合宿 「……眠い」 の彼、藤真健司はボソッと不機嫌そうに呟いた。 「んなこと言っても、昨日どうせみんなと喋ってて寝るの遅くなったんでしょ?原因は自分〜!ハイ、次行くよ〜!」 ピッと笛を吹く。藤真が元々白い頬を心持ち青くさせた。 「……、お前は元気だな」 「そりゃあもう☆昨日は1時間だけ喋って、後はみんなで寝ちゃったもん。ハイ、休憩終わり。いってらっしゃい!」 渋々と藤真は、既に待っているメンバー達の元へと急ぐ。 ピッとが笛を吹くと、ダッと一斉に走り始めた。 後輩達が声だしもかねて、体育館に響き渡るような大声を出す。 監督・藤真のそれに負けない程の大きな声。 「ラスト1往復、ダッシュだ!」 翔陽高校バスケットボール部、ただいま強化合宿中。 翔陽高校バスケットボール部はなんといっても人数が多い。 なので、必然的にマネージャーの人数も多くなる。さすがに100人近くの(正確な人数はわからない)面倒を1人で見ろというのは酷であろう。 だが、毎年競争率が高いのは必至。なので、本当にマネージャーをやる気のあるものしかできない、幻の職業(?)なのである。 その中で、主にスタメン組のマネージャーなのが、だ。 ケガでプレーヤーをやめたは、やはり元プレーヤー。テーピングはもちろん、熱射病、貧血などといったスポーツの中で起こしやすい病気の応急処置を心得ている。また、スコアもかけるしプレーヤーの心理もよくわかっているので、メンバーにとってはまさしく女神のような存在であろう。 「ハイ、ダッシュは終わり!」 肩で息をしていた伊藤がを見て言った。 「……センパイ……ダッシュ『は』ってところが嫌です……」 「だって、他にもまぁだまぁだあるんだもん。……聞く?」 「……遠慮しときマス……」 他の2年もそろってブルンブルンと首を振った。 「ハイ、ポカリ。……あ、健司はアクエリだったね。……ハイ!あ、ちょっとちょっと、ちゃんと汗拭く〜!」 「センパァイ……ポカリ切れちゃったんですけど、どこに入ってますかぁ〜?」 「バッグの内ポケット!」 「全部ないんですけど〜……」 「え!?嘘!?……じゃあ、買ってくる〜!」 言うや否や、財布を持って体育館を飛び出していく。 「……センパイ、元気っすねぇ〜……」 「……あいつの体力は底なしだ……オラ!練習再開すっぞ!」 「「「「「「はい!」」」」」」 「ん〜……今日のポカリ代が、全部で812円で……この間買ったコールドスプレーが3本で2199円……テーピングも補充したいから、予算として2000円とって置いて……えぇ!?あとこれしか部費残ってないの!?あ、今年、ボール買ったからだぁ……」 「……センパイ?どうかしたんですか?」 後輩のマネージャーが、恐る恐るに話し掛ける。 は、どよーんとした表情で後輩のマネージャーにグチをこぼす。 「……部費がさぁ、もう、後20000円弱しか残ってないんだよね……もつかなぁ〜?微妙なところなんだけど……やりくり、どうしよう〜」 「……ありゃりゃ……とにかく、センパイ、お風呂入ってきたらどうですか?気持ちよくなって、スッキリしたら何か浮かぶかもしれないですよ」 「……う〜ん……そうだねぇ。入ってこようかなvv……あれ、みんなは?」 「もう入ってきちゃいましたぁvv」 「はやっ!……誘ってくれればよかったのにぃ〜……」 「誘いましたよぉ。でも、センパイ気づかなかったみたいで……」 「ふぇ〜ん……1人風呂は寂しいザンス……」 「ま、ゆっくりつかってきてください」 ニヤニヤ笑っているような気がするのは、の気のせいだろうか。 1人寂しく離れた浴場まで向かう。 途中、誰とも会わなかったところを見ると、おそらくみんな(部員を含めて)入り終わったのだろう。 (ほんとに1人風呂だよ……まぁ、ゆっくりつかってやるか) 服を脱ぎをおわって、ガラ、とガラス戸を開ける。 「……うひゃ、見事に誰もいない……」 かけ湯をして、体を洗ってから、ゆっくりと湯船につかる。 