がオマエの手を握ったのは、で5つのお題





「……バノッサッ!」

聞きなれた声が、背後から追いかけてくる。
思いがけず街中で会えた偶然に、少しだけ煙草をくわえた口元が緩んだ。
……一日の大半を共に過ごしていて、今朝も一緒に家を出てきたというのに。
たまたま家の外で会えたというだけで、いつもとは少し違う思いが胸に宿る。

ゆっくりと振り返ると、息を切らして近づいてくる姿。
浮かべている満面の笑みに、『幸せ』というものを感じるようになって……どれくらい経つだろうか。

「……よォ、今帰りか?」

「うんっ。バノッサも帰り?怪我しなかった?」

「バーカ、俺様を誰だと思ってやがる」

自分の体を心配してくれるという気恥ずかしさ。
くすぐったい感覚を誤魔化すように、目の前にいる人間の髪をやや乱暴に撫でた。
慌てたように髪を直すが、笑顔は消えない。

「よかった。……こっちは今日も定食屋、混んでたよ〜。大声で注文言ってたら喉疲れちゃった」

「フッ……そのわりに、声に変化はねェようだが?」

「むっ……鍛えてられてるんです〜。毎日誰かさんに怒鳴ってるからねぇ」

「あぁ、毎晩でけェ声で喘いでるか「コラー!ここ街中ー!

顔を真っ赤にして怒鳴るのが可愛くて、クックッと喉の奥で笑う。
そんな俺を見て、コイツもふっと表情を緩めた。

「も〜……あ、そうそう。今日ねぇ、ナンパされちゃった」

「ハァ!?……ドコのドイツだ」

……返答次第ではこの後に寄り道ができる。

「アハハ、八百屋のおじさんだよ〜」

険しい顔をしていたのだろう。ぷっ、と噴出した後に続いた返答。
カクリ、と肩の力が抜けた。

「『うちに来たら新鮮な野菜・果物、食べ放題だぜ!』だって。魅力的なお誘いだったけど……」

「…………魅力的か?」

「だってあそこの果物おいしいもん〜。……でも、私にはバノッサいますから、って答えちゃった」

最後の言葉は、やや照れくさそうに小さめの声で。
ふと顔を見れば、少しおどけたように肩をすくめる姿。

……反則だ。

「……バーカ。……帰るぞ」

やっと言葉を絞り出して、やや強引に手を握ったのは、
伝えるべき愛しさが、言葉にならなかったから。

へへっ、と笑い声が聞こえて握り返された手に、熱が宿った。






「言葉にならなかったから」

サモンナイト バノッサ

「僕がきみの手を」で5題
確かに恋だった http://have-a.chew.jp/