文化祭にて



先輩〜!明日の文化祭、どうするつもりですか〜?」

信長がスコアをつけている、海南大付属高校バスケ部マネージャー、に問い掛けた。

「ん〜、私ねぇ、クラスの出し物に出なきゃいけないんだよね〜……ノブは?」

「オレは、かたっぱしから食い物食うっす!……クラスの出し物ってなんすか?」

は、照れたように頭を掻いた。

「……劇」

「劇ぃ!?なんの劇っすか?」

「……美女と野獣……」

「まじっすか!?……なにやるんすか?」

は、真っ赤になって一回り小さくなった。

それをみた信長は、あ、と口をあける。

「……野獣?」

「んなわけあるかっ!」

は、スコアでポコンと信長の頭を殴る。

「いてて……冗談っすよ〜。……美女でしょ?そんくらい、わかってますって!」

「ありがとう……だけど、どこからそんなの聞いてきたの……正解だわ……」

信長は、えっへんとおお威張り。

「オレはなんでも知っているんすよ!カーカッカッカッカ!」

スッポコン!

「ノブ?はやく準備しようね?バスケ部だって、一応出し物するんだから」

ものすご〜くさわやかな笑顔の好青年だが、手には丸められた文化祭のプログラム。笑みを浮かべながら、渾身の力で殴る青年の姿は……かなり怖い。

「じ、じ、神さん……!」

「宗、ちゃん?」

は、同じクラスの神を、親しみを込めて『宗ちゃん』と呼んでいる。

声をかけられて、くるり、と向き直る神。

「それじゃ、またね、。明日の劇、楽しみにしてるよvv」

「あ、うん……じゃ、ね!」

神はにっこり笑って見送った。





ポンッ!ポポンッ!

打ち上げ花火が音を立てた。

「……去年も思ったけど……うちの文化祭って、派手……」

は呆然と打ちあがる花火を見た。

先輩〜!ビラくばり手伝ってくださいよ〜!」

信長が、紙の束を持って怒鳴る。

「はいはい……ノブってば、またじゃんけんで負けたんでしょ〜?」

誰もが認めるほど……信長はじゃんけんが弱い。ぷぅ、と頬が膨れる。

「……そーっすよ!でも、先輩だって、ビラくばってんじゃないっすか!」

「これは、マネの仕事よ。……ほら、手が止まってる!」

「は〜い……バスケ部に来てくださ〜い!フリースローゲームやってま〜す!部員に勝てた人には豪華プレゼント付きで〜す!ぜひ寄っていってくださ〜い!」

「やる気ないなぁ……あ、バスケ部に来てください!フリースローゲームやってますよ〜!」

は、極上の笑みを浮かべて、通り行く人にビラをくばる。

ふっと前を見ると、影が差した。

「君、バスケ部のマネ?」

がかなりの角度で前、というか上を見ると、ツンツン頭の大男が立っていた。

「……そうですケド……?」

「わぉvvすんげーかわいいじゃん♪名前は?」

です……あの、どちら様で……?」

おそるおそる聞いてみると、隣から信長の叫び声が帰ってきた。

「あ―――!仙道!」

「へ?陵南高校の?」

一人は叫び、一人は困惑の顔。……しかし、当の本人はさも関係なさそうに質問を重ねる。

「そ♪ねぇ、何年?」

「え?二年……」

「オレとタメかぁ〜。あ、知ってるみたいだけど、一応言っとくね。オレ、仙道彰。陵南高校の二年。よろしく♪」

「はぁ……」

ふっと、信長の意識が戻る。

「くぉら、仙道!オレの先輩になにしーやーがーる!」

は、ビラでポコンッと信長の頭を殴った。

「誰が、ノブのよっ!誰が!」

「い、いてーっす、先輩……」

それを見た仙道は、にんまりと笑った。

「ふ〜ん……そんじゃ、オレがもらおうかな♪チャン、文化祭はどうするつもり?」

「えっと、私、3時から劇があるんで……それまでは、バスケ部のビラ配りと受け付けで……」

「劇?なんの?」

「……美女と野獣です……」

へぇ〜、と仙道は呟いた。

「……美女だろ?」

「な、なんで知って……!」

「あ、当たり?やったー!オレ、絶対見にいこーっと♪」

「な……」

(は、はめられた……)

はどんよりと思った。

ちなみに信長は、

(これがナンパ師の手口か……メモっとこ♪)

