進展




ドゴォッ!!

頭上からものすごい音がして、私は目を覚ました。
もう、あたりは暗い。
大分疲れが取れている(体はまだ重いけど)ので、起きることにした。
むくりと起き上がると、パラパラと天井が剥がれ落ちてきた。

なにをそんなに暴れてるんだろう?

しかも、上の階でなんかやってるみたいだ。
まぁ、ここには滅多な人は入らないとは思うけど、万が一泥棒とかだったらどうしよう?

ドゴッ!!!

また大きな音。

「あたっ……」

頭に小石が降ってきた。
ホントに、なにをそんなに暴れているんだろう。

ベッドから出ると、小さな窓から外が見えた。
もう星まで出ている。ずいぶんと寝ちゃったみたいだ。
バタバタという足音が上から聞こえた。そして。

キルア、いるか!?


…………………………


ゴンとキルアか―――!!!(やっと気づいた)


どうしようか、と思っていると、今度は下のほうで、ザッという音。
…………どうやら、外に出たらしい。

私は、1つ息を吐くと、ドアを開けた。
そのまま廊下を、途中瓦礫につまづきながら歩いていく。
みんながいる、大きな部屋の木ドアを開けたんだけど……ガラ〜ン、としてて誰もいない。

あれ?と思ったけど、ふっと頭に閃くものがあってポン、と手を打った(古典的)

「あぁ、みんなお仕事か……ヒソカも、一言くらい声かけてってくれればよかったのに」

むぅ、とむくれたら、まるでそれを止めるように、携帯が振動した。
ピュイン、と羽を開いて画面をみると、新着メールが7件。
そのうち2通はヒソカで、後の5通はそれぞれ、シャル、フェイタン、マチ、シズク、そして団長からだった。

ヒソカ以外の5人からは、『アジトにずっといろ』ってことがまず始めに書いてあった。
どうも、ペアを組んでるどっちか片方の携帯から送ってきてるみたいだ。
団長からは、『祝杯の準備をしておくように』とか書いてあった。…………パシリか私は。

んで、ヒソカさんからは。

まず1通目が『ぐっすり寝てるみたいだから、声かけずに出てきたよ◆今日はアジトにずっといるんだよ』っていう連絡。

で、今来たばっかりの2通目は。

『ゴンとキルアがいるから、なるべく会わないようにねもうすぐ帰るから、疲れてなかったら起きてて出迎えてくれると嬉しいな◆』

な、なにをのん気なことを言ってるんだ、この人は……(ガックリ)
大変なときなんじゃなかろうか、今は。

私はパチン、と携帯を閉じた。

「…………ん?、起きたのか?」

「あ、ノブナガ」

ドアを開けて入ってきたのは、ノブナガ。
不機嫌そうに頭をポリポリかきながら、どっかりとその辺に座る。

「……どしたの?」

「……有望なガキ2人逃がした」

やっぱり、ね。

「…………それって、もしかしなくても、キルアとゴン?」

「なんで…………ってあぁ、そういや、お前はこの先のこと知ってやがるんだな……」

「まぁ、ね。……さって……それじゃあみんなが帰ってくるまで暇になったね」

「そうだな。…………よし、それじゃ、暇つぶしに、ちょっくら俺が相手してやるとするか」

「へ?」

ノブナガの言ってる意味がよくわからなくて、疑問の目線で問い返す。

「訓練だよ。、念使い始めたばっかだろ?」

コクン、と頷くと、ノブナガは楽しそうに笑った。

「基本の念は出来てるな?」

「纏、練、絶、発?」

「そうだ。……じゃ、円って知ってるか?」

「…………えーっと、確か自分の念を広げて気配を探る……ってヤツだっけ?」

「あぁ。…………ま、俺の場合は太刀の間合い分は、円で気配を探ることが出来る。暗闇とか、自分の視覚が頼りにならねぇ時は、これで相手の位置を把握するな。…………まぁ、もっとも、本当は出来るだけ広い範囲に念を広げて、自分が見えない位置にいる敵のことを把握するためのもんなんだが」

