いつでもどこでも訓練日和
軽く食べて寝ようと思ってたんだけど、そのままみんなに流されて、寝かせてもらえそうにはなかった。
酔っ払って大騒ぎしながら、ヒソカのトランプ使った大貧民でなぜか盛り上がって。
明け方近くになって、ホントにそろそろ寝ないと、明日(というか、今日)は使い物にならない、と思った。
だから、みんなはまだ飲み続けると言ってるけど、私は一足先に眠らせてもらうことにした。
さっきの部屋まで戻って、ベッドに飛び込む。
唇に、手で触れた。
―――まだ、熱い気がする。
はっ、とそこでさっきの出来事を思い出して、一気に顔に血が上った。
ジタジタとベッドで暴れる。
目を瞑れば、目の前に迫ってたヒソカの顔、吐息、舌の感触を思い出す。
私は、心の中で悲鳴をあげた。
ひとしきり暴れた後は、疲れのせいでぐったりと動けなくなる。
もう1度、唇に触れた。
………………ヒソカと、キス、しちゃったんだなぁ………………。
ぼんやりと思ってから、自分の気持ちを思う。
―――私ってば、こんなにもヒソカのこと、好きだったんだな、と。
キスされて、こうしてここで悶えて、考えて。
私の中での1番はヒソカだということに、今更気づいた。
…………いや、気づいてたんだけど、気づかないフリをしてたのかもしれない。
好き、と思う度に心に歯止めをかけていた箍。
ヒソカを意識するたびに、かけられていた暗幕。
『いつか、ヒソカは私に興味を失くして―――殺す』
この思いは、大きな釘となって私の心に深く深く突き刺さっていた。
今、こうしてヒソカとキスをした後でも。
どんなに、『大事だ』と言ってくれていても。
どうしても、心から離れない思い。
ヒソカがいずれ離れていくのは確か。でも、それ以上に好きなのも確か。
矛盾する2つの思いに、私は大きくため息をついた。
ふと目を覚ましたら、ゴロゴロ雷が鳴っていた。
あのまま考え込んでるうちに、寝ちゃったらしい。
体はまだ疲労感たっぷりだ。
こうなると、寝返りを打つのもメンドクサイんだけど、同じ体勢だと腰が痛くなる。
ゆっくりと背中に体重をうつして、寝返りをうった。
バチ。
目が、合った。
「オハヨウゥ」
「ヒ、ヒヒヒヒヒ、ヒソカ!?な、なななんで、ココに……!」
「と一緒に寝たかったからァ」
ペロ、と唇をなめられた。
ヒィィィィ、昨日からなんなのさー、この方は!!!(汗)
「ヒ、ヒソッ……ヒソカさん!ちょ……っ待っ……」
「イヤゥ」
当然のように唇を重ねて、舌を入れられた。
だ、だから!
……この人、うまいんだって!
ち、力抜けるぅぅぅぅ〜〜〜!
抵抗してたはずの腕は、もう力が抜けて用を果たさない。
待ってました、と言わんばかりに腕をつかまれて抱き込まれる。
「〜〜〜〜〜〜!!!」
「…………んゥご馳走様◆」
やっと解放された。でも、まず、抗議よりも私は酸素を取り込むことを優先させる。
ヒソカはその間にベッドから身を起こして、髪をセットする(ちなみに、かなりの速さだ)
私もようやく思う存分酸素を取り込んで、言葉を発することにした。
「…………ヒソカさん……」
「ん?」
「…………昨日から、スキンシップがかなり激しいんですが……?」
「だって、ボクはが好きゥはボクが好きゥ当然の行為じゃないかゥ」
「は、はぁ……?」
「んー、晴れてとこーゆーことが出来てボクは嬉しいよゥあぁ、待った甲斐があったなぁ…………◆」
「………………待った、って?」
気づいてなかったんだね、とちょこっと悲しそうなヒソカ。
「ずいぶん、ボクはキミのこと大事にしてきたつもりなんだけど◆」
「あ、や……それは、弟子としてかな〜、と」
「うん、まぁ、弟子としても大事にしてるけどねァ…………まだ寝ててもいいよ?」
「ん〜……でも、目、覚めちゃったし。起きる。今何時?」
「2時ちょっと過ぎかな」
「え。そんな寝てたの!?」
「疲れてたんだろうね◆……じゃ、ボクはあっちに行ってるからァ」
行きかけたヒソカを慌てて呼び止めて、聞いた。
「…………シャワーってあったりする?」
ヒソカは笑いながら、廊下の奥の方を指差した。
水道はまだ使えるらしかったので、ベタベタする体にシャワーを浴びた。
