がお前の手を握ったのは、で5つのお題





自分の存在以上に大切な存在。
今、目の前にいる人物に対する想いは、他の何よりも強い。

だからこそ、失う不安感も大きくて。
……時おり、いつか消えてしまうのではないかという不安に駆られる。

世界を超えて、俺の元へやってきた人間。
俺の目の前に突然現れて、俺の心を奪っていった。
胸に残る数々の記憶はいつまでも色褪せない。

もしもコイツがいなくなったら―――俺の奪われた心は、そのままなのだろう。
コイツが傍にいるかぎり、俺は自分の心と隣り合える。
いなくなってしまったら―――心の一部を、失うことになる。そう思えるほど。

他の何とも引き換えにできない。
コイツのいない世界なんて、必要ない。
絶対に失いたくない。
何を差し置いても。

駄々をこねる子供のような考えに、俺は1人苦笑した。

「景吾?」

訝しげにこちらを見上げた愛しい人間の手を取った。
手を取ったのは―――心の中に宿った不安を消したかったから。

こんな不安を抱く俺は、まだガキなんだろう。
だが、コイツはそんな『ガキ』の俺の部分もひっくるめて見てくれる。俺という存在を認めてくれる。

「……さて、今宵の姫は、どのような食事が御所望でしょうか?」

全てを誤魔化すように繋ぎ合った手を少し掲げて、彼女の手にキスを。
案の定真っ赤になって誤魔化された彼女は、ブンブン、と手を振りほどこうとした。
俺が笑うと、ほんの少し頬を膨らませて、

「……おいしい和食を要求する!」

「かしこまりました。……では、参りましょうか」

むぅ、としたままだが、やがて許したように表情を緩める。
そっと握り返してきた手を強く握りしめると、心に宿った不安はふわりと消えていった。




「不安を消したかったから」

テニスの王子様 跡部景吾

「僕がきみの手を」で5題
確かに恋だった http://have-a.chew.jp/