「いってきます」

彼女は出かけるたびに、必ず俺にそういい残して出て行く。
本能的に知っているのだ。

「いってきます」

そう言った後には、絶対「ただいま」を言いに戻ってこなければならないと。

戦いに出る俺たちに、明日の保証はどこにもない。
それでも、少しでも生き永らえたいと思うのが人間だ。

彼女は、「いってきます」と言うことによって、自分自身に勇気を与えている。
「ただいま」を言わなければならない。
―――だから、死ぬことはできない、と。

今日も彼女が出かけていく。
オレの部屋に来て、

「近藤さん、いってきます」

そう言うんだ。
男物の着物を着て、少しは軽いものの、それでも女の子には重い刀を挿して。

「気をつけていってくるんだよ」

はにかんだように笑う笑顔。
一礼して出て行く彼女を、どうしても追ってしまう視線。

「いってきます」

を言ったからには、必ず「ただいま」を言わなければならない。
彼女はきっと、それを言いに戻ってくるだろう。
どんな戦いに身を投じても、信念を持つ人間は、生き延びることが出来る。

だから、今日も戻ってきた彼女に「おかえり」を言うんだ。
それを言うまでは、オレは死ねない。

「いってきます」

それを言われた人間は、「おかえり」を言わなければいけないんだ。
な?そうだろ?

だから、早く戻って来てくれよ。
戻って俺に笑って「ただいま」を言ってくれ。
その後俺も、「おかえり」って言うからさ。