「……団長、なんですか?そいつ」
「面白い拾い物だよ。……外の空気吸いに出たら、ちょうどいい拾い物をした」
本と蜘蛛と予言と (後)
クロロは、抱えていた人間―――をどさっと床に下ろした。それを見ていた団員の1人の目が、微かに動いたことに、その場にいた誰も、気づかない。
「能力ッスか?」
「いや…………」
クロロの口元に、微かな笑いが浮かぶ。その、異様な笑いに、フィンクスが疑問を浮かべた。
倒れているを横目で見ながら、クロロは手早く髪型をセットする。額を覆っていた布も取り去った。
「まさか、一目惚れとかかわいい理由じゃ……!?」
「一目惚れ……か、くくく……まぁ、似たようなものだな」
髪をオールバックにし終えると、傍にあったビールの缶をとって、プルトップを押し上げる。
ゆっくりと口に含んで、味を確かめてからゴクリと飲んだ。
「…………ん?」
のうめき声。それに気づいて、クロロが顔を覗き込んだ。
まだ、目は開かれていない。
クロロはニヤリと笑って、ビールを口に含んだまま、顔を近づける。
「…………団長、ビールの口付けで目を覚ますってのは、その子が可哀想だと……」
フランクリンの声に、反応するようにの体が動いた。
ゆっくりと目が開く。むりと起き上がって、ぼーっとあたりを見回す。
「おい?」
クロロの呼びかけに、しばらく反応を示さないが、やがて、半目に開けられた目が、徐々に大きくなっていく。
「…………あ?…………あぁぁぁぁぁぁ!!!!」
そして叫び声も大きくなっていった。
「目が覚めたみたいだな」
私は、目の前にいる団長を、しげしげと見つめた。
オールバックになっていて、かなりさっきとは雰囲気が違う。
そして、団長を取り囲むように、ズラリといる旅団員。
…………もちろんだが、ヒソカもいる。
私は、あえて目を合わさないようにして、知らんぷりをした。……迷惑は、かけらんないです、ハイ。自力で突破しなきゃ。
「オレたちがなんなのか、知ってるな?」
「…………………うん」
「なら、話は早い。どこでその情報を手に入れた」
「………………言えない」
「パクノダ」
団長の声に、パクノダが私に近づく。…………うぉ、身長デカイ……ポカン、と私はパクノダの顔を見上げたけど、パクノダが私の肩に触れようとするのを見て、後ろに飛び退った。
「…………パクノダの能力も知ってるのか」
ぐ、と私は地面を踏みしめた。
団長が私の顔を見つめてくる。
殺気……ではないと思う。
でも、ものすごい威圧感が私を包み、その場に足が縫いとめられたみたいだ。息も、満足に出来ない。目を…………逸らしたい。でも、逸らすことを許してはくれない。
「………………もう、そのくらいにしてやってくれないかァ」
「!?」
…………ヒソカが私の隣にすばやく来た。
団長の威圧感が薄くなる。私は、ようやく肺に酸素を取り入れた。
ヒソカの手が背中に当てられる。その手の大きさに安心して、息を大きく吸って吐いた。
「…………ゴメン、ヒソカ」
「ヒソカの知り合いか?」
「ボクの連れなんだ◆……まったく、暗くなる前にホテルに戻るように言っただろう?メールがないから、心配してたんだよ?」
「うん……ほんと、迷惑かけてゴメン」
「ヒソカ……てめぇが能力をそいつにバラしたのか!?」
「さぁ◆」
「テメェ……」
「違うよ!」
私の突然の大声に、ノブナガはびっくりしたみたいだ。手を刀にかけたまま、止まっている。
「ヒソカは、私に旅団のことなんてなんにも言ってない」
「じゃ、なんでオマエさんは、俺たちのことを知ってるんだ?」
はぁ〜、と私はため息をついた。ヒソカを見上げる。
ヒソカはゆっくりと首を振った。『話さなくていい』の意味だろう。
けれど、そんなんじゃきっと、許してくれない。
「…………信じる信じないは、個人の自由だよ」
そう前置きをおいて、私は、異世界から来たこと、私の世界で『マンガ』として、動きを知っていることを簡潔に話した。
「じゃあ、教えてくれ。俺たち旅団は、この先どうなる?」
クロロが、じぃっと私の目を見ながら、聞いてくる。
真っ先にこの質問を受けるのは、至極当然だ。
この人は、自分の命よりも、旅団がなくならないことを優先に考えてるんだから。
「……言えない。ヒソカにも言ってないことだから。……だって、言ったらあなたたち、同じ動きは絶対にしないでしょう?……私の勝手な行動で、それを変えることは許されない」
「……まぁ、いい。言えないのならしょうがない」
「おいおい、いいのかよ、団長」
「あぁ。…………まったく……面白い娘だ。能力を盗む盗まないは別としても、興味ある人物だよ、君は」
…………は?
