〜〜特別な日、特別なモノ〜〜



 朝から、ちょっと嫌な予感はしていた。

 にも関わらず、大丈夫だろうと油断していた私も私なんだけど・・・。



 ぽつぽつと────数分後にはザァァッと降り出した雨を見て、私は溜息をついた。



(・・・梅雨入りは週末だって言ってたのに。天気予報のバカヤロー・・・)



 思わず内心毒づく。



 最近は、曇りだったり雨だったりたまに晴れたりと、コロコロと天気が変わるので、朝、傘を持っていくかどうかの判断はとても重要だ。荷物が多い日なんかは、特に。

 今朝は、曇り空で微妙なところだったけれど、『今日は一日曇りでしょう』という天気予報を聞いて、傘を持ってこなかった。



 ・・・これからは、曇りでも折り畳み傘を持ってくるようにしよう。



 密かに心の中で誓ったところで、再び空を見上げた。相変わらず、鉛色の空から、大粒の雨が降り注いでくる。



 いつまでも、こうして昇降口に突っ立ってるわけにもいかないしなぁ・・・。



 何か打開策はないかと、しばらく思い悩み・・・出した結論は。



「・・・よし、ダッシュで帰ろう」

「バカか、お前」

「やっぱりバカですよねーって跡部先輩!?」



 急に側から声が聞こえて、びっくりして大声を上げてしまった。・・・あれ、何かデジャヴ。

 もうほとんどの生徒が帰ってしまっているのに、なんでまだいるのだろう。



「あ、生徒会のお仕事ですか?」

「ああ。今日は部活も中止だしな」

「・・・ご苦労様です」



 そう言ったところで、また空を見上げる。少しだけ、さっきより雨足が弱まっていた。

 今ならイケるかも?



「・・・おい、まさか本当に走って帰るつもりじゃないだろうな?」



 顔に出ていたのだろうか(汗)



「いやでも、どうせそれしか帰る方法がないですし」



 色々と考えてみたところで、選択肢は一つしか見つからない。そう、一つしか・・・



 しかし。校門の前で、例の黒いリムジンが止まったのを、そして先輩が意味ありげに微笑んでいるのを見て、私は本日二度目の嫌な予感に駆られたのであった。











 ・・・やっぱり、こうなるんですね。



「俺様がいて、ラッキーだったな」

「ソウデスネ・・・」



 隣に座っている先輩は、何故か楽しそう。

 うぅ・・・雨に濡れないのは嬉しいですが、非常に居たたまれないのですよ(泣)



 リムジンとかって、初めて乗ったけど(ていうか、私には一生縁のないものだと思ってたけど・・・!)、なんというか、別世界にいるみたいだ。背中すら寄りかかってはいけない気がして、思わず背中を浮かして、ぴんと背筋を伸ばしたまま座る。



 何で、同じ氷帝の制服なのに、先輩はこうも絵になるんだろう(汗)



「・・・そういえば」



 ふと、何かを思い出したように、先輩が呟く。

 何もすることがないので、窓からずっと外を見ていた私は、その呟きに視線を車内に戻した。



「どうかしましたか?」



 しかし、私の言葉が聞こえているのかいないのか、しばらく何かを思い出すように思案していた先輩は、前に座る運転手さんに何事か伝える。囁き声だったし、雨と車の音もあって言葉は聞き取れなかったけど、運転手さんは一つ頷いて、ハンドルを切った。



 明らかに今、進路変えたよね?



