日の光に透けて見える髪の毛。 真っ白い肌。 憂いを帯びた瞳。 切なげにもれる溜め息。 どの角度からみても絵になるその姿に、教室中の誰もが釘付けになっている。 しかし、その中でただ1人、固まっている集団の中から逃げるように人の間をかきわけて外に出て行く者がいた。 藤真はふっと視線をそちらに向ける。女子生徒4人が倒れた。 外に出て行く人影を見つけると、カタン、と静かに席を立った。 サラリ、となびく髪。女子生徒3人が鼻血を出した。 静かに教室の外へ向かう。すれ違いざまにぶつかり、「ごめん」と呟かれた女子生徒は、後でタコ殴りにあっていた。 教室を出てあたりを見回すと、体育館の方へ歩いていく目標を発見。 コンパスの長い足ですぐに追いつくと、肩をたたいた。 くるり、と向けられた顔が凍りつく。 「…………健司さん…………」 学校中のアイドル、藤真健司は。 「逃げるなよ、バカ」 にっこり微笑んで突き刺さる一言を言い放ちました。 微妙なカンケイ 「……なんで逃げるんだよ、」 「に、逃げてなんかございませんことよ。えぇ」 「嘘付けよ。なんでHRが終わったとたん、すぐ外行くんだよ」 「そ、それは早く体育館へ行って部活をしようと思ったからで……」 「そんなの、オレと行けばいいだろ?」 は、深く深く溜め息をついた。 「……そーですね……」 「ん。じゃ、行くか」 鞄をかけなおして、再び歩き始める。 藤真健司は、学校のアイドル。 その美貌とバスケの技術は翔陽高校以外にも広く伝わり、彼が毎日乗る電車の乗車率は150%を越えるという(特に彼の周りのスペースは熾烈な争いだ) しかし、この彼。幼なじみの(恋人でないところがミソ)がいたくお気に入りで、彼女を片時も傍から離そうとしない(彼女が女バスなのも彼の所為) しかし、まぁ……それが周囲の反感をかうのも事実なわけで……。 は無用な争いは極力避けようと、彼から離れようとしているわけだ。 しかし……独占欲の強い彼が見逃すはずがなく、現在にいたると。 「……そろそろメンバー表提出しなきゃなぁ」 憂鬱そうに呟く藤真。その口調から、監督という重責がどれだけ大変かわかる。 「男バスは大変だねぇ……毎年、代々のキャプテンが監督して。……新しい監督、雇えばいいのに。学校側だってそれくらいの予算、出してくれるよ」 「あぁ……まぁそうなんだけど、やっぱ代々の伝統は受け継がなきゃな……というか、キャプテンが監督をすることによって、統率力も高まるし」 「ふ〜ん……そんな男バスからみると、女バスなんて蟻みたいなもんだろうね……」 「そーでもないぞ?ここ数年は成績も良くなってきてるし……が頑張ればもーちょいいいとこまで行くんじゃないか?」 「とんでもございません。ワタクシはそれほどいいプレーヤーでは……」 「いいプレーヤーだよ。俺が言うんだから、間違いない」 断言されると恥ずかしい。真っ赤になって 「……あ、そですか……」 とだけ呟いた。 更衣室の前までくると、どちらからともなく向き合った。 「「……じゃ、頑張れよ!」」 ハモってからそれぞれの更衣室へ向かった。 「……ん〜……今日も女バスは終わるの早いな……」 もう1つの男バス専用体育館が騒がしいのを聞いて、はコキコキと首を回した。 以外の部員は帰ってしまっている。 先に帰ることを認められていないは、1人体育館でシューティングをしていた。 「…………さん」 後ろから呼ばれた声に、ぎくりと身を強張らせる。……しかし、それは一瞬だけで、すぐには息を吐いて振り向いた。藤真のときとは違う緊張をする。 5人の女子生徒が立っていた。 (昨日とは違うメンツだ……しかも同級生?) などと、呑気に考えているうちに、相手はぺらぺらとしょーもないことを話す。 いわく、藤真に色目を使ってるのが許せない、いわく、幼なじみとしての立場を悪用している、いわく、藤真を独り占めしているetc... (そんなの私のせいじゃねーっての) と心の中で激しくツッコミながら、たらたらと長い話を聞いている。 「……そういうわけだから、藤真くんに近寄らないで!」 最後に、生まれてから1番聞かされているであろうセリフを言われると、は長い溜め息をついた。 「…………いいたいことはそれだけ?」 「なっ、なによ」 「シューティングの邪魔なんで帰ってください。それと、床が痛むので上履きで体育館にあがんないでください。それじゃ」 わめこうとする生徒を無視して、シューティングを再開する。 