まぁ、お湯が出ないのは仕方が無い。最初の山での生活で、水浴びには大分免疫がつきましたよ。
濡れた髪を拭きながら(ちなみに、いつも持ってる荷物にシャンプー類は常備してある)みんなのいる大広間へ行く。
なんだか、やけに切迫した雰囲気が伝わってくる。
気後れしながらも、私はゆっくりとドアを開いた。
「おはよう」
そう言って入っていったら、すこ〜しだけ雰囲気が和らいだ気がする(あくまで、気だけど)
「はやくねーよ、おそよう」
「むっ……そーゆーフィンクスは酒臭いよ!いつまで飲んでたのさ」
「あー、いつまでだっけなー。ま、酒臭くても支障はねぇから、それでよし」
「…………良くない気がするでもないけど、まぁ、いいか……」
「◆」
ヒソカに呼ばれたので、そちらに歩いていく。
ぽんぽん、とヒソカの前の瓦礫を指し示されたので、そこに腰掛けた。
首にかけていたタオルが取り上げられる。
わしゃわしゃとタオルで髪の毛が拭かれた。
「何度も何度も言ってるだろう?水浴びの後はきちんと乾かさないと、風邪引くって」
「だって、メンドクサイも〜ん……それに、暑いからすぐ乾くよ〜」
「ダ〜メゥ……あぁ、ここにはドライヤーがないのか……◆」
「だいじょ〜ぶだよ。ここまで拭かれたら後は勝手に水分蒸発するって。…………ところで、なにかみなさん、良くないことでも……?」
恐る恐る聞くと、クロロがゆっくり頭を振って答えた。
「いや、ちょっと、な。、予言の能力は知ってるか?」
「……ネオンの念能力のこと?」
「そうだ。…………その予言でな、よくない暗示が出てるんだ」
あぁ…………『蜘蛛の手足が半分になる』ってヤツか。
まぁ、私は結局それが占いどおりにならないことを知ってるんだけど、言えるはずもない。
「…………でも、悪いことに対する警告を守れば、予言は回避できるんでしょ?だったら、その通りにすればいいんじゃない?」
じぃっとクロロが私のほうを見つめてくる。
…………な、なんですか……?(ドキドキ)
「…………未来を知るがそう言うんだ。やはり、ここは予言を回避することを優先にして行動するべきだな。全員、自分の予言に書いてあった警告は絶対守れよ。もしも動かなければならないときは、必ず複数で行動すること…………シズクは特に、予言の内容から、1人では絶対に動くなよ」
はーい、とシズクの可愛い声がする。
それじゃ、とクロロが続けた。
「班を決める。来週はこの班を基本に動き、単独行動は絶対に避けること」
班分けが終わったところで、マチがクロロにキルアたちのことを告げた。それに便乗して、ノブナガが彼らのことを売り込んだ。
結局クロロがうまくまとめて、マチの勘の件も、コルトピがアジトを増やすことで合意した。
最終確認を全員で行ってる間、ヒソカはどこから持ってきたのか、ブラシで私の髪の毛を梳きはじめた。
「でもなんでこのコ、ヨークシンに来たのかな」
「そりゃあオークションなんじゃない?」
シズクとパクノダの2人の言葉を聞いたクロロの動きが止まった。
しばらく考え込んだ後、そうか、と呟いた。
「なぜ組長の娘はヨークシンに来たか?そこにオレが気づいていれば、もっと早く鎖野郎にたどり着いていた……!!」
私は思わずギクリとした。
鎖野郎…………それは、クラピカのコト。
みんな、私が未来を知ってる、ということはわかってるけど……それはあくまで、おおざっぱな意味でのこと、だと思ってる。
でも本当は、HUNTER×HUNTERを熟読(ココ強調)していた私には、詳しく蜘蛛の動向を知っていたり、今、ゴンやキルアたちがどんな行動をとっているかも、大体は想像がつく。
団長たちがここで動き出して、ベーチタクルホテルに動くのも知ってる。そして、そこでなにが起こるのかも。
でも、それは言ってはいけない。
イキナリ入り込んだ私という『裏技』を使って、未来を回避したら、今後行われるべきイベントも何もかもが変わってしまう。
普通の人の生活なら、変化してもさほど重要なことではないと思う。
けど、これが『蜘蛛』だから。
人の生命をたやすく奪える能力を持った人たちだから、この『蜘蛛』をマンガどおりの方向に進ませなかったら。つまり、一時的に活動停止にならなければ。