「・・・え、えっと、先輩・・・どこか寄るところでもあるんですか?」

「ああ。・・・大丈夫だ、俺様の家じゃねぇから」



 失礼かもしれないけれど、ほっと息をつく。とりあえず、一番危険な可能性は回避できた。

 前に一度だけ行った時は・・・なんというかもう、車以上の別次元で、できれば再び行くのは遠慮したい(遠い目)



 再び、車の外へと目を向ける。だんだんと雨足が弱くなっていって、白と灰色の交じり合った空が見えた。



 ぼーっと空模様を見上げていると、ふっと視界が真っ暗になった。



「? ・・・せ、先輩っ!?」



 一瞬反応ができなかったけれど、目元に感じる暖かい感触に、目隠しされているのだと気づく。

 慌てて先輩の手を外そうとするものの、先輩のもう片方の手で阻止されてしまう。抗議しようと、首を回して振り返ろうとした時、耳元に微かな吐息を感じた。



「大人しくしていろ」

「・・・はい・・・」



 さ、囁くの反則――――っ!!(心の中の叫び)



 ギシッと体を硬直させ、先輩に目隠しをされるという恥ずかしい体勢のまま、私は大人しくせざるを得なかったのだった。



 ・・・誰か、助けてー・・・(泣)













 かくんと体が傾き、車のスピードが落ちていくのを感じる。

 ようやく、目的地に到着したようだった。



「あのー、先輩・・・まだダメなんですかー・・・?」



 未だに視界は真っ暗なので、力なく先輩に尋ねる。

 目元に感じる温かさとか、近くで聞こえる息遣いとか・・・その全てが恥ずかしくて心臓の音がうるさく、私はかなり精神を消耗していた。



 ああもう、心臓よ止まれ・・・!(止まったら死にます)



「仕方ねぇな。・・・ちょっともったいないが」

「はい?」

「いや、なんでもねぇ」



 なんかぼそっと聞こえた気がしたんだけど・・・気のせい?

 すっと手が外されたので、すぐに私の意識はそちらへと向けられた。



 急に感じた光のまぶしさに、慣れるのに時間を要した。何度か瞬きして、目の前の光景に目を見張る。



「・・・なんか山の中に来ちゃったみたいなんですけど、いいんですか?」



 あまり綺麗な舗装もなく、今居る場所から先は、コンクリートの道路さえない。高級車には、ちょっと似つかわしくない場所だ。

 疑問に思って振り返った先には、先輩の姿はなく。



 私の目の前の扉が、開いた。



「わっ」



 扉の向こうには、一足先に降りたらしい先輩が佇んでいた。

 先輩に扉を開けさせるなんて・・・! と慌てて降りようとすると、先輩はふいに微笑み、優雅な動作で手をこちらに差し伸べてきた。





「お手をどうぞ・・・姫」







 間







「せせせ先輩――――っ!!? いったいどうしたんですかぁぁぁっ!!(絶叫)」



 姫って・・・姫って・・・!//////

 いつも変だ変だと思ってたけど、今日はいつにも増して変ですよ!?(失礼)



 うわわわ、今絶対顔あか(頭の中でリピート再生)きゃああぁぁ!!



「っクク・・・」



 ・・・・・・ん? 笑い、声・・・?



 ハッと顔を上げると、顔を背けてはいるが、肩を震わせている先輩が。



 ・・・からかわれた?



「〜〜〜〜っ! せーんーぱーい〜〜・・・!」



 恥ずかしいやら腹ただしやらで、思わず地を這うような声を出すと、ようやく先輩が振り返る。

 手で隠してはいても、まだ笑っているのがわかる。



「クク・・・悪い。あまりにも素直過ぎる反応だったんでな」

「あぅ・・・(汗)」



 反論の余地なし_│ ̄│○



 勢いが削がれて、しゅんと項垂れていると、また目の前に手が差し伸べられる。もう笑いは収めて────というよりも、苦笑している感じの先輩がいて。私は、仕方ないなぁという顔をしつつ、その手を握った。・・・内心、ちょっと嬉しかった。