なんか、今、団長に流し目された気が……。
ま、いいや。気にしないでおこう。世の中の団長ファンに抹殺される。それだけは避けねば!(何か違)
「とりあえず、私、殺されない?」
ぐりっと顔だけをヒソカに向ければ、ヒソカは軽く笑う。
それに安心して、私はペタリと地面に座り込んだ。
「あ〜、よかったぁ……こんなところで殺されたら、今まで必死に生きてきた意味がないじゃん。……あ〜、ほっとしたら、おなか減った」
カクッとみんなの肩が下がった気がした。
…………イヤ、だって、本当におなか減ったんだよ。お昼はゴンたちと一緒に食べたけど、そのあと、なんにも食べてないんだもん。
「ご飯食べてないの?」
「昼以来食べてない。…………あー、なんかこう……さっぱりとした、蕎麦とか食べたい」
「ソバ?」
「お。オマエ、蕎麦知ってんのか?」
ノブナガがちょっと意外そうに私の言葉に反応した。
「うん。私の故郷の料理なんだ」
「ほぉ。俺の故郷にも蕎麦があるぜ。あー……念のため確かめとくが、蕎麦って、細長い麺のことだよな?」
「うん、そうだよ〜。ってか、私の故郷、日本だし」
「日本!?俺の故郷も、日本だぜ!?」
「ノブナガって、流星街出身じゃないんだっけ?」
「俺とノブナガが知り合いだったんでな。ちょくちょくコイツが流星街に出入りしてたんだよ」
と、ウボォーギンが言う。
…………おぉ。結局、ウボォーギンに出会えたよ!ラッキーvv
「そっかぁ……ねぇねぇ、ぶっちゃけさー、ここの料理、確かにおいしいけど、時々、しみじみと日本食食べたくならない?」
「なるなる!たまに、1人で冷奴で一杯……とかなぁ」
「あー、天ぷらも食べたい!」
「おいおい、何の話してんだよ」
フィンクスが、変な被り物をしながら、話題に加わってくる。
食べ物のことについては、彼も興味があるみたいだ。
でも、私は一気に食べ物への興味を失い、彼の頭の方が……。
「…………なんだよ」
「………………その被り物が気になる」
「あ?」
思い切って、被り物に手を伸ばしてみる。
…………必要以上にデカい。これじゃ、きっと頭重いだろうに。
「これって、何?首の筋肉強化してるの?」
「んなわけねぇだろ!これはだなぁ……」
「フィンクス、うるさいね。少し黙るね」
「フェイタン!」
思わず、その可愛さに叫んでしまう。
やーん、身長低い〜!かわいい〜!!
