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キャンディ 甘酸っぱいレモン味のキャンディ。 甘い甘いミルク味のキャンディ。 あなたの恋は、どっちのキャンディ? 『真奈美~っ!男バス、負けたってっっっ!』 親友から電話が入ったのは、真奈美たち、女バスの試合が始まる丁度一時間前。 陵南高校のほとんどが勝つと思っていた、男子バスケットボール部。 そう思うほどの実力を持った集団だった。 (彰……負けちゃったのか……) ぼんやりとバッシュの紐を結びながら考えていた。 一週間前に、自分の彼氏になった人のことを。……まぁ、誰も知ってはいないが。 というよりも、付き合い始めても、どこもかわったところがないのだ。 (けっこう、へこんでんじゃないかな~?) 「真奈美!いくよー!」 考えが途切れた。 「いくよー?」 「はーいっ!」 二度目の先輩の声に大きな声で返事をして。 (そんじゃ、私が勝つしかないじゃないの!会場は違うけど、応援しててよね、彰!) 大きな荷物を抱えて、女バスエース、斎藤真奈美は立ち上がった。 「い~い?この試合に勝ったら、あんたたち、全国大会にいけるのよ?わかった?なにがなんでも勝ちなさい。それで、全国に行けなかった男バスに高笑いしてあげなさいっ!」 「はいっ!!!」 すばらしくそろった高い声。 陵南高校、女子バスケットボール部。 「絶対勝つよっ!」 「はいっ!」 キャプテンの声に、スターティングメンバーが気合の入った声で返す。 「じゃあ、今日も速攻からリズムを作ろうねっ!」 キャプテンの言葉に、わんやわんやと同意の声があがる。 「頼んだよっ!真奈美っ!」 「はいっ!」 ジャンプ力では誰にも負けない。……とはいって も、全国レベルで言ったら低い部類に入るであろう身長の真奈美は、今まさに目の前にいる全国レベルの身長の高さに圧倒されていた。 (で、でかい……勝てんのかな……) あまり、人をみあげることのない真奈美は、はじめて自分より目線が高い女の人を見た。嫌でも冷や汗がたれる。 「はじめるよー!!はい、動かないでねー」 レフェリーの声に、ぴたりとみんなの動きが止まる。 そこだけ時が止まったかのように、しんとなる。 ふっ、とレフェリーの手が沈んだかと思うと、ボールが高く空中へと上がった。 地面をぐっとふみしめて、ひざをまげて、空を飛ぶ。 高く、高く。誰よりも。 気づいた時には。 ボールをポンッとはじいていた。はじいた先には、陵南の先輩。 「いくよっ!」 試合が始まった。 止まっていた時がうごきだす。 試合開始早々、陵南の速攻が決まった。 わっと歓声が沸く。 「すげーぞ、あの10番!自分よりも10cm以上高い相手に余裕で勝ってるぜ!」 「すごいジャンプ力~っ!あっ!あの10番よっ!」 ふっと腰を沈めたかと思うと、真奈美は相手を抜き去り、持ち前のジャンプ力と高い打点で、相手の頭の上を軽々とこし……ボールをゴールへと沈めた。 「すげ~っ!なんか、すかっとするなぁ~っ!」 「ほんとっ!女子の試合のはずなのに、男子の試合見てるみたいっ!」 観客がそうこういっているうちに、真奈美にボールが渡る。 今度は、相手もしつこいディフェンスをしてくる。 「おぉっ!相手もすげーぞっ!やっぱ、決勝リーグは違うなぁっ!」 左へパスフェイクをして、ふわっと真奈美がジャンプした。そのままシュートにもっていこうとすると、まるでまちかまえていたかのように、相手も飛び、ブロックしようとしてきた。 しかし……真奈美のほうが一枚上手だった。 右手に持っていたボールを1回下に降ろして、左手に持ち替え、ぽんっと手首をつかってシュートを決める。 会場がしん、と静まった。 当の真奈美はというと、とんっ、と着地し、まるで何事もなかったかのように、キュッキュッとバッシュをならしながら、コートへと戻っていく。 