 手を握ったまま、先輩が歩き出す。私も大人しくその後に続いた。

 雨上がり特有の匂いと湿気を含んだ空気が気持ちよくて、肺いっぱいに吸い込む。周りは木々が生い茂っていて、こんなところを先輩と歩いているのが、なんだか不思議だった。



 そんな気分も、つかの間。



「着いたぞ」



 どこに、なのか分からなかったけれど、先輩に促されて、薄暗い木々から抜けた場所へと歩み出る。

 一瞬感じたのまぶしい光に、目を瞬かせた。そして。





「・・・わぁ・・・・・・」





 向こう側に沈みかけた夕日が、ここから見える景色に紅い光を投げかけていた。

 空は紅く染まっていて、少しずつ夜の色へと変わっていく、滑らかなグラデーション。

 雨に濡れた木々は、光をうけて、紅い景色の中で所々輝きを放つ。



 雨上がりの、夕焼けの山。



「すごい・・・こんなの、初めて見ました・・・」



 晴れた日に見れば、壮大さを感じたであろう景色も、今この時は輝かんばかりに美しい。



「気に入ったか?」



 隣に並んだ先輩の問いに、私は笑顔で返す。



「はい! あ・・・でも、どうして私をこの場所に?」

「お前に見せたかった。・・・それだけでは不満か?」

「いえ、そういうわけではないんですけど・・・」



 ちょっと口ごもってから、再び夕焼けの景色を見つめる。



「ここは、先輩にとって特別な場所のように感じたんです。・・・私の気のせい、ですか?」



 握った手越しに、先輩が少し反応したのを、感じる。



「・・・特別というほど、大したモノじゃないがな。昔見た景色を、たまたま思い出した」



 それを、私に・・・?



「特別な日には、特別な贈り物、だろう?」

「!」



 驚いて、思わずばっと振り返った。



「先輩、今日は・・・!」

「お前の誕生日」

「お、覚えててくださったんですか!?」



 やばい・・・すごく嬉しい。



 でも、どんな顔をしたらいいか分からなくて、少し戸惑って・・・思い切り、笑うことにした。



「・・・ありがとうございます!」



 最初の頃は、先輩のことがよく分からなくて、・・・今でもまだよく分からないけど。

 握った手から伝わるぬくもりが、暖かい。











 本当に嬉しそうに、微笑みながら景色を見つめる少女の横顔を、じっと見つめる。

 喜んでもらえたのなら、嬉しいことこの上ないのだが。



(祝いの言葉・・・言い逃したな)



 微妙にタイミングがずれて、言う機会を逃してしまった。

 嬉しそうな満面の笑顔に、言葉に詰まった、というのもあったのだが。



・・・まったく、俺様らしくない。



 この景色も、誰かに見せたりはきっとしなかっただろう。・・・こいつ以外だったら。

 こいつといると、調子が狂う。でも、それは決して不快ではなくて、今までに無い感覚に楽しさすら覚える。



 『特別』なのだと、自覚したのはつい最近。

 ・・・こいつの鈍さに気づいたのも、つい最近。



 握ったままの手を見て、思わず苦笑した。



(まあ、いいか)



 今はまだ、このままで。



 夕日が沈むまでの後数分、夕焼けの景色に夢中になっている少女の気を逸らさないよう、小さく呟く。



誕生日おめでとう────









 〜〜後書き(という名の懺悔)〜〜



・・・もはや、ノーコメント・・・というわけにもいかないので。

とりあえず、ツッコミどころ満載ですが、水の如くスルーしてください(え)

最後にさりげなくカッコつけてる所も、とことんスルーしてください・・・!



そ、それでは、駄文失礼いたしましたっ!(逃)




はろうぃん様から頂いた、お誕生日プレゼントです……!
許可を頂いてから、UPするのが遅れて、大変申し訳ありませんでしたぁぁぁぁぁ!(土下座)
というか、この景吾さんにマジで鼻血……姫って、姫ってぇぇぇぇ!(壊)
こ、こんなくっさいセリフが似合うのは、やっぱり跡部様しかいませんね!
もう、とにもかくにも……ありがとうございましたぁぁぁぁ!