初めての闘い
ヒソカに、ホテルまで送ってもらった後、すぐに旅団のみんなから一斉にメールが来た。
まるで、ヒソカが私から離れるのを待っていたみたいに。
その中でも、みんな共通で書いてきたことは。
『しばらくの間、ホテルから出るな』
ってこと。
いわく、無法地帯だから。
いわく、怪しげな連中がウロウロしてるから。
いわく、マフィアが取り仕切ってるから。etc……。
って。
1番危ない人物たちがなにを言うんだよ!
思わず心の中で突っ込みながらも、ありがた〜くその助言を心に留め。
翌日―――9月2日はちゃ〜んとホテルにずっといた。
朝から晩までずぅっと。
だけど。
ものっすご〜く暇だったのよ!とにかく!
たった1日なんだけど……その1日、街の中でいろんなことが起こってると思うと、興味も湧くし!(怖さも湧くけど)
なんてったって、本当にマンガどおりにコトが進んでるのか、すっごいすっごい気になるし!
ハンター語も読めないから、本も読めない、パソコンも使えない、ゲームもできない。
1日中、テレビとにらめっこか、ゴロゴロとしているだけ。たまーに、ヒソカにメールを送ってみたりしたけど、あんまり邪魔しちゃなんだしなー、と思って、少しだけだし。ハンター語の勉強でもしよっかな、って思っても長続きしないし(汗)
もう、あまりに暇だったから、ヒソカもいないのに、筋トレやっちゃったよ!
で、3日になって。
ホントーにやることがなくなって、目が覚めてからも、なんとなく起きずにベッドの中でゴロゴロして。
ようやくのろのろ起きだして、遅い朝ごはんのルームサービスを取って、食べてたときだった。
のほほんとしたこんな陽気には似つかわしくない騒々しい音が、下のほうから聞こえてきた。
なにかな〜、と思って、ご飯を食べながら耳を澄ましてみる。
「…………この……に……ることは……わ……てる……」
断片的にしか言葉は聞こえず、私は窓辺に近づいて、ちょこっと窓を開けてみた。
その瞬間。
とんでもない爆音と振動が、ホテルを襲った。
「うっひゃぁぁ〜!?」
驚いて思わず尻餅をついた。
しばらくして振動が収まると、銃の連射音と、人が騒いでいる喧騒音が続いて聞こえてきた。それが段々と近づいてくる。
バンッ!!!
イキナリ開け放たれたのは、鍵がかけてあったはずの部屋のドア。
「動くんじゃねェぞ、コラァ!」
ドアを蹴破ったのかなんなのか、とにかく私が招いたわけじゃない侵入者は、黒のスーツを着た、いかにも悪人ヅラのおっさんたち4、5人。
その全員が、尻餅をついたままの私に、視線を向けている。
そして、右手には拳銃。
部屋が広かったから、よかった。かなりの距離が開いてるから、逃げ場はまだあった。
「俺たちはここらを取り仕切ってるリオグラード組のモンだ!今、オレ達にケンカ売ってる奴らがここらにいるって聞いたもんでなァ……ちょぉっと、聞き込みに参ったまでよ」
マフィアにケンカを売っている奴らっていうのは、十中八九、旅団のことだろう。
…………ってコトは。
ピンポイントで私、ヤバイじゃん!(汗)
「なァ、嬢ちゃん、知らねェかなァ?こーゆー奴らなんだけどよ」
ピラリと男が見せたのは、マンガの中でゴンたちが持っていた、旅団の手配書と同じものだと思う。……遠目でよく見えないけど。
シズクや、ウボォーギン、マチたちの顔が載っているやつだろう。
ゆっくりと男たちが近づいてくる。
「し、知りません!私は、なにも…………」
「ホントーに?…………嘘ついたら、どーなるか、わかってんだろォな?あぁ?」
男の手がにゅっと伸ばされたのを、反射的にかわしてしまった。
そして、その行動があまりにも不自然だったということに気づいたときには、もう遅かった。
私を捕まえることができなかった男は、ニヤリ、と笑った。
「逃げるってこたァ…………なにか、知ってやがるな、テメェ」
私は、念を発動させた。
立ち上がって、ボッと本を具現化する。
即座に、ページを捲った。
「念の使い手か……テメェ、ただの小娘じゃねェな……どっちにしろ、俺たちに敵意を見せた時点で命はなかったもんだと思え!」
銃がこちらに向けられるのと同時に、私は、右手をページに当てて名前を呼ぶ。
