初めての戦い



のんびりした午後の日。
日差しまで優しく見える日。

「ばーけっとぼー。まーま、ばーけっとぼー」

絵本を指差す息子の声に、は顔を綻ばせた。
ソファに座って、雑誌を見ていたが、目を息子に向ける。
キラキラとした目が、とても可愛い。

「そう。これはバスケットボール。彰文、よくできました!」

パチパチ手を叩くと、キャーと喜んでいる。
ほめられたのが、相当嬉しいらしい。

「まーま。ばーけっとぼー。あーも」

「え?」

絵本を手放して、とたとたとのほうへ歩いてくる。
手にはいつの間にやら、子供用の小さなボール。父親が生まれてすぐに与えたものだ。

てん、てん、てんてん……

ドリブルの真似をしているらしい。
……初めてバスケをする息子に感動しながら、は、ちっちっちと指を振った。

「ドリブルはねぇ、リズムよくやるのよ。……いい?とん、とん、とん、とん……」

口ずさんでやると、なんとかボールが均一にあがるようになってきた。

「そうそう。彰文は上手いねぇ。……やっぱり、お父さんの血を受けついでるのかしら?」

「うまー。あー、うまー」

自分で自分をほめている間に、ボールがどこかへ行ってしまう。
でも、相変わらず、にこにこしている息子に、は思わず噴出した。


「……帰ってこないわね〜……3日ぶりなのに……」

呟きながら、いい感じにコトコトと音を鳴らしている鍋を覗く。

「なぁに?なぁに?」

遠くで、こちらを見つめている彰文の声。
キッチンは危ないので、入れさせないようにしている。

「今日はワンタンスープに煮物でーす。彰文、たくさん食べるのよ?」

「あーい」

煮物なんて言葉、わかってないだろうに、にこにこ答える息子。
そこで、チャイムが鳴った。

「はーい。…………彰かな?ちょっと待っててね、彰文」

「やー。あーもぉ。あーもぉ」

「はいはい。あーも行くのね。……よいしょと」

抱えあげて、急ぎ足で玄関に向かう。防犯のために、鍵がかけっぱなしだからだ。

「はーいはい。……おかえりなさい」

「ただいまvv……と、彰文抱いてるのか」

「うん。ついてくって聞かなかったの」

「そーかぁ。3日ぶりだからなぁ」

抱こうと手を伸ばすと、彰文はいやいや、との服を掴んで離さなかった。

「……嫌がられてるんですけど、俺」

「あ、あれ?あーも行くって言ってたのに……どうしたの?彰文」

「やー。まーまはあーの!!」

「え?」

「あーの!!」

ぎゅっとにしがみついている。は、よしよし、と頭をなでるが、困った目線を仙道に向ける。

「…………俺、なにかした?」

「…………さぁ?……彰文〜?どーしたの?」

「まーまはあーのなの!…………とんないの!」

それを聞いて、仙道は納得した。いまだ困っている妻の腕で睨む、自分の息子をひょいっと持ち上げる。ちょっと怖い笑顔つきで。

は俺の。彰文こそとらないの」

「やー!!!やー!まーまぁ!!」

ばたばたと暴れる彰文の足が、仙道の胸に当たる。

「いて、いてて。…………は、俺のだよー。彰文のじゃないよー」

「やー!まーまはあーの!!」

「俺の」

「あーの!!」

「……やめなさい!!!2人して!!」

鶴の一声に、2人の動きがぴたりと止まる。

「もう。私は物じゃありません!2人ともごめんなさいして!」

の声に、2人は同じように口を開いて、また閉じ。
に向かって、ごめんなさい(ごーんなさー)と頭を下げた。



その夜、寝室で。

すやすやと眠る息子を、仙道は3日ぶりにマジマジとみた。

「……驚いたよ。まーまはあーの、なんて言いだしたときは」

「私だって驚いたわよ。そんなそぶり、まったく見せてなかったのに」

「……一人前にやきもち焼くんだな」

「やきもちって言うのかしら?」

「子供ながらも、俺に本気で挑んでたよ」

くすくすと笑って、息子の髪をいじくる。気づかずに幸せそうな顔で眠りつづける。

「…………そうそう。今日、いきなりあの子、バスケやりだしたのよ」

「……え?」

「ドリブルなんてつきだして。自分で自分ほめて笑ってるのよ」

思い出したのか、はくすくすと笑い始めた。

「いつか、親子対決するかもね」

「……まいったなぁ。俺、その時まで現役でいられたらいいんだけど」

「がんばれ、お父さん。……うまくなるわよ、きっと。なんてったって、最強のライバルがこーんなに近くにいるんだもんね」

「うまくなるに決まってるって。だって、俺たちの子なんだから」

ぱちり、と明かりが、消えた。


あとがきもどきのキャラ対談


銀月「誓いシリーズ第四弾です!今度は、父と子の対決!」

仙道「……あんまり、俺、出てないような……」

銀月「あ、そう思う?から、最後だけサービスしてみたんだけど……」

仙道「まだ足りない気がするのは、俺だけ?」

銀月「はいはい。もうちょっとがんばりますよ。ってか、この話のとき、あなた、いくつよ」

仙道「ん〜……いくつだろう?」

銀月「…………まぁ、いっか」

仙道「といれば、俺はいつまでも若いからね♪」









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