それとほとんど同時に。 ぅわぁぁぁぁぁぁっ!!! 歓声が起こった。 「すげっ!ダブルクラッチだよっ!女子でできるやつがいるとは思わなかったっ!」 「すごーいっ!さらに左手にもちかえたわよっ!」 盛り上がる観客をよそに、真奈美は妙に青い顔をしているのだった。 (彰……あんたの技、使っちゃった。ごめん~。あんま、めだたないようにしてたのに……) 「真奈美っ!あんた、すごいことできんじゃないっ!なんで、もっとはやくやんないのっ!」 「え?え?あははははっ!たまたまですよ!たまたまっ!それよりもほらっ!先輩!きますよっ!」 「はいは~いっ!……でも、あの技、どこかで誰かが使っていたような……」 「さ~っ!がんばりましょうっ!」 (わ~ん……ばれたら、半殺しの刑だよ~) 陵南高校の人気の絶頂にいる仙道彰と付き合っている、などといったら、同じ部の後輩だろうと、まちがいなく半殺しにするであろうというくらいの人気の中に仙道彰はいた。 そんな真奈美を見守る男が一人。 息を切らせながら会場にたどり着いた真奈美の彼氏、 仙道彰だった。 (……俺の技、使ったな……もしかして……ばれたのか?) 一番後ろの席に腰を下ろす。 (いんや……それにしては、コミュニケーションがいい……ばれてないのに……あ、あいつ、ついついやっちまったか……そのせいでばれなきゃいいがな……) 仙道の心配をよそに、面白いように陵南……真奈美の得点が決まる。 (さすがの決勝リーグも、真奈美がいれば、ただの一回戦と同じか……) 事実、一回戦もこのくらいの時間にこのくらいの点差だった。 前半残り5分。 すでにスコアは45-8 この先何が起きようとも――― 勝利の女神は陵南に微笑む。 民衆の予想通り、決勝リーグ最終戦は陵南高校の勝利で終わりを告げた。 「さぁ閉会式よっ!あんたたち、胸張ってどうどうと賞状とトロフィーもらってきなさいっ!」 「はいっ!」 ぞくぞくと陵南の生徒がコートへと足を向ける。 「真奈美~っ!いくよぉ~?」 「あ、はいっ。先、行っててください」 「うん、わかった。じゃあ、コートでまってるからね」 「はい」 扉が閉められる。……なんか、きゃっという声が聞こえたような気がしたが……転んだのだろう。一呼吸おいて、またすぐに駆け出す足音が聞こえた。 その音をききとってすぐ、真奈美はふぅ~と息を吐いた。 (別に、先輩達が苦手なんじゃない……というか、むしろ好きなんだけど……やっぱり、息が詰まるなぁ~……) 二年にして、すでに神奈川に名声を広げている真奈美。もちろんその自覚はあるから、プレイヤーとしての態度……先輩への態度も気をつけなければならない。 はぁ~と盛大な溜め息をついて、リストバンドを握り締める。 小さいころにおそろで買った、ナイキのリストバンド。 (今日もおつかれさん。……彰、よくがんばりました) 真奈美は、今はいない仙道の想いをリストバンドにこめ、ぎゅっと抱きしめた。 「あいつ……へこんでるだろーなぁ………」 実は、仙道の心はとても義理堅い。事実―――去年、決勝リーグで負けた時はすごかった。 しつこいマークの末、わずか20点しかとれなかった(それでも、普通の人の平均なのだが)くやしさのためか、それから、一ヶ月間ほど夜中にシュート練習をしていた。 「しゃーねぇ……なぐさめにいってやるか……」 「誰を?」 突然の背後からの声。 「うぇっ?」 「……もーちょい、色気のある声だしてくれないか?」 仙道は、あきれた口調で言った。 「……だだだだ、出せるわけないじゃんっ!」 真っ赤になって振り返れば、すぐに抱擁が待っていた。 試合の後で、少し汗臭い体。紛らわそうとしたのか、柑橘系のコロンの香りもする。 「……せんどーくん?あの、苦しいんですけど……それに、私、汗臭いと思うんですけど……」 「真奈美のはへーきなの、俺」 なおも、抱きしめるのをやめない仙道。 