると、ためらいなく宙に飛び出した。
私も、窓枠に手をかけて身を外へ出す。ヒィ……ダイレクトで地面が見えて怖いよ……(泣)
ゆっくりゆっくり降りるイメージで下降していく。
イルミはすでに下のところで、『イルミ』になっていた。
「…………ふぅ、あースッキリした。……これが本当の姿」
「………………キレイな黒髪だね…………(負けた……)」
「ありがとう。…………さぁ、行くよ。リンゴーン空港だね」
「あ、その前に、これ返しちゃうから」
本をボンッと消すと、私を包んでいる風がなくなった。
「さ、これでよし。行こう」
私たち2人は、まずは広い道へ向かって走り出した。