「…………君、一体ドコから来たんだい?」
その言葉に、その人物に。
私―――は、鼻血を噴出しそうでした。
招かれざる客
今、私の目の前で岩に座ってるのは。
まぎれもない。
マンガ、HUNTER×HUNTERの。
ヒソカ!!!
あの緑の髪、頬のペイント。そして、本当は細いのに隠してる腰!!
どんなコスプレイヤーだって、ここまでは再現できない、腰!!
「…………なにかボクの顔についてるかい?」
…………はっ。
「いえ!?あ、えっと!ここはー……どこでしょう?」
「場所も知らずにここにいるなんて、面白い子だねぇ◆……ここは、天空闘技場近くの山道だよ」
天空闘技場と申しますと…………。
ゴンたちが、ズシとウイングさんに出会って、念を習得し、なおかつヒソカと一戦交えた場所ですね!?
……………Why〜〜〜!?
どーして、そんなところに、私がいるのよ!
こ、これは、あれですか…………。
異世界トリップと言うやつですか!?
でも、なんでよりによって1番最初に会うのが、ヒソカ!
いや、ヒソカ好きだよ!?好きだけど!!
………………いつ、さくっと殺されるかわからないじゃん!
ってか、もしかしたら、今すぐに殺されるかもしれない。
「いーやー!!殺さないで!?私、何にも知らない(ってのは嘘だけど)ただの女だから!」
「…………初めて会ったばかりで、さらにここがどこかわからないような子が、よくボクが人殺しってわかったねぇ?大体はみんな、奇術師って言うんだけど」
ぼ、墓穴!?
私、今、せっせと自分のための墓穴掘ってる!?
「やーだー!!殺さないで〜〜〜!」
全速力で走り出す。
体育の記録会でも、こんなに必死に走ったことはないってくらいに。
ら。
「………………へ?」
ヒソカが、猛スピードであんなに遠くに。
「あら?」
私から興味を失ってくれたのかしら。
その瞬間。
ザッ。
隣にヒソカがいました。
「ぎゃー!!!」
急ストップをかけて止まる。
「…………じゅ、じゅじゅ、寿命が縮まった……」
ドクドクとものすごい速さと強さで脈打つ胸を押さえる。
崩れ落ちた私を、ヒソカが面白そうに見下ろした。
「ただの子が、こんなに早く走れるものなのかい?」
「…………は?私、そんなに足は早いほうではないのですが……」
「んー、嘘は言っちゃいけないよ?現に、今だってかなりの速度で走ってたじゃないか◆」
遠くに見えたヒソカ。
あれは、ヒソカがすごいスピードで離れて行ったんじゃなくて、私が離れていったのか。
って。
ナンデスカ、そのすざまじい能力〜〜〜!?
私、ただの人なんですけど!?
でも、確かに体は軽い。
なんだかふわふわ羽が生えてるみたいだ。
「あのー……殺さないでね?」
うんというでもなく、否というわけでもなく。
…………微妙だから怖いんだよ。
しょうがないので、放っておいて、私はぐっと大地を踏みしめた。
ありったけの力を足に込めて。
グンッと飛び上がった。
「!?」
瞬間的に変わる、景色。
ヒソカが、はるか下に見える。
私は、垂直とびの記録を5倍くらい塗り替えた。
「どうぇぇ〜!?」
ピタリ。
上昇が、止まった。
浮き上がったものは、落ちるというのが、理で。
私は、ものすごいスピードで下に落ちていった。
飛び上がるのはまだしも、こんな高さから着地なんてしたことないよ!!!
「ぎゃあぁぁぁぁ〜〜〜!!!助けてぇぇぇぇ〜〜〜!!」
ボスッ。
「…………あ?」
「ナイスキャッチ」
なんと。
ヒソカが抱きとめてくれました。
「んー、本当に面白い子だねぇ……美味しそうだ」
「!?」
抜け出そうともがくけれど、ガッチリホールドされてて、抜け出せない!(当たり前)
「やーめーてー!やめてー!!うわーん!!!ちょっと、落ち着きなさいよ、ヒソカ―――!!!」
くすっ。
!?
笑ったヒソカに、私の背筋がゾクゾクした。
「ボク、名前言ったかなぁ?」
「…………い、いいい、言った、よね?」
「嘘はいけないよ◆…………話してもらおうかな、君のこと?………ちなみに、ボク、たいていの嘘なら見破れちゃうから」
逃げ場は、なかった。
「どこから、話せばいいのでしょう?」
「んー……全部」
「私にもわからない部分が多々あるんですが」
「じゃ、1番わかるところ君の名前は?」
「あ、。…………」
「……かいい名前だね」
うっ……ヒソカの笑顔が、今はまぶしいわ!!