俺には太刀の間合いが限界なんだよ、とノブナガはそっぽを向きながら言った。

、凝は使えるか?」

「うん。この間ヒソカに教えてもらったよ」

「…………アイツ、本当に基本はきっちり教えてやがんな。…………うし、じゃあ、俺が今から『円』やるから、凝で見てろよ」

言われたとおり、凝を行う。
これはヒソカにずっと訓練されてたから、わりと早くできる。
ノブナガも、『お、移行がはえぇな』と言ってくれた。

「へへっ、ヒソカのきつ〜い訓練受けてるからさ。…………うん、見える」

了解、と言って、目を瞑った。
その次の瞬間、ピィン……と張り詰めた空間に、私は存在していた。
凝を行っているから見える。
私は今、ノブナガの念の中にいるのだと。

私は念を触るかのように、右手を宙でひょい、っと動かした。

目を閉じていたノブナガが呟く。

、今右手動かしたろ?」

目は、閉じられたまま。

………………円―――目ではなく、念でノブナガは私が右手を動かしたのを感じ取った。

………………すごい………………。

汗が出てきて―――口元に笑みが浮かぶのがわかった。

ふっ、とノブナガが円を解く。
空間が元に戻り、ノブナガの目は面白そうな光をたたえていた。

「どうだ?どういうもんか、わかったか?」

「―――ッうん!ねぇ、どうやるの!?教えて!」

やってみたくて、うずうずしてる。
あんな風に、円が出来れば―――私にとってこれ以上有利なことはない。
なんてったって、弱点である『間合い』をとるのに、とても有効な手段だからね。

「……くくく…………わーっはっはっはっは!!!あー、おもしれェ!まったく、おもしれェヤツだよ、お前は!…………よっしゃ、やってみるか。イメージは、自分の念を薄く伸ばしてだな…………」

私は、ノブナガの話を一言も漏らすまい、と聴覚をフル活用することにした。




円の練習をして、汗もかいたころ。
ドヤドヤと物音が建物の外から聞こえてきた。

「お、帰ってきたみてぇだな。…………、どうだ?」

「んー……やっぱ、ノブナガみたいに広くはできないけど……腕伸ばした分くらいの距離くらいなら、わかるようになった」

「上出来だ。いいか、これから練習するときは、もっともっと念を伸ばすようにイメージしろ。んで、ゆっくりそれを自分の体にまとわせる。ずっとやってりゃ、嫌でも距離は広がってくさ」

「うん!ありがと、ノブナガ!」

話が終わったのを見計らったように、ギィ、と扉が開いて、みんなが帰ってきた。

「ただいま〜!いやぁ、大成功♪」

「今回はいいモンが揃ってたな。……っと、。もう起きて平気なのか?」

「おかえり、みんな。…………うん、大丈夫だよ。フィンクスこそ、頭の被り物はどうしたの?」

「邪魔だから取った。…………さ、祝杯挙げるぞ、祝杯!ビールだビール!」

、用意してあるか?」

クロロの言葉に、うん、と頷く。
ノブナガと訓練してる途中、祝杯の存在を思い出して、ノブナガと一緒にビールを用意しておいたんだ(ちなみに、ビールはアジトにいっぱい置いてあった)
最後に扉をくぐってきたのは、ヒソカ。
ヒソカは、汗をかいている私を見ると、眉をひそめた。

、何やってたんだい?」

「えっとね、目が覚めてから、ノブナガに円教えてもらってたの」

「体は?疲れてただろ?」

「寝たらスッキリしたよ。ちょうどノブナガが残っててくれたからさ、教えてもらったんだ♪」

「…………ふ〜ん◆」

…………あれ?なんか、機嫌悪い?

ははぁ〜ん、とノブナガがニヤニヤしながら呟いた。

「ヒソカ、テメェにもまっとうな『嫉妬』っつー感情があるんだな」

「………………ほっといてくれ◆」

………………嫉妬?