――――――きっと、失われなくてもいい生命がたくさん失われてしまうことだろう。
「?」
ヒソカの声。
ハッとして、私は自分の世界から帰還する。
「ん?ごめん、ちょっとぼーっとしてた。なに?」
「緋の目の本物探すんだってァ手伝ってくれる?」
「ん。わかった〜」
すでにみんなはダンボール箱をゴソゴソやっている。
私も、その辺にあったダンボール箱を開けて、緋の目を探した。
ダンボール箱の中には、壺やらなにやらいっぱい出てくる出てくる。
もう1個ダンボールあけたら、いきなり金の刀が出てきてビックリしたよ…………。
こわごわとそれを避けながら奥の方まで探して、ないのを確かめてまた蓋を閉めた。
「あった!本物」
シズクが見つけたみたいだ。
すかさず、コルトピがその本物に触れた。
………………にしても、本当に眼球だよ…………ヒィ(汗)
「同じ方向のものは、あっちの方角……だいたい2500メートル。…………急いだ方がいいよ。コピーしたの昨日の夜だから、後数時間で消えちゃうから」
団長が地図を確認して、場所を『ベーチタクルホテル』に断定する。
手早く指示を出す。必要なところは変更もする。
…………つくづく、団長は頭の回転が速い人だと思う。
「それじゃ、行動開始!」
ヒソカは待機組だから、ヒマらしい。
特にすることもなく、アジトにいればいいだけ。
で。
そんな状況でヒソカが言い出すことは1つ。
「さ、訓練しようゥ」
…………………えぇえぇ、読めてましたとも。
戦闘狂のヒソカさんってば、ヒマがあったら訓練したがることくらい、ダテに今まで一緒にいたワケじゃないので、読めてましたとも。
読めて……ましたとも…………(泣)
「じゃ、最初は練を……う〜ん、じゃ、5分間で行ってみようかゥ」
ふ、増えてるし……(ガックリ)
私は、練を行った。
最初はいい。ヒソカが旅団に行った後、自分でやっていたときは、3分以上持たせていたから。
でも、やっぱり、3分を超えたところで、一気に体から力が抜けていくのがわかった。
段々と体を覆うオーラが小さくなってきてる。
だけど、ここが踏ん張りどころだ。
私は、足の力抜けそうになるのに渇を入れて、両足で地面を踏みしめた。
「後1分ァ」
4分なんて、最高記録だよ……。
グググ、と拳を握り締めた。
1秒が、長い。
オーラがなくなろうとするのを、必死に気力で膨らませた。
せっかくここまで頑張ったんだ〜〜〜、やり遂げてやるぅぅぅぅ〜〜〜〜!!!
…………じゃないと、またヒソカにやり直しさせられるし!
やり直しはいーやーだー!!!(大絶叫)
「…………………ハイ、5分◆よくできましたゥ」
その声を聞いたとたん、私は地面に崩れ落ちた。
ヒュー、ヒュー、と喉の奥から音がするのを聞きながら、絶の状態に入る。
「ちゃんと、ボクの言いつけ守って訓練してたみたいだねァ上出来上出来ゥ」
「…………………(笑う気力もない)」
「じゃ、次は回し蹴りハイ、立って◆」
鬼!!!
そう思いながらも、私はゆっくり立ち上がった。
あぁぁ……膝が震えてるよ…………。
「オイオイ、ヒソカ。、きつそうだぞ?」
「きつくなきゃ、訓練じゃないからねハイ、いーちゥ」
ブンッ。
「にーゥ」
ブンッ。
……………………地道な訓練、大事よね…………ッ(言い聞かせる)
訓練が終わって倒れこんだ私に、フランクリンとボノレノフがぱたぱたとうちわで風を送ってくれた。
あぁ……優しいのね、2人とも…………。
「は特質だからな、相当努力しないと、自分自身の肉体を強化できない」
とはフランクリンの言葉。
まったくもって、ごもっともです…………わりと頑張ってるつもりなんだけど…………どーしても、蹴りとかの威力はイマイチなんだよね…………。
ヒソカが持ってきてくれたミネラルウォーターをガブ飲みする。
「は自分の能力使う時点で、『具現化』と『操作』の修行はしてるようなものだからねァだから、重点的に苦手なものをやっていけばいいんだけど…………やっぱりそれには肉体の基礎鍛錬も大事だからね」
うっ、嫌な、予感…………。
「じゃあ、最後に腕立て、腹筋、背筋、それぞれ300回ゥ」
「やっぱし…………(ガックリ)」