GO!






―市民体育館―

そう大きく書かれた看板の前で、陵南高校二年、は唸った。

「雨ぇ〜。雨ぇ〜……どうしよう」

は、何かの嫌がらせとしか思えない程に音を立てて降りしきる雨を睨みつけた。

「雨の馬鹿ぁ〜。天気予報の馬鹿〜。気象庁なんて今後一切信じるかぁ〜」

愚痴っていても仕方がない。

「はぁ〜……こんなことになるんだったら、誰かと一緒に来るんだった……」

当然まわりには誰もいない。

「くそぅ〜……余裕こいて4時間もいるんじゃなかった〜……」

すでにあたりは真っ暗。

「どうしよう〜〜〜!!!」

はもう一度頭を抱える。

(こういうとき、雪ならまだいいのよ。濡れないから。だけど、雨って。雨って〜っ!)

呆然と落ちてくる水滴を眺める。

(考えろ……まず、電話があるところに……そうだ、携帯が……携帯、携帯、と……)

ごそごそとバックの中を捜してみる。

中に入っているのは、バッシュとタオルとボールのみ。

(……ダメだ……財布すら入ってない……)

がっくりと頭をたれる。

今日は、天気がいいから―――家を出たときには、少なくとも晴れていた―――歩いてきた。財布なんてものは入れてこなかった。

(……じゃぁ、公衆電話……ポケットに10円くらいは入っていたはず……)

ポケットの中に10円玉を見つけて、ちょっと喜んだりする。

(公衆電話、公衆電話……)

きょろきょろと辺りを見回すが……ない。

体育館の中にはあったが……すでにもう使用時間は過ぎていて、中には入れない。透明な自動ドアのなかに緑色のそれは見えるが……とにかく入れない。

(くそう……くそう……見えるのに〜っ!)

強引に追い出した係のおばさんが憎い。

「とにかく……電話があるトコまで走るか……GOGO!」

自分で、自分を元気付けてみる。

(あ……虚しくなってきた……)

こうしては、あてのない電話探しへと走り出した。





(冷たい〜。寒い〜)

閉まっている店の前でとりあえず雨宿り。自分自身を抱きしめて、軽くくしゃみをする。

(バスケプレイヤーが風邪ひいてどぉすんのよ〜……)

バスケプレイヤーは関係ないと思うが。

(……あいかわらず電話は見つからないしさ……こうなったら、交番にでも……いやいや、その交番さえないんだよ……)

へっくし、と年頃の乙女らしからぬくしゃみを連発。

(誰でもいい〜。誰か、ここ通って〜……彰以外で)

必死になって祈ってみる。

「あれ?ちゃん?」

「神様っ!」

「は?神様?」

の目の前にいるのは、同じく陵南高校二年、越野。

「どしたの、こんなところで」

「体育館行ってたの〜っ!そしたら、雨がぁ〜……そういえば越野こそ」

部活の帰りというのはわかるが、(大きなスポーツバックを背負っているので)ここは、陵南高校から遠く離れている。

「俺は、ラーメン屋の帰り。……なに?傘ないの?入る?」

「越野……君に後光が見えるよぉ〜……」

は、越野に手を合わせて拝む。

「それはどうも……あ、でももうすぐ仙道来るけど?一緒にラーメン食ってたから」

ぎくっとは身をすくませる。

「い、いや、いい」

「なんで?」

うつむいてぼそぼそとは答える。

「だぁってさぁ〜……彰の……その……技……練習してたから……恥ずかしい……あ、越野、これ、彰に言わないでよっ!あいつ、またちょーしに乗るから……ぁ?」

語尾が弱くなる。その原因は……

「もう、ちょーしにのっちゃってまーすvv」

越野の口を後ろからふさいで上から見下ろして答えている、仙道彰、本人のせいだ。

「さて、越野。お前、これからどーする?このまま一緒に帰るか?」

仙道の背後から黒ぉいオーラが見え隠れする。

「……謹んで、辞退させていただきます……」

「よし。……さぁ。いこーかvv」

肩を抱いて、体には似合わない小さなビニール傘をさして、仙道とは走り出す。

残された越野の一言。

「……色っぽかったな……ちゃん……」

仙道の一撃が飛んできそうだ。





「ふぃ〜……傘、意味ないかったなぁ〜……」

バタン、と玄関をしめて、濡れた上着を脱ぐ。そこに高い疑問の声。

「……あの、仙道くん……なんで君の家なんですか」

「そりゃ、俺の家のほうが近いから」

あっさりと即答される。がっくりとうなだれ、は仙道の傘を掴んだ。

「……帰らせていただきます。傘、貸してください」

「だめvv」

「ヲイ」

思い切りつっこんでしまった。

「そんなんで帰ったら、風邪ひくよvvはい、風呂行き決定〜っ!」

「ヲイ」

「着替えは、俺のTシャツとジャージで我慢して。そこの引き出しに入ってるから」

「ヲイ」

「あ、シャンプーは適当に使っていいから」

「もうすでに、入ることになってんのかぁぁぁ!」

「もちろんvv」

かくっ……と膝が折れる。

「大丈夫?」

(あんたのせいだよ。あんたのっ!)