驚きのあまり言葉も出ないで、ヒソカの方を見ると、ヒソカは私に気づいて、プイ、と横を向いてしまった。
ちくり、と心にショックを受ける。

…………これが、将来のヒソカの私に対する態度かもしれないかと、ちょっと思ったから。

ズーン……。

あぁもう!ネガティブやめやめ!!!
頭を1つ振って、その考えを頭から追い出して、みんなにビールを配った。
ヒソカはシズクに渡されてる。

私は、ちらっと横目でそれを見ながら、団長に急かされてビールを手渡した。

「じゃ、今回の計画の成功を祝って…………乾杯!」

かんぱーい!とみんなの声が続く。
私も、同じようにビールのプルトップを開けて、空中に缶を上げた。
コクリ、と一口飲む。

…………なんか、微妙、かも。

あんまりおいしい、とは感じられなかった。
それは、本来のビールの味かも知れなかったし―――もしくは、マチと話してるヒソカの笑顔のせいかも知れなかった。



団長がやってくる。
オールバックじゃない団長は、本当にそこら辺にいる普通のお兄さんみたいで、とっても感じがいい。

「団長。あ、成功おめでとう♪」

「ありがとう」

コン、と缶をぶつけ合った。

「マフィアに襲われたんだってな。大丈夫だったか?」

「うん。そんな強くなかったし、油断してたみたい。…………たださ、それで自分の能力の弱点わかちゃって。…………同じ『本』の使い手である先輩のクロロさんに聞きますが…………『本』って、使いやすい?」

まぁ、とクロロは苦笑する。ゴクリ、とビールを飲んでから、話を続けた。

「戦闘に関しては、使いやすい、とは言えないな。俺の場合、どうしても右手はふさがれるし、体勢を大幅に崩すことも出来ない。本を閉じたり開いたりする手間もあるし、そういった意味での時間のロスは痛いな」

だけど、と団長は笑って言った。

「だからこそ、使いがいがあるってもんじゃないか?…………まぁ、の場合は、開いてから声も出さないといけないからな。…………やっぱり、基本的な戦闘能力を高めてからでないと、戦闘面ではお世辞にも使いやすいとは言えないだろうな」

日常では大いに役に立つだろうが、と言ってクロロは笑った。
確かに、戦闘じゃなかったら、ちょっとした怪我治したり、火つけたり、色々便利なんだろうけど。

「……とにかく、基礎訓練をいっぱいしろってことなのね〜……」

「そうだな。…………あぁ、そうだ、

クロロがコートのポケットから何かを探り出す。

キラリ、と光を放ったのは…………小指の爪ほどもあるキレイな赤い宝石。…………ルビーだとお見受けするのですが……しかもスタールビー(汗)

それを、まるで石ころでも扱うかのように、ぽいっと投げてよこすので、私は慌ててそれをキャッチした。

ま、まぎれもない高価な宝石の輝きだよ……!!!
色つきガラスとかの輝きじゃないよ!!!(滝汗)

「わわわわわ……ちょ、ちょっと、クロ、クロロ、これ……!!!」

「今日の戦利品。土台もなにもなくて悪いんだがな、それが1番まともでな。…………他のは、持ち主が死ぬ呪いの宝石やら、血がこびり付いて取れないペンダントだとかばっかだったから」

…………………の、呪いはイヤかも………………(泣)

「ま、他のは色々とまぁ、的にはそんな興味の無いもんばっかだからな」

黄金の処刑刀とかいらないだろ?と言われて、思わずぶんぶんと首を縦に振った。
でも、と手を差し出しかけたのを、クロロが目で制す。

「ちなみに、それ突っ返すことは不許可だからな」

私は、クロロの顔を見て、そして、またルビーをしげしげと見た。

キレイな赤い光。

土台の無い、素材そのものの光は、とてもキレイだった。

私はぎゅっとそのルビーを握り締めた。

「へへ、嬉しい。ありがとう」

クロロに向かって笑ったとき。

ダンッ!

