幕末恋華新選組   〜近藤勇〜




近藤さんは、新選組の局長として、出かけなければならないことが多い。
それは、会合だったり、様子見だったり、様々だ。

―――一応、試衛館時代からの仲間とはいえ、一隊士、しかも、女の私が行けないことは、多かったりする。

本当は、一緒に行きたい。
一緒に行って、道中、近藤さんの身を、1番近いところで守りたい。

だけど―――それは、私がどれだけ願っても、無理なことで。
ただ、黙って近藤さんの背中を見送ることしかできないんだ。

近藤さんは、出かける前日の夜、必ず私の所に来てくれる。

「…………いってくるよ」

少しだけ微笑みながらそう言う。
思わずその微笑みに、『一緒に連れて行って』と言いそうになるけど―――だけど、それを言ったら、近藤さんが困ってしまうから。

ぐっと言葉を飲み込んで、私も笑う。

「…………いってらっしゃい」

私の言葉に、近藤さんがニコリと笑う。

「必ず、帰って来てくださいね?」

「もちろん。『いってきます』の後は、『ただいま』だろ?」

「そしたら、私は『おかえりなさい』って言いますから」

「うん。だから、俺がいない間も、気をつけるよーに。『おかえりなさい』を言う人がいなかったら、俺、誰に『ただいま』って言えばいいかわかんなくなるから」

「…………近藤さんってば」

「だってさー……頼むから、俺が側にいないときに、無茶しないでくれよ?」

「近藤さんこそ」

視線がかち合って、どちらからともなく、笑いあう。

「…………いってらっしゃい」

『いってらっしゃい』って言葉は切ない。
それは、私が一緒に行けないことを示す、言葉だから。

だけど、それは貴方の帰りを待っています、という想いを告げる言葉でもあるんだ。

だから、精一杯の心を込めて。

「…………いってらっしゃい」

近藤さんの大きな手が、頭に乗っかって。
ゆっくりと細められた目が、とても綺麗だった。




近藤勇  「いってらっしゃい」