「まずはどこから来たのか教えてよ◆」
「えっと……日本っていうところ」
「…………ニホン?」
「多分(というか絶対)この世界じゃない、です。似たようなところ……はあると思うけど(ハンゾーとかバショウとかの国だと思うし)」
「……ふ〜ん……じゃ、君は違う世界の住人ってわけだ……ますます面白い……」
ヒソカの笑みに、逃げ出したくなる体を必死でとどめた。
「それで、なんでただの人であるはずの君が、こんな運動能力をもっているんだい?君の世界では、これが普通なのかい?」
「…………いや、私にもよくわからない……確か、私がいた世界ではこんなに早く走れなかったし、飛べもしなかった……」
「?」
「原因としては……異世界に飛んできた私が、その過程でなんらかの能力を手に入れたのかと……って、私が教えてほしいくらいですよ!」
ヒソカは、くすくすくすとまた笑い出した。
「……で?なんでボクの名前を知ってたのかな?」
ドッキィィィィィン!!!
い、1番触れられたくなかったのに!!
「………………………」
「…………嘘はいけないよ?」
ゴクリ、と私は唾を飲み込んだ。
ヒソカからピリピリと流れる、電流みたいなもの。
……恐らく、押さえてはいるだろうけど……これは、殺気。
まったくの素人である私にもわかる、怖いオーラ。
はぁ、と私はため息をついた。
「…………信じなくても、知りませんからね?」
そう前置きをして。
私は、私の世界でヒソカたちの行動が『マンガ』となって出回っていること、それによって私がヒソカの名前を知っていたことなどを話した。証拠として、ハンター試験のことを、チラリともらしたら、ヒソカはあっさりと信じてくれた。
「…………そんなに簡単に信じてくれていいんですか?妄想だと思わないんですか?」
「だって、これ以上君が嘘をつく理由もないし◆大体、この世界の人で、ボクに近寄ってくる人はめったにいないからね」
う、わぁ…………。
ちょっと、感動。
ヒソカが……私のことを信じてくれたなんて。
「じゃ、君はこれからのボクらのことを知ってるんだ」
「………………はい」
「じゃ、教えてくれないか?これから旅団は、どうなるか」
一瞬、友達にでも話すつもりで、答えそうになったけれど、私はグッとためらった。
ダメだ。
言ったら、きっとヒソカは。
『その通りには行動しない、絶対に』
それは、これまで私がハンターを読んできた経験から、言えることだった。
「…………ダメです、言えません」
「……言わないと、殺すよ?」
ヒヤリ、と背筋に汗が伝った。
笑いながら、片手にカードをもつヒソカから放たれるのは、あの、ピリピリとしたものではない。
すぅっと冷たいオーラが私を包んだ。気温が5度は下がったみたいだ。
「…………でも、言えません。ここで言ったら、あなたは絶対にその通りには行動しないでしょう?」
ヒソカは、また、くすり、と笑った。
そして、カードを降ろす。
「どうやら、君はボクの性格を知り尽くしてるみたいだ…………いい目だ面白いね◆」
戻った回りの空気に、安堵した。
しばらく、沈黙が、続く。
「…………あの、ですね……」
先に私が、口を開いた。
そして、それを待っていたかのように、ヒソカが答える。
「なんだい?」
「…………私を、連れてってくれませんか?」
「…………君はボクの事を知っている?ボクと一緒にいたら、どういうことになるのか、知っているだろう?」
「もちろん。……けど、あなたについていかなきゃ……私は、今、生きていけない。……なんてったって、無一文だし、何にも知らずに生きていくには、この世界は危険すぎる」
ヒソカは、笑うと、座っていた岩から立ち上がった。
「……死なせるつもりで、助けたわけじゃないよ……君は、なかなか面白そうだなにより、美味しそうだし」
「え、あの、ちょっと……」
「でも、ボクの傍にいるには、その運動能力だけじゃねぇ……うん、ボクがなにか教えてあげる」
「あ、ありがとうございます」
「ビシビシ行くからね◆…………ところで、さ、その口調は、口グセ?」
「へ?」
「です、とか、ます、とかつくの、あんまり好きじゃないんだよねぇ〜ボクが年上とかきにしなくていいから」
「………………うん!」
「よしじゃ、いこうか」
こうして、私とヒソカの2人旅が始まった。