と音がした。

と同時に腕を引かれる。

「あ?あ、あぁぁぁあぁ?」

ズルズルと引きずられて、どんどんクロロの姿が遠ざかっていく。
唖然とした表情のクロロは、あっというまに扉に邪魔をされて見えなくなった。

それでもなお、腕を引かれる力は衰えることは無い。

ひっぱられてひっぱられて、私が寝ていた部屋に入ったとき、ようやく解放された。

この力の主は…………見なくても、わかる。

「ヒソ…………」

ぱふ。

最後の一文字を言わせてもらえずに、私は気がついたらヒソカの腕の中にいた。

筋肉質の胸に、顔が押し付けさせられていた。

息も出来ないくらい、抱き締められる。

髪の毛を、梳かれる。


そっと顔にヒソカの大きな手の感触。



思考がまとまっていない状況で、ヒソカのいつもよりまじめな顔が、いつもより近い位置にあることだけを理解した。



吐息が、唇にふわりと触れて。






熱い、感触。





――――――瞬間、熱湯を浴びたかのように、体が熱くなった。

押し付けられている、唇の熱さと、同じくらい、体が、熱い。

「ん……ッ……」

長い間、唇を塞がれているので、息が、辛い。

眩暈を覚えるほどの、長い時間。

ふと、唇が離された。

大きく息を吸い込もうとしたところで、

また、角度を変えて、唇が押し付けられる。

「……ふっ…………んっ!?」

突然、口の中に、生温かいモノ。
動き回るソレは、器用に私の舌を捕らえて執拗に絡んでくる。
絡まれ、唾液を据われ、歯茎を蹂躙され―――。

――――――いつ止められたのかは、覚えてない。

ただ気がついたら、私はぼうっとしてヒソカの腕の中にいた。

「…………………嫌だった?」

耳元で聞こえる、いつもより掠れた声に、ゆるく頭を振った。
驚きはしたけど―――嫌悪感は、一切無い。

「…………どうしよう、

私は、答える気力もなく、目線だけをヒソカに向ける。
まともに、ヒソカと目が合った。

ぎゅ、とヒソカの腕の力が強くなった気がする。

「………………思ってた以上に、ボクはに囚われてるみたいだ◆」

そろり、と指の腹で頬を撫でられる。
軽い音を立てて、キスされた。

「…………ノブナガの言ってたとおり、ボクは嫉妬深い

「…………へ?」

やっと出た声に、ヒソカは唇の端を持ち上げた。

「さっき、クロロとが話してるとき…………マチと話しながら、意識だけはの方を向いてたまったく…………こんなことで、円を使ったのは初めてだよ円の最中―――クロロに向かってが笑ったとき…………本当に、クロロをこの場で殺そうかと思った

思ったって…………なんて、物騒な!
でも、まぁそこがヒソカの思考なんだろうけど……(汗)

「…………は、クロロが好きかい?」

好きか、と聞かれたら、そりゃ、好きだよ。

だけど、ヒソカが求めてる答えがそれではないことを、私はちゃんと頭の端っこで理解していた。

「………………好き、だけど、ヒソカの方が、もっと好き」

その言葉に、ヒソカは満足そうに笑って、もう1度キスをした。




「…………戻る?」

どれくらい時間が経ったのかわからないけど、ヒソカが聞いてきた。

「別に、ボクは戻らなくてもいいんだけど……、なにも食べてないだろう?夕食も食べてないみたいだし、何か口にしないと精神疲労は、睡眠と栄養でやっと回復するからね◆」

確かに、お腹減った。
朝昼兼用の、ホテルでの食事以降、なんにも食べてないし、今日は念を使いまくって、お腹減ってるし。

「…………おなか、減った」

「うん……戻ろう?」

ヒソカに手を引かれて、先ほどの部屋に戻っていく。
旅団のメンバーはまだ、乾杯をし続けていた。
だけど、みんな結構酒臭い。…………大分飲んでるみたいだ。
しかも、異様にハイテンション。

「おっ、!やぁっと帰ってきたか!まぁ、飲め飲め!」

いい感じに酔っ払ってるノブナガが、ビールを渡してくる。
もうすでに開いているので、コクリと一口飲んだ。

さっきよりは全然おいしく感じる。

けど、ひょいっとビール缶を取り上げられた。

くりっと頭だけを回転させて、ビールを奪い取った人物―――ヒソカを見上げる。
ヒソカはニッコリ笑って、ビールの代わりにジュースを私の手に握らせた。

はこっちにしておきなよ

「……ん」

そう言って、私から取り上げたビールをヒソカが飲んだ。
それを見て、私も、ジュースをゴクゴク飲んで、誰が買ってきたのか、その辺においてあったおつまみやら軽食やらを取って食べた。