「ヒュプノス!この部屋にいる、私以外の人間を眠らせて!」
現れた穏やかな顔の男の人は、ニッコリ笑うと高々と右手を差し出した。
それと共に、銃を構えていたマフィアの皆さんがガックリと膝を折って…………みんな地面に倒れこんでしまった。
恐る恐る近づいて、いびきをかいているのを確認する。
ようやく、安心して息を吐くことが出来た。
「…………ありがと、ヒュプノス。…………返れ」
ヒュプノスは笑って静かに消え去った。
ふぅ、と息を吐いて、改めて部屋を見回す。
「…………どうしよう、この人たち」
呟くと、まだドアの外から騒々しい声が聞こえ続けてることに気がついた。
もう1度こんなことに巻き込まれるのはゴメンだ。
私はものすごい速さで荷物をまとめると(元々そんなに多くないし)、部屋を飛び出した。
エレベーターの前には、黒ずくめの男たち。仕方ないので、1番端まで走って、非常階段へ飛び出した。
でも、そこにもマフィアの男たちは待っている。
「貴様!」
私は、ボッと本を取り出すと、迷いなく1ページ目を開く。
「ペガサス!」
現れたペガサスの背中に乗って(正確にはしがみついて)、階段から宙に出る。
途中邪魔だった鉄柵は、ペガサスが蹴り飛ばしてくれた。
階段の方でマフィアの人たちがなにか言ってるのが聞こえたけど、もう、全部無視(酷)
そのままペガサスに乗って、裏路地に着地する。
「ありがと。…………返れ[」
ペガサスを消して。
ふぅ、とため息をひとつ吐いてから、携帯を手に取った。
プルルルル、とヒソカの携帯が音を立てた。
着信画面の相手を確認すると、嬉々としてヒソカは通話ボタンを押す。
その表情で相手が誰だかわかった旅団の面々は……面白くなさそうに、だが、ものすごく真剣に、ヒソカの会話に耳を傾けた。
「ゥ初めての電話だねぇァ嬉しいよゥ」
ヒソカの声が弾んでいるのは、もはやどうでもいい。
クロロを始めとする旅団メンバーは、少しでも通話相手の声を聞こうと、戦闘の時並みに耳に神経を集中させた。
「うん?なんか、声が暗いねぇ……どうしたんだい?…………え?」
急に、ヒソカが真顔になった。
今までのあの、とろけそうな顔とは一変した表情。この時点で、すでに何人かが顔を見合わせた。
「うん……ケガはないかい?……そうか、よかった◆今ドコにいるかわかるかい?…………わかったそこから動かないで待ってるんだよァすぐに迎えに行くからゥ……大丈夫、今は暇だからァ……大丈夫だよ◆」
が何かを言うたびに、ヒソカの表情は和らいでいく。
次の瞬間、ヒソカの顔は、砂糖細工のように甘くなった。
「うんゥじゃ、また後で」
ピッ、とボタンを押しながら、立ち上がるヒソカ。
会話の中に気になる内容があったメンバーは、ヒソカがしゃべりだすより早く、声をかけた。
「に何かあったのか?」
「…………がいたホテルに、マフィアが襲撃に来たらしいァ念を使って撃退したとは言ってたけど、どうもまだ騒ぎは続いてるらしくて、どうしようっていう電話さ◆」
「なっ……ケガは?」
「ないみたいだただ、部屋にはいられないから、ホテルの外に出たとは言っていたから……早く行かないとゥ無用ないざこざに巻き込まれると困るからねァちょっと、出て迎えに行って来るよゥ……いいかい?団長ゥ」
「あぁ。そろそろ、ウボォーのこともあるし、動き出そうと思ってたころだ。……マチ、ノブナガ、それに、シズク、フランクリン。お前らは2人組になって、鎖野郎を探し出し、連れて来い。……フィンクス、パクノダ、お前たちは俺と一緒に行動だ。シャルナーク、ハンターサイトに接続して、引き続きウボォーに関する情報がないか逐一報告しろ。フェイタン、お前は昨日からやってる、拷問をなんとかしろ。ボノレノフ、コルトピはアジトに待機だ。ヒソカ、お前もを連れて帰ったら、アジトに待機してろ」
まるで最初から計画されていたかのように、クロロは団員に仕事を言い渡す。
言い渡された団員は、準備を始める。
「…………それじゃ、ボクはを迎えに行って来るよゥ」
イソイソと出かけるヒソカに、クロロが呼びかけた。
「変なことせずに、ちゃんとまっすぐアジトに連れて来いよ」
その言葉に、ヒソカはちょっと残念そうに肩をすくめた。