人のために泣けるということは

強い事だと誰かが言った

では

自分のために泣く事は

弱いということなのか―――?





CRY⇒WEAK



1人、幻光虫がぼんやりと光るのを見ていた。

水面に光が反射して、この世とは思えないような空間を作り出している。

ここに来て、もう何日がたっただろうか。

聞いたことのない土地、見たことのない生物―――ただわかったのは、ここがかつて自分が住んでいた世界とは違うという事だけ。

服も、食べ物も、酷く似ているがなにかが違う。

魔法なんてなかった。

スフィアなんて知らない。

右も左も―――自分のおかれている状況さえわからなかった。

自分と似たような境遇―――向こうはタイムスリップだったが―――であるティーダと出会わなければ、おそらく今の自分はいない。

チャプ、と水面に足をつけた。

光がふぅっと舞い上がる。

肩が震える。息がつまる。

光を映した瞳に、透明な液体がふくれあがる。

けれども、その液体は頬を流れることなく、瞳の中にとどまっていた。

「………………っ………めだ…………」

光を見つめたまま少女はつぶやいた。

瞬きをすると、涙がこぼれそうだったから。

前方を凝視したまま、こらえる。

「…………だめ……まだだめ………まだだめだよ………」

涙を流すと、同時に自分の弱さが溢れ出てしまうから。

自分の弱さを認めてしまうことになるから。

「…………まだ、だめ…………」

カサリ、と草を踏む音が聞こえた。

はっとして、振り向く。

「………アーロン」

「………………か……どうした」

「……えっと………幻光虫を見に………なーんて。足が暑かったからさ。冷やしに来ただけ」

パシャン、と右足をあげれば水滴が飛び散る。

顔にかかった水滴で、目の中の水滴をごまかそうとした。

「…………ねぇ、アーロン。魔法って、私でも使えるかな?」

「………………なんだ急に」

「いや、戦闘面じゃ、私なんの役にもたたないから……黒魔法は使う人少ないっていうけど、白魔法はけっこういるんでしょ?………ケアルくらいでも、使えたらなって」

まっすぐ―――幻光虫を見つめたまま、右手を差し出す。

戸惑うように揺れた光は、やがての右手に宿る。

「…………ユウナに教わるといいだろう」

サクリ、とまた草を踏みしめる音。だんだんと、近くなる。

「…………えっとね…………あ、武器は?アーロンとかティーダみたいにカッコいいのじゃなくていいからさ、軽いのでも……」

足音は、止まらない。

「あ、ルールーのぬいぐるみってどーなってんのかな?魔力で動いてるの?……私にもできるかな?」

音が、やんだ。

息を吐いて、右手の光を見つめる。

「…………アーロン?」

「………………あぁ」

聞こえた低い声は、自分の耳元から。

驚いて振り向くと、そっと抱きしめられた。

宿った光が、空へと舞い上がり―――消えた。

「…………アーロン?どーしたの」

「もう、いい」

「へ?……いい年したオジサンが、こーんな若い娘抱きしめてなにいってんの」

「…………もういいと言っている」

「も〜……どしたの、アーロン。おかしいぞぉ〜?」

「おかしいのはお前だ」

その言葉の意味をわかりながらも、あえて茶化すように言う。

厚い胸板をそっと両手で押し返した。

「おかしいって……ひどいなぁ。今のアーロンだって相当おかしいよ?」

「…………なぜ、ここに来た」

「ここって……この世界?それともこの場所?……この世界だったら、なんでだかわかんないけど、この場所だったら理由は前に述べたよ?」

「…………もう一度言う。なぜここに来た」

サングラスの奥にある、瞳の真剣さに、軽口は消えた。

押し返す力が弱くなる。

あっというまにすっぽりと腕の中におさまる体。

「…………強くならなきゃいけないんだ」

見つめるべきは、目の前の現実。

忘れるべきは、前にいた世界。

「強くなって……強くなって……じゃないと、私は私の居場所を見つけられない。いつまでたっても『異物』のまま………そんなの嫌だ……」

うめくように、喉の奥から絞り出される声。

確実に膨らむ、透明な水滴。

それでも、こらえよう、と必死に自分を励ます。

落ちそうになる、玉の雫をギリギリのところで止める。

ひきつる頬を、無理やり動かし、笑みを作った。

「…………アーロンみたく強くなったら、私も歴史に名を残すかもしれないし」

「…………もう、いい」

「あ、今日私しゃべりすぎ?ごめんごめん!」

「もういい。…………泣け」

「…………はい?…………泣け、申されましても……」

更に強く抱き寄せて。

顔にあたる髭がチクチク痛かった。

「…………泣ける人間というものは、強いものだ。泣けない人間の方が、弱い」

ぽとりと。

落ちた雫が赤い着物にしみを作った。

「…………涙を忘れるという事は、己を忘れるということだ。泣けるうちは、泣け」

しみがどんどん増えていく。

アーロンの着物をぎゅっと握り締めた。

幻光虫が2人の周りをとりかこむように舞う。

アーロンは、そっと光り輝く雫をすくい取った。







「……アーロンってさ、大人だよね」

「…………当たり前だ」

「でも、子供っぽいとこもあるよね」

押し黙るアーロンに、ふっと笑いかけた。

「…………倍くらい年が離れてるのに、こんな喋り方しても怒んないし。怖いかと思えば優しいし」

チャプン、と水がはねる。

「…………なんか、パパみたい」

サングラスがずり落ちる。

プッと真奈美が吹き出した。

「うそ、うそだってば〜!カッコイイよ!うん!」

顔に影が差したと思った。

気がつけば唇を塞がれていて。

抵抗すれば、無駄だといわんばかりに深くなる。

ようやく、唇を離したときには、の顔は真っ赤だった。

「…………娘にキスする父親がいるか?」

「…………いません…………」

紅潮した顔のまま、睨みつけるように見る。

「…………初めてだったのに…………」

ぽそりと呟いた言葉を聞き漏らさずに、再度顔を引き寄せキスをする。

「…………慣れるようにするんだな」

呆然としたままのを見て、ふっと笑うと体を離す。

「…………そろそろ行くか。あいつらが心配してるぞ」

頷き、水から足をひきあげ、サンダルを履く。

差し出された手を、照れくさそうに笑って握り締めた。

「………………そうだ。………笑っていろ」

「は?」

「何もない時は笑っていろ」

「泣けといったり、笑えといったり忙しいッスね……」

でも、ま。ととびきりの笑顔で。

「笑うことは嫌いじゃないッスから!」







あとがきもどきのキャラ対談



銀月「……突然、FF夢……しかも、アーロンさん……」

アーロン「…………………」

銀月「FFZをやるから、と探し始めた夢で、なぜかアーロンとサイファーにすっころんでいたり。Z関係ないじゃん!」

アーロン「…………………」

銀月「あ〜、大好きッスFF!多分、ちょこっとずつですが増えていくと……[、]が多いですけどね……というかサイファーとアーロンとティーダvv」

アーロン「…………………」

銀月「………あの、そろそろ喋って頂かないと……一応、対談なので………」

アーロン「……………言い残す事はそれだけか?」

銀月「………………ぎく。あの、アーロンさん、右手にお持ちになられているのは………」

アーロン「…………なんの変哲もない『正宗』だが」

銀月「き、斬られる〜〜〜〜!!!」