「あぁぁぁぁ!!!何これぇぇぇぇ!!!」

そんな絶叫が、南スラム中に響き渡った。



24:「ごめんなさい、がやりました」



「ど、どうしたの!?」

ずぅぅぅぅん、と暗い面持ちで私は声の主を見上げる。リプレがびくっとおびえて後退した。

「………………?」

恐る恐る、といった様子で、リプレが私に声をかけてくる。
そして、私の手に握り締められたものを見つめ、ハッと気づいた。

「そ、それは…………!!」

そう。この紙切れ。
実は…………。

「……な・ん・で、こんなものがあるのか、ちょぉっと教えてもらいたいなぁ?」

笑顔で私はリプレに近寄った。

そう、この紙切れは、私がカノンにスカートを履かせられたときの姿を写した、『写真』だったのだ(しかも、明らかに隠し撮りで、カメラ目線がない)

あの時のことは、私とカノン、それにオルドレイクとアシュタルしか知らないはずなのに!!!

誰が、こんな私の生き恥を晒したのデスカ!?

「さぁ、リプレ。教えてくれるよね?」

あくまで優しく私は言ったつもりなんだけど、リプレは顔を引きつらせてしまった。

「あ、そ、それは…………あっ、ガゼル!!ちょっと、ガゼル!!」

ちょうどふらりと現れたガゼルが、こちらに向かってきた。

「おう、。さっき叫んでたろ、お前」

「あっ、私、お料理の途中だったんだ。ガゼル、後は任せたわよ!」

そう言って、すばらしい速度で去っていくリプレ。私は聞く相手をガゼルに切り替えた。

「ガゼルくん?…………あなた、写真のことについて、なにか知ってない?」

「写真?…………あ」

「なにが、『あ』なのさ、なにが!!」

ガゼルはだらだらと変な汗をかきながら、あらぬ方向を見た。

「いや、なんつーか…………あれは、まぁな…………みんなで見て楽しんでたって言うか……」

楽しんでた!?楽しんでたって言いましたか、アナタ!!!
人の不幸がそんなに楽しいか―――!!!!!

「いくら似合わないからって、みんなして大笑いして楽しむことないでしょ―――!!!」

「ち、違っ!!」

「なにが違………「あぁ?んだ、コレ」

ひょいっと後ろから私の手の中の物が取られた。
こ、この声は…………。
そして、この人が持っている紙を、後ろからひょいっと取っていく行動は…………。

ガゼルがそそくさと逃げ出したのを横目で見ながら、ゆっくりと振り返った。
思ったとおり、そこにはバノッサがくしゃくしゃになった写真を広げて、バッチリ見ていた。

「………………(ニヤ)」

「………………(ヘラ)?」

…………………………

「わははははははははは!!!!!!」

「笑いすぎ――――――!!!」

思わず突っ込みを入れながらも、私はバノッサの手から写真を奪おうと手を伸ばした。

スカッ。

「〜〜〜〜〜〜〜〜!!!誰だ、こんなことしたの〜〜〜!!!」

バノッサは写真を持ったままひらひらと手を振るから、写真が回収できない!!!

「またこーゆーカッコしてみろよ」

「もうしない!絶対しない!」

人が悶えてる隙に、バノッサはさっさと去ってしまう。
とともに、静かになったおかげで、小さな物音も聞こえてきた。

「え…………見たいなぁ……のスカート、可愛いと思うんだけど」

「あぁ…………僕としては、もっとスカート短くてもいいけど?」

「おいおい、トウヤ、変態かよ…………オレは、膝丈くらいで、お嬢ぶったのも好きだけどな」

そう。ぼそぼそと話す声が、物陰から。

「…………………そこかぁぁぁぁぁ!!!!」

柱の影に向かってスリッパを勢いよく投げつけた。
ベシッと音がして、ズルズルと柱を滑り落ちていく。

「…………さっさと出てきなさい?ハヤト!トウヤ!!ガゼル!!!」

「バレバレだし…………」

「当たり前!聞こえてるって!…………さて、みなさん、ちょいとそこにお座りなさい」

ちょこんと、ハヤトたちが正座をする。…………やばい、可愛い……んだけど、今回はダメ。

「さぁって、全てどーいうことか、吐いてもらおうかな?」

「全てって……」

「写真を入手してからその後までの経緯、全てよ!」

「………………偶然トウヤが街でを見かけて……撮ってきたんだったよな?」

「いやぁ、大変だったよ。急いでカメラを買っちゃったし。…………ついつい、可愛かったから」

「……で、みんなでもこーゆーカッコ、似合うなぁってみんなで……」

「見え透いたお世辞をありがとう。みんなってどのみんな?」

「え……シオンさんとか、それこそみんな。噂聞きつけて、みんな来たから」

「ちなみに、お世辞じゃないよ?」

「…………トウヤの笑顔に騙されるもんか……」

ニッコリ笑うから、疑いたくなるんだよ、君は!!

「で!!!…………誰だ、その写真をばら撒いた張本人は!!」

「え…………」

ガゼルがピク、と動いたのを見て、私はすぐに反応。

「ガゼル!!お前かぁぁぁぁ!!!」

「ち、違っ!!!違う〜〜〜!!!」

「わあぁぁぁあぁ!!!ごめんなさいぃぃぃ!俺がやりましたぁぁぁぁ!!!」

ガゼルの横で騒ぎ出したハヤト。
私はガゼルの首を絞めかけてた手を外して、ハヤトに向き直る。

「いや、バラ撒いたって言うか……みんな、欲しいって言うから………ご、ごめ」

「ふふふ………そっかぁ…………」

ニコッ。

ハヤトの顔が、青く染まる。

「ハヤト、そぉんなに自分が可愛くないかぁ……うふふふ……」

「な、なに?」

「プリーツスカートとロングスカートどっちがいい?今ならお好みで、着せてあげるよ」

「き、着せて……!?え、俺が!?」

「それ相応の罰はしないとね!!!」

さぁさぁさぁ、と詰め寄った私の腕を誰かが止める。
…………この誰かなんて、もうわかりきったことだ。

「バノッサ!止めるな!!!」

「アホかオマエは!野郎の女装なんか見て、何が楽しいんだ!」

「うるさい〜〜〜!!!じゃあ、私の女装なんか見て、何が楽しいのよ!?」

「いいじゃねェか、減るもんじゃねェし!」

「減るんだったら減って欲しいよ!この贅肉とか贅肉とか贅肉とか!!!」

2人で言い争いを続けて、息が苦しくなったころ、気づく。

「あっ!あいつら逃げた!!」

「………………フン。帰るぞ」

「へ?…………そーいえば、なんでバノッサここにいるの?」

「…………」

なんだよ、黙り込んで。気になるじゃん。

「…………たまには南にも来てみるもんだな。珍しいもんが見れた(ニヤリ)」

「!!!!!ムカツク、美白大魔王〜〜〜!!!」



そーいえば、あの写真はどこへ…………?処分しとけばよかった。

答え:バノッサの懐の中。

「………………こんなもん、他のヤツらの所に置いておけるか」

でも、実はこれ、すでにみんな持っていたりして(笑)