「風呂の位置は……わかってるよな?」

「……もちろん」

なかばヤケになって、はタオル片手に、風呂場へ向かった。





「……彰ぁ、出たよ〜」

やっぱり、に仙道の洋服は大きすぎて。

Tシャツは大きく胸元が開いて。

ジャージはすそを何回も折り曲げている。

(……色っぽぃなぁ……)

邪な意識もうかぶというものだろう。

「彰も入ってきちゃいなよ。私、ごはんつくっといてあげるから」

「ラッキ♪入ってこよ」

いそいそと着替えを持って風呂場へ向かう。

後ろからは、なにかを刻む、包丁の軽いリズム音が聞こえてきた。





「ふぃ〜……いい湯だった……」

「親父クサッ!」

「それは、どーも」

皮肉をさらりと受け流されて悔しいのか、は唸った。……でもしっかり手を動かしている。

テーブルにはこの短時間で作ったとは思えない程の数の料理が並んでいた。

「おぉっ!すっげー。食っていい?」

「まだだめ。後これだけだから。ちょっと待ってて」

トントンと、包丁を動かし、皿の上に手早く盛り付けていく。

「おぉっ!カルパッチョッ!」

「新鮮な方がおいしいでしょ?魚も入ってたし……まるごと一匹」

「昨日、釣ってきたんだよな、そういえば」

はふかぶかと溜め息をついた。

「まったく……男の一人暮らしに魚が一匹まるごとあるってのもおかしい話だよ?普段、どーやって食べてんのさ?」

「焼くか煮る」

仙道の答えに、はやっぱり……と頭に手をやる。

「…………さばいといて、冷蔵庫に入れといたから、なるべく早く食べてね」

「へい」

ぱくぱくと無言で食べつづける。ふと、ただ眺めている

、食べないの?」

「料理って言うのは、作ってる最中に味見すると食べたくなくなるものなのよ」

「へぇ〜……」

あっと言う間に料理がなくなっていく。

空になっていく皿を、は次から次へと流し台に運び、きれいに洗う。

全ての皿が洗い終わったころ、はストーブの前でかわかしておいた自分のトレーナーを上から着た。スカートもかわいたようなので、着替える。……もちろん、スカートをはいてからジャージは脱いだ。

「え?もうかえんの?」

テレビを見ていた仙道が振り向いた。

「あたりまえ!ばか彰っ!傘かりてくからねっ!」

玄関にむかって歩くを後ろから抱きしめる。

「泊まってこ♪」

「何寝ぼけた事ぬかしてんの!」

「もう暗いし♪一人で帰らせんの心配だしvv」

「おあいにくさま。一人で帰れます〜っ!」

「ドラマ、始まるけど?」

「うっ……」

は言葉に詰まった。

そう、大好きなドラマが9時から始まる。

ただいまの時刻、8時53分。

たとえ死ぬ気で走って帰っても、ここから15分はかかる。しかも、外は雨。走ろうと思っても、走れないだろう。

「……バス代貸して下さい……」

「次のバス、9時12分だけど?」

「…………」

「電話、しようか?」

つまり、家への断りの電話をしようか?の意である。

ぷっくりと頬をふくらませる。

「……どーせ、家には誰もいーまーせーんっ!」

「なら、なおさら泊まっていかなきゃvv」

「……彰の馬鹿ぁ〜」

「そう。の前だと、馬鹿なの、俺vv」

「……むぅ〜っ!」

あっさりとは仙道に抱かれてテレビの前に座らされる。

「ほら、始まったぞ」

「……彰、この体勢……」

「ん〜?の髪、いー匂い♪」

「じゃなくて、この体勢っ!」

仙道があぐらをかいて、その中に座らされるような形で、後ろから抱きしめられている。

「いーじゃん。ほら、ドラマ」

「あっ」

もう、体勢の事は関係なしにドラマに見入ってしまう。

後ろから抱きしめつつ、の髪の毛をいじくりまわす仙道。

やっとこさ、ドラマが終わったころ、仙道はを開放した。

「あ〜。この回すごいよかった。ありがと、彰」

にっこりと笑顔を浮かべてお礼。さっきの怒りは何処へ消えたのやら。

つられて仙道も笑顔になる。

「どういたしまして。……そんじゃ」

「そんじゃ?」

腰をあげた仙道を上目遣いで見上げる。殺人的な可愛さ。

仙道は、を抱き上げてにっこりと微笑んで言った。

「イタダキマスvv」

暗転―――。







あとがきもどきのキャラ対談



仙道「……銀月?なんだ、これ?」

銀月「仙道ドリーム第二弾♪」

仙道「……これが、俺?どこが『GO』なの?」

銀月「細かい事を聞かないのがいい男の条件だよ♪」

仙道「……ちげーだろ……、こんなやつほっといて……」

銀月「えっ、ほっとくの?」

仙道「(無視無視)さぁ、いこーか、vv」

去っていく二人。

銀月「……感想をBBSかメールでくださると、うれしいです♪」