いつものパターンだ。昨日もこれで帰った。 フリースローラインに立って、シュートを打とうとする。構えてジャンプした瞬間に、後ろから衝撃があった。 「!?」 ぐらりと揺れて、着地に失敗する。ゴリ、と嫌な音がした。 「……いっつ……」 足首を抑えてうずくまる。完璧な捻挫だ。押した女子生徒は、ふんっと鼻を鳴らしてぱたぱたと出て行った。 ポツリ、と涙がこぼれた。 痛い。 足はバスケの命なのに。 なぜこんなことまでされなきゃいけないのか。 藤真と仲良くて何が悪い。 4歳からの想い人だ。仲良くしたいと思ってなにが悪い。あんたたちと寸分違わない気持ちなだけなのに。 ぐい、と涙を拭うと、痛む足を引きずって、バケツに水をためて足をつけた。 腫れている足首。……全治2週間というところか。でも、テーピングをすればなんとかなるかもしれない。 火照った体の所為で、水はすぐにぬるくなり始めたが、水を替えようとする気力はハッキリ言ってなかった。 「……あ〜ぁ……また健司に怒られるよ……もう、帰っちゃおうかなぁ」 誰もいないのに言葉が出てくるのはさびしさからか、悔しさからか。 「……帰っちゃおう」 簡単なテーピングをすると、手早く着替えて学校を後にした。 足をひきずりながら、電車に乗る。踏ん張ると痛みが走って、顔をしかめた。 チャラリラリラ……と電車の発車ベルが鳴るのを聞きながら、明日はなんていいわけをしようなどと考えていた。 ドアが閉まる直前、それをこじ開けるようにして入ってくる人がいた。 (駆け込み乗車は危ないのに……指はさんだらバスケできないよ) ぼけっとそんなことを思っていると、その人物が目の前まで来ていた。 「…………は?」 「……『は?』じゃないだろ、『は?』じゃ。ったく、先帰るんじゃねーよ。余計な汗かいた」 「いや……あれ?練習は?」 「もう終わったよ。何時だと思ってんだ?」 携帯を見てみる。……なるほど。 藤真は目の前の空いている席を指差すと、 「ほら、座れよ」 「え……健司座っていいよ。疲れてるでしょ?」 「バカ、怪我人よかマシ」 「へ?……なんで知ってるの?」 「おまえの事なら何でもわかる」 そんな目で見られたら、どっくんと心臓が高鳴る。 「……なんて嘘。足引きずってンの、後ろから見えた」 「そーッスか……」 「ほら、座れよ」 「……ありがと」 怪我した理由は、絶対言わないでおこうと思った。 翌朝。 「…………健司クン?どこに行くの?」 腕をつかまれて、引きずられながらは問う(足を気遣ってスピードは遅いが) 「3―Cの教室」 「私たちは3―Aだよ?」 無視して3−Cの教室に入る。美貌の王子の登場に歓声があがった。 「……おい」 ビクッと体が揺れる女子生徒たち。 ……昨日の女子生徒だ。 「け、健司さん?」 目がかなりすわっているので、少し離れる。 と、肩をぐいっと捕まれた。 「オレとこいつは付き合ってるんだから、余計な真似すんなよ」 ドスの聞いた低い声で、しかしハッキリと宣言する藤真。 を含め、その場にいた全員の目が点になる。 「えぇ〜〜〜〜!?」 ……その日、翔陽高校が揺れた。 それだけ言い終えると、藤真はまた手をひっぱってを屋上へ連れて行く。 「……ちょ、ちょちょちょちょ、ちょっと、藤真健司さん!!」 「なんだよ」 「いつからワタシタチは恋人どーしという関係に!?」 「あ?……結構前から?」 「し、知りませんけど、ワタクシ―――!って、健司、本当に恋人の意味わかってる?変人じゃないんだよ?」 「わかってるよ、バカ」 唇に暖かい感触。真っ白になる。 「……おい?」 ぺちぺちと頬を叩かれて正気にもどると、顔を真っ赤にして、叫ぶ。 「バカはそっちだ――――――!!!」 地球を揺るがす叫び。 「なに?……俺のこと嫌い?」 「いや、それは……」 「んなわけねーよなぁ?4歳の時に告白されたの忘れてねーぞ」 「んなっ!!!!」 「……ちなみに、俺、独占欲強いから、絶対はなさねぇからな」 ぱくぱくと口を動かす。 (いや、それは知ってるけども!かなり前から知ってたけども!) 付き合っている想像をしてみる。 仲良く話す図。……とそこに割ってはいる女子生徒その他諸々。 睨まれる。 答え=明日からまた周りの目が厳しくなる。 避ける方法 藤真から離れる。 答え=無理。 「神様なんて嫌いだ―――!!!」 納得できない答えに、宇宙を揺るがす叫びをあげた。 |