「………………変な感じね。まだ名前教えていないのに、知られてるなんて。……いそのこと……」
「あー……拷問はやめてねvv」
「…………………………団長、本当にこの女、興味あるね。空きがあたら、団員にしたいくらいね」
「珍しいな、フェイタンがそんなこと言うなんて」
「あなたは、シャルナークだよね?」
「シャルでいいよ、よろしく♪………………そーいえば、団長。俺たち彼女の名前聞いてないですよ」
「あ、ごめんなさい。私の名前は、。って言います」
「…………、か」
クロロが、口の中で何度も何度も繰り返す。
…………な、なななな、何???
「気に入った」
「は?」
なーにーをー、言ってるのですか?
私がその言葉の意味を理解しないうちに、ヒソカが私の隣に来て……。
「!?」
肩を抱き寄せたのだ!
「このコは、ボクのだよ?」
「男の独占欲は醜いぞ、ヒソカ」
なんだか、火花が散ってる?
私は、じりじりとその場から離れた。
「…………あんた」
「はい?」
マチが私のシャツをつまむ。
……あら。どこかに引っ掛けたのか、でっかい切り裂かれた傷がある。
「しょーがないね……」
マチは、自分の腕に何本もついてる針を抜くと、すさまじい速度でシャツを縫い始めた。
わずか3秒ほどでピタリと動きが止まる。
残ったのは、一体ドコが切り裂かれたのか、というぐらいキレイに繕われたシャツ。
「おぉ〜…………すご〜い!!ありがと!」
私の言葉に、ぽかん、とマチが私のほうを見る。
…………なんか、前にも、誰かに同じ反応を返されたことがあったような……。
「あの……?」
はっ、とマチが我に返ったようだ。
ボソ、と『どーいたしまして』と言われた。
「さ、、帰ろうかゥ」
「え。でも、ヒソカ、アジトにいなきゃいけないんでしょ?1人で……」
「ホテルまで送ってくよ◆夜の街は危ないからねゥボクは今日、仕事ないしァ…………そろそろ、みんなも出発する時間だろう?」
そーだった、とフィンクスたちが支度をする。
そして、私は気づく。
「だ、だだだ、団長!私のリュック、知りません!?」
「リュック?……あぁ、たしか、その辺に……」
ビールの缶が散らばる床に、ポツンと投げ出されているリュック。
私は、慌てて近寄って、中身を確認した。
ケータイ、財布。……そして、指輪もちゃんとある。
ホッと息をついた。そこを、団長が、ひょいっと覗き込む。
「そーいえば、さっき、念でなにやってたんだ?」
「あ……見てたんだよね、団長は。…………これに、念の力込めてたの」
「込めてた?」
「うん。…………ヒソカ!」
「なんだい?」
「これ、あげる。今日のお土産」
ポンッと投げた指輪を、ヒソカは右手で受け取った。しげしげと見つめてから、
「ありがとうゥ」
と、中指にはめてくれた。
……よかった。捨てられたりしないで。
「…………あれ?、この指輪……」
「うん。自己治癒力を強化する念を込めておいた。簡単な傷ならすぐ治ると思うよ」
「それはありがたいゥ」
「おい、そんなことできるのか?」
「うん。…………って、団長。能力盗まないでよ?」
団長は、くっと笑い始める。
それはもう、おかしそうに。
「盗まないさ。それはが持ってこその能力だ」
「わはははは。……さって、ヒソカさん、申し訳ないですが……」
「じゃ、行くよゥケータイ持った?」
「うん」
「あっ、、ケータイ持ってんの?番号教えてよ!」
シャルの言葉に、私は快く応じる。
番号を表示させて、シャルに画面を向けた。
すると、シャルだけでなく、他の団員も、ポチポチとケータイをいじくりだす。
「…………よし。これでと連絡がとれるな」
「って、団長、あんたもか!」
「今度、一緒に食事でもどうだ?」
「うぇ?」
「…………………彼女はボクのだよ?」
「だったら、名前書いてどこかにしまっておけ。…………、後で、メール送るからな」
後ろの方で、オレも、あたしもー、と声が上がる。
うんー!と返事をしつつ、私は引きずられるように、ヒソカに連れられてアジトを出た。