と思っていたらしい。

「ねぇねぇ、その後、オレに付き合ってくれる?」

「……え?」

「おっけー?やった!それじゃ、劇が終わった後、迎えに行くから!じゃーねっ!」

「え、え、えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「くぉら、仙道―――!」

二人の絶叫が空に響く。





『ピンポンパンポーン♪……3時より、講堂にて2年A組の劇が始まります。演目は、美女と野獣。どうぞお越しください。繰り返します。3時より……………』

飲食店にて―――

「お、そろそろか……それじゃな、お姉ちゃん達♪」

「えぇ〜、仙道くん、もう行っちゃうのぉ〜?」

「悪いけど、これだけは譲れないんだな」

体育館にて―――

「お、が出る劇だな……早く片付け終わらせろ!でないと、マネージャーの劇が見れなくなるぞ!」

「「「「「「はい!」」」」」」

校門前にて―――

「お、先輩の出る劇だ……もうビラなんていいよな……そんじゃ!」





講堂にて―――

「……うわぁん、〜。助けてぇ〜……」

ベシッと台本が投げつけられる。

「今更そんな弱気でどうするの!ほら、時間よ!『美女』を演じてきなさい!」

「わわわわっ!」

ぽいっと舞台袖に投げられる。

それと同時に、ビ――――と開幕のブザーが鳴る。

「わわわわわっ!せ、せ、セリフ〜〜〜!」





「大丈夫、野獣さん」

順調に劇は進んでいく。

すでに物語はクライマックスだ。

は、最初こそ緊張で声が通らなかったものの、今は美しい声音で観客を魅了していた。
もちろん、容姿でもだが。

『美女』、は美しいブルーのドレスに身を包み、野獣とダンスを踊っている。

その美しさは、観客の心を(特に男の)わしづかみにした。

物語の最終場面、『美女』が野獣にキスをする。もちろん、振りだ。

「野獣さん……」

潤んだ瞳で上目遣いの彼女に、観客は、ゴクッと生唾を飲んだ。

は目を閉じた。

ふわっ……

唇にやわらかい感触。

「……!?」

おそるおそる目を開けてみると、そこにはさわやかな笑顔の神が立っていた。

「??????」

ちなみに彼は、野獣の役ではない。

「ベル……」

混乱するを放って、神は、軽々と抱き上げると、ささやいた。

「あなたを、愛しています……」

ちゅ、ともう一回今度は、頬にキスをする。

「?????」

観客内でざわめきがおこる。

『今、本当に……やったよな?』

『ちゅ、って音が……』

、セリフ……」

神の言葉に、が我に返る。

「あっ……コホン……私も、です……私も、愛しています……」

とりあえず、微笑んでみる。

わぁぁぁぁぁ!

観客から、歓声が起こった。

きゅっと神はもう一度を抱きしめる。

その格好のまま、幕はするすると下りた。

「おつかれ、!……と神君!」

が近寄る。

「おつかれー!カーテンコール、出るよね?」

「もちろん!……と、?大丈夫?」

「……あ、あのさ、……なんで、宗ちゃんが野獣の役なの???」

神はにっこりとに微笑んだ。は、そのまま硬直する。

「いや、ね……ほら、野獣は色男だって言うし、神君がぴったりだから……ね?」

「あ……うん、で。宗ちゃん……キス、した?」

「うん」(アッサリ)

「??????えぇぇぇぇぇぇぇ!?」

「あ、カーテンコールだ。出るよ?」

がずるずると引きずられる。

「大丈夫。舞台で言ったことは、みんな本当だから」

「へ?どーゆー……」

「幕、あけるよ―――!」

舞台装置の人の声に、はハッと口をつぐむ。

わぁぁぁぁぁぁ!

幕が開くと、歓声が上がった。

主役がひとりずつ前に出て挨拶して、左右に分かれる。

一番最初にが前に出て、ドレスの裾をつまみ、挨拶すると男の声が更にすごくなった。

「うぉぉぉぉ〜!ベル〜〜〜!」

……こんなすごい声援も聞こえる。

が左に行くと、今度は野獣役だった、クラスの男子が右に行く。そして、野獣2の、神が前に出る。

観客席に、仏頂面の牧と、口を『あ』の形にしたままの信長、そして、驚愕の顔の仙道を見つけると、にっこりと微笑んで口パクで言った。

は、僕のです。手出しは、一切認めませんからねvv』





さて、文化祭も終わり、は、神と帰宅の道に着いていた。

「ねぇ、宗ちゃん……私、劇中に、宗ちゃんがとんでもないことを言ったような気がしたんだけど……?」

神は、にっこり微笑んでいった。

「そう?に僕の常々思っていたことを伝えただけだよ?……愛してるってね♪」

「……えぇぇぇぇぇ!?」

飛び退ろうとするの肩を、がしっと押さえつける。その細い体のどこにこれだけの力があるのか、と思うほどに、強い力だった。

「さて、想いも伝えた事だし……うちに来るよね?あ、朝までいていいから♪電話、しとこうか?楽しみだなぁ♪」

は固まった。そして、頭に浮かんできた言葉は―――

『ブラック神、降臨―――』





あとがきもどきのキャラ対談



 神「…………(ニコニコ)」

銀月「…………(にこにこ)」

 神「…………(ニコニコ)」

銀月「……あの、神さん……怖いんですけど……その、『ニコニコ』ってのが……」

 神「あれ、銀月、何か僕を『怖がる』ような『こと』を『した』の?」

銀月「………………すみません(ペコリッ!)

 神「すみませんですむんなら、警察はいらないんだよ?」

銀月「はい…………(ビクビク)」

 神「まったく……偽美女と野獣はするし…何考えてるんだろーね?」

銀月「はい……おっしゃるとおりです……」

 神「まったく、しょーがないなぁ……、こんなの放っておいていいからさ、僕の部屋に行こう?」

銀月「……感想等は、掲示板かメールでおねがいしますね♪」