白くにごった湯が、疲れた体を癒してくれる。 「く〜〜〜!温泉はいいなぁ〜やっぱり……」 シーン………… ちゃぷ、とお湯に肩までつかってから、は呟いた。 「……やっぱり、1人は寂しいなぁ」 「……じゃあ、一緒に入ってやろーか?」 響いた声の低さに、驚いて溺れそうになる。 「け、け、け、健司!?」 慌てて側に置いてあったバスタオルを取ってつける。お湯が白かったのが幸いした。 「な、な、な、な、なんでいるの!?ここ、女風呂……!」 「ばぁか。10時以降は混浴になるんだよ、ここ。知らなかったのか?」 「し、知らない、知らない!知らなかったらこない!……じゃなくて、知ってたらこない!」 「……なんだ、てっきり俺はが、俺と一緒に入りに来たのかと思った」 ニヤリ、と不適な笑い。 「んなわけないでしょ―――!……って、こっち来ないで!馬鹿!」 「だって、行かなきゃ湯船につかれないだろ?」 は、少しずつ藤真から遠ざかる。 「わ、わかった。わかったから!私が出る!私が出てから湯船につかって!」 「ヤダvv1人風呂は寂しいvv」 「寂しそうなツラじゃない!」 「……じゃ、近づかないから、一緒に入ろうぜ?」 少し潤んだ藤真の瞳に、は悩殺された。 「……少しの間だけね……」 「ふぅ〜……」 「……親父クサッ……」 「なんだとぉ?……そういや、俺、さっき『く〜〜〜』て呟いたヤツ、見たんだけど?どこのどいつだったかなぁ〜……?」 えっ、とが飛び退る。 「見てたの!?」 「もちろん」 「うひゃぁ〜……こっぱずかしぃ〜……」 お湯の熱さと恥ずかしさで顔が完熟トマトのように真っ赤になった。 「……でもやっぱ、風呂はいいよなぁ〜……日本人でよかったぜ、ほんと」 「……ジジクサ〜……」 「うるさいぞ!!」 その会話を最後に、沈黙が訪れる。 でも、沈黙でも気まずい雰囲気はない。 「……あ!」 突然声をあげたに、藤真が目だけを向ける。 「どうした?」 「健司に聞けばいいんだ!」 「……なにを?」 今度は体を向けたので、パシャッとお湯がはねる。 「あのね〜、部費があと20000円弱しかないの!こんなんで、今年もつかな?どうしよう?」 「……20000円か……ちょっときついな……うちは人数も多いし……」 「……だよね?」 う〜ん……と湯の中で腕を組むのが藤真にはよくわかった。 その仕草がかわいらしくて、フッと笑みがもれた。 「……なに?」 慌てて、目をそらして照れ隠しに上のほうを見ながら浮かんだ名案を口にした。 「臨時に徴収するのはどうだ?ここは人数が多い、うちだけの特権を使って……1人500円でも50000円はあつまるぞ」 ぱぁっ、との顔が輝いた。 「それいい!そうしよう!さすが、健司!学年10位に入る頭はダテじゃないね!」 「当たり前だろ?……さて、そろそろ出るか」 ザッとお湯から出る。 「……んじゃ、私も出ようっと……結局、私たちがお風呂に入ってる間に、誰も入ってこなかったね。入ってきたらどうしようかと思った……」 真っ赤になって、額に張り付いた髪の毛を左右に分けながらはにかんで笑う。 藤真は、フッと目を細めた。 「……見せ付けてやればいいだろ?……こんな風にさ」 帰ろうとしたの腕をグイッと引っ張る。 「にゃっ!?」 振り向いた隙に唇に軽くキス。 「……ごちそうさまvv続きはまた今度な♪」 「な、な、な、な、なんだとぉぅ〜!?」 翌日、藤真監督は上機嫌で数々の殺人メニューをこなしていきましたとさ。 あとがきもどきのキャラ対談 銀月「いや〜……藤真さん、キャラ人気投票1位おめでとう!」 藤真「ありがとう……って、その持ち帰りドリームがこれか!?」 銀月「うんvvこれvv微妙な話だね☆」 藤真「(自分で言ってやがる……)まさか、これで済まそうって魂胆じゃないよな?」 銀月「……そうおっしゃると思って、もう1本お持ち帰りドリームを製作中ですぅ」 藤真「よし。んじゃ、それを待っててくれな、」 銀月「待っててくださいです!」 |