「……彰……」 ぎゅーっと抱きしめられるのは好きではない。 けど、こんなにきつく抱きしめる時の仙道は……なにかに傷ついている。 助けてほしいと思っている。 慰めてほしいと思っている。 そんな時、仙道は必ず真奈美のところへ来る。 ……それは普段、仙道の仕事だから。だからまわりに、仙道を慰める人はいない。 そんな時、一番付き合いの古い、真奈美のところにくる。 一番、大好きな人のところへ来る。 「……よしよし、よくがんばったね……よく……がんばったよ……」 抱きしめ、真奈美の肩に顔をうずめながら、ふるふると頭を振った。 「……けど……勝てなかった……魚住さんたち……今日で……」 「なぁに?珍しく弱気じゃない。天才仙道君が……」 「天才なんかじゃない……結局、俺はなにもできなかった……魚住さんや、監督の期待にこたえることも出来なかった……どこが、天才だよ……なにがエースだよっ……」 仙道の言葉に、ゆっくりと真奈美は返す。 「……そうだね……彰は、天才じゃないもんね……天才なんて、いないもんね……彰……だから……泣いていいんだよ……」 ぽんっ、と背中をたたく。 やさしく、何度も。 「……真奈美……っ……」 よしよし、と背中をさすってやる。 しばらく時がたっただろうか。 真奈美は制服のポケットからキャンディを一つ取り出す。 「彰。はい、口あけて」 「?」 うっすらと目には光。 優しく微笑みながら、仙道の口にキャンディを放り込む。 「……あま……」 「はい……キャンディで、元気出して。明日からまたがんばらなきゃいけないんだよっ!魚住さんたちだって、彰には頑張ってほしいと思ってるよ。……来年こそはってね!」 「……」 「ほらほら……っ!いつまでしょんぼりしてんの、新キャプテンッ!」 耳元で怒鳴ると、仙道もさすがに手をゆるめた。 そのすきに、ふっと身を離すと、真奈美は上着を羽織った。 「そんじゃ、閉会式いってくるねっ!彰は私の勇姿をとくと見てなさいっ!」 「あのなぁ~」 仙道は、ふっと息をつくと、真奈美をぐいっと抱き寄せた。 「おわっ!?」 「……だから、もーちょっと……」 「色気のある声だせ……でしょ?どーせ……」 ふん、とすねて顔を背ける真奈美に、こちらをむかせて。 「……よくわかってんじゃん」 触れるだけのキス。 「////////あのねぇ~……」 「あれ?俺ら、恋人だよな~?」 あからさまにからかっている。 「だけどね~……ま、いっか……」 「よし」 もう一度。 今度はもっと深く。 「んっ……」 ふっと体が離れる。 「……彰っ」 真奈美が泣き声をあげる。 「おや?誰かとキスした事あんの?」 「そりゃあるさ~。高2だもん」 (……そいつ……いつか殺す……) 密に仙道の背後に黒いオーラがただよったのを真奈美は知っていただろうか? 「なぁ、真奈美」 「ん?」 「もう一回vv」 「えぇ~?」 「もーいっかい……」 口付け。 甘酢っぱいレモン味のキャンディ。 甘い甘いミルク味のキャンディ。 わたしたちの恋は、どうやらミルク味のようです。 後書きという名の言い訳 やってしまいましたよ……スラダンドリーム……。 しかも、仙道……じゃない仙道…… こんなの仙道じゃないっ! 私の中の仙道は、もっとからかい口調なんだぁ~っ! すみませんでした~っ!感想、意見などBBSやメールで受け付けてますっ! ↓は直後の話です…… ダダダダダッ!バンッ! 「真奈美っ!閉会式、始める……よ……?」 すばらしいラブシーンに直面。 「あ……すみません……って、真奈美っ!閉会式っ!」 「あっ、すみませんっっ!今行きますっ!」 ばっと離れて部屋を飛び出る。 「………」 「………真奈美……」 「……はい……」 「後で、くわしく話、聞かせてね……」 笑いながらも、そして、すでに疑問形でない事から、この後、仙道と真奈美へ質問の嵐が飛びかう事は